- 阿川
- 伸坊さんはどういうタイプなんですか?
- 糸井
- 伸坊は昔、短気だったらしいんです。
- 阿川
- あ、聞いたことあります。
髪型もなんか攻撃的な感じで、
長かったんでしょ? - 糸井
- そう、反体制みたいな。
- 阿川
- 反体制系。
- 糸井
- 「反」という言葉って、
なにかに対して力でぶつかろうとする感じだけど、
伸坊の場合、
「それはなんか違う気がする」というのだけで、
別に体当たりじゃないんですよね。
「ただ、いやだな」というのを表しているだけ。 - 阿川
- 意思表示だけ。
- 糸井
- でも、人とぶつかっちゃうことがあったときに、
どういうふうに伸坊が怖かったかって話を
赤瀬川さんがしてましたけど。 - 阿川
- ああ、赤瀬川原平さん。
- 糸井
- 赤瀬川さんが酔っ払いに絡まれたときに
伸坊がものすごく正攻法で言い返しちゃって、
赤瀬川さんがすごくドキドキしたんだって(笑)。
「南はそういうとこあるんだよね。
南といると、そういうところが怖いんだよね」
そんなふうに赤瀬川さんが言ってたら、
伸坊が「アッハッハッハ」と笑いながら
「赤瀬川さんは気が弱過ぎるからそう思っただけだ」って。 - 阿川
- その話を聞いて思ったんですけど、
男の友達同士って
お互いに全然キャラが違ったり、
気の長さ、短さというのが違ったりしていても、
「こいつは生涯、許す」というか、
なんかそういう関係じゃありませんか? - 糸井
- いいところを聞きますね、本当に。
その話はいくらでもおもしろくできます。 - 阿川
- あ、本当に?
- 糸井
- (「ほぼ日」乗組員のほうを見て)
みなさん、こうですよ。
こういう質問をすべきなんです。
- 阿川
- いやいや、ただ、男同士の友情っていいな、
うらやましいなと常々思っていたもので。 - 糸井
- たしかに男友達で
「俺らはそっくりだな」と言ってるケースは
僕にはちょっとわからない。
「全然違うんだよ」って友達のほうが
多いかもしれないです。 - 阿川
- やっぱり?
- 糸井
- やっぱり。
「真逆だね」という
友達のほうが続きます。 - 阿川
- たとえば糸井さんの場合、
真逆だとどんなタイプの人? - 糸井
- ものすごく喧嘩っ早いとか。
- 阿川
- ああ。
- 糸井
- たとえば‥‥ある友達は、
いい年して靴の先に鉄板を入れてるんです。
「急に踏まれたとき危ないから」と言うんです。
誰かが、なんでもないかのようにスッと寄ってきて、
ガーンと足の先を踏まれると、
「すっごく危ないから不利になる」と(笑)。
- 阿川
- 常に喧嘩に対しての態勢を
整えているんですか? - 糸井
- そうそう。
「俺の靴の先はガーンとやられても
大丈夫なように鉄板が入ってる」 - 阿川
- カウボーイみたい(笑)。
- 糸井
- もう1つあって、
自宅兼仕事場みたいな場所に会いに行ったとき、
くつろいでメガネかけていたんです。
そいつが普段メガネかけてる姿、見ないんですよ。
なんでかけてるんだろうと思っていると、
「おい、メガネのこと内緒だぞ。
目が悪いと思われたら、それは不利になる」 - 阿川
- おかし~い。
- 糸井
- 目が悪いということを利用されて
攻撃をされたらかなわない。
それにメガネをかけてたら
パーンと飛ばされたり
逆にメガネが顔に食い込んだり、
ガラスが割れたりして危ないからって。 - 阿川
- その靴先に鉄板入れてる人と、
メガネかけているのは内緒だという人って‥‥。 - 糸井
- 同一人物。
- 阿川
- ハハハ、同一人物ですか。
その人、どこがいいんですか、
糸井さんにとって。 - 糸井
- やっぱり、おもしろいんです。
で、バカじゃないんです。
なんだか両極にいるみたいに思えるんですけど、
彼が僕の言ってることを
わかってくