- 阿川
- 田んぼのカエルの話、ご存知ですか?
- 糸井
- 知らない、知らない。
いいですねえ、田んぼのカエル。 - 阿川
- ジャズサックス奏者で
ミジンコ研究もなさっている坂田明さんの師匠、
日高敏隆先生に聞いた話なんですが。 - 糸井
- あぁ、動物行動学の先生ですね。
お会いしたことがあります。 - 阿川
- その先生、もう亡くなられましたが、
本当におもしろかったんです。
私がはじめてお会いしたのは
坂田さんのミジンコ学会兼ジャズライブでしたが、
そのときの基調講演で先生がお話をされて、
生物のほとんどは
セックスのことしか考えてないという話からはじまって、
田んぼのカエルはなぜ鳴いているか
という話をされたんです。 - 糸井
- メスを呼ぶため?
- 阿川
- そうそうそう。
グァグァグァグァグァグァと鳴いているのは、
全部オスなんです。
メスは一切鳴かずにその声をずっと聞きながら
どの男がいいかを選んでる。 - 糸井
- 声で?
- 阿川
- はい。声が太くて安定している声のオスが
モテるそうです。 - 糸井
- 「歌がうまい」みたいなことですね。
- 阿川
- ええ。
高い声とか細くて不安定な声を出すカエルは
「これはオスとしてダメだ」とメスに思われてしまう。
声が低くて太いオスは
丈夫だったり体自体も大きかったりで
遺伝子的に質が高いってことになるんだそうです。
それで声を聞いて「このオスがいい」と思ったメスは、
自分から近付いていくんですって。
だけど、オスのほうも、みんなで鳴いていると
「どうも俺はモテない」ということに
気付くオスがいるんだそうです。
この声じゃどうも無理だと思うと
サッサと鳴くのをやめて、
モテそうなオスの後ろに待機する。
そして、モテそうなオスにメスが近寄ってきて、
「あんたがいいわ、ゲコッ」という態度をメスがとるや‥‥
(ここで突然メスガエルの真似をする阿川さん)
- 糸井
- モノマネをしたんですか、いま(笑)。
- 阿川
- まあね。
で、近づこうとしているメスに
後ろから乗っかって奪うの。
これを「間ガエル」というそうです。 - 糸井
- ああ‥‥!
- 阿川
- いい話でしょう。
- 糸井
- いい話だ。
あれですね、バンドマネージャーが
一番悪いことしてるという例ですね。
「バンドのメンバーに会えますよ。
こちらです、こちらです」と誘って、
「‥‥こちらには、俺がいるぞ!」
というパターン。 - 阿川
- (笑)
モテるためにはいかなる手を使うか。
「モテないということを
まず自覚していなければいけない」
という教訓ですかね。 - 糸井
- カエルの話、いいですね。
- 阿川
- 間ガエルの話、好きなんです。
- 糸井
- トンボなんかは‥‥
- 阿川
- あ、来たぞ。
トンボは? - 糸井
- トンボには、
しっぽの先だと思うんですけど、
トンボのブラシというのがあるんです。
で、おへそのあたりに
ちょっと穴が開いてる場所があって、
そこが生殖器なんです。
そこにオスが植えつけるんですが、
あとから行くオスのトンボは、
あらかじめブラシで
前のをかき出してから、親しむらしいです。
だから、かき出すということまで
計算に入ってるんですね。
それくらい、生殖競争がすごいんです。 - 阿川
- それは人間でも同じというか‥‥
なんだか、具体的になってきましたが(笑)。 - 糸井
- 人間も。
このラリーついでにオマケで言うと、
人間の女性がその最中に声をあげてしまうというのは
競争相手を募集しているという説があります。
つまり、「私はここで生殖中です!」って。 - 阿川
- 本当ですか(笑)。
- 糸井
- あんなに安全が必要な状態で、声を出す、
つまり安全を妨げるようなことをするというのは、
「皆さん、これからまだまだ私は元気です!」と
立候補しているということらしい。
「皆さん!」 - 阿川
- 「私はいま、女ざかりですよ!」
- 糸井
- 「私は元気です。
落ち込んだりもしたけれど!」 - 阿川
- 「きょうは会社休みます!」って(笑)。
- 糸井
- で、男のほうは、安全を守りたいから
あたりをうかがいたいんだけど、
女性のほうは、選挙の最中。
マイクを持って
「皆さん、阿川佐和子がまいりました!
阿川佐和子がまいりました!」(笑)。 - 阿川
- 声の高い人と低い人、そのへんの個体差は‥‥。
- 糸井
- ま、あるでしょうし、
だいたい動物軸だけで人間って
動いているものじゃないので‥‥
社会軸と動物軸とのバランスがありますから。 - 阿川
- そりゃそうですね。
- 糸井
- だから、立候補してても、静かに
「阿川佐和子でございます」
というのもあるでしょう。 - 阿川
- (笑)
サルの話、いいですか。 - 糸井
- サルの話、いいですね。
- 阿川
- これは有名な話ですけど、
多摩動物園の中川先生と対談したとき──
相当昔の話なので、いまは違うかもしれないし、
ニホンザルだったかチンパンジーだったか
はっきりしないんですけど──、
動物園にいるサルというのは、
だいたい子ザルのときに
母親と引き離されて育っています。
思春期になると、
オスザルは「その気」になってくるんですが、
年頃だからといってメスザルを近づけると興奮して、
「ギュハー! ガー!!」
(猿の真似をする阿川さん)
となって、メスを殺しちゃったりする。
- 糸井
- 阿川さん、いま‥‥怖かったですよ。
殺されちゃうかと。 - 阿川
- どうしてそうなるのかというのが
長らく分かっていなかったんですけど、
どうも、性教育をしていないからではないか、
ということに考えが至ったそうなんです。
要するに精神と肉体はその気になっているんだけど、
メスに対して、なにをどうしていいかがわかんないから、
暴れることしかできないのではないかと。
一方で野生のサルはどうしてるかというと、
母親のサルは、赤ちゃんを
お腹に抱っこして動きますよね。 - 糸井
- はい、お腹に赤ん坊がくっついてます。
- 阿川
- そう、お腹に赤ちゃんをくっつけているんだけど、
オスはそんなのおかまいなしに近づいてきて、
後ろからマウンティングする。
そうするとメスは、それを受け入れるわけです。 - 糸井
- 次の赤ちゃんを作るために。
- 阿川
- はい。そうすると体が揺れます。
そのとき、お腹にくっついている赤ん坊としては、
「あ、大人になるとこういうことするんだ」
ということを学ぶんだそうです。
だけど、動物園に来た赤ちゃんは、
そういう経験をしてないので‥‥。 - 糸井
- ほう!
- 阿川
- それで困っちゃって、
中川先生は、動物園のサルに
ビデオで野生のサルの生態を見せて
学習させたということです。 - 糸井
- うまくいったという話なんですね。
- 阿川
- 多分、そうでしょうね。
- 糸井
- つまりサルがビデオを見て、
なにかこう、類推して感じるものが
あったということでしょう。
サルの話もそうですが、
人間でも、
「知らないことになっている
知っていること」
というのはいっぱいありますね。 - 阿川
- と言うと?
- 糸井
- ‥‥どう言ったらいいかな、
境界線ってあるじゃないですか。
「あなたと私はいまお話をしています」というのと、
「お話以上になります」というものの
境界線がありますよね。
そこにドアが開いてたとしたら、
お話してる場合にはそのままでいいけど、
でも、お話以上という場合には閉める必要がある。
で、そこ閉めるか閉めないかって
誰も教えてくれないんです。 - 阿川
- ああ、そうですね。
- 糸井
- つまり閉めないとはじまらないんですよ。
開けっ放しにしてたんじゃ
なにも起こらないんで、閉める。
で、閉めたときにはもう、
「そのつもりなのね」ってことじゃないですか。
- 阿川
- 合図なんですね。
- 糸井
- 合図ですよね。
歌詞にもある「二人でドアを閉~めて~♪」です。
でも、「閉めます」という合図を
はっきりさせなければ、たとえば
「ただトランプをしてたんです、私たち」って
いうことになりますよね。
そこを教えられてるか、教えられてないか、
わかってる、わかってないの、
ものすごいグレーゾーンです。
そこに小さいときから興味があって。
閉める要素と閉めない要素が人には両方あるんです。
なんで後ろ手に鍵を閉められるんだろうという、
その自信も不思議だし。 - 阿川
- (笑)
- 糸井
- もちろん、閉められない人もいます。
でも、ドラマの中で閉めないほうの人は
出てこなくって、
だいたい、閉めるシーンになるんです。 - 阿川
- なんででしょうかね。
- 糸井
- よくわかんないんですけど、
でも、現実には閉めないほうの人も
いるんだよってことを思ってたら、
それが「草食男子」と言われるようになって。 - 阿川
- ほおほお。
- 糸井
- 草食男子はきっと「閉めないほう」で
ずっときてるんですよね。
「鍵閉めない部」(笑)。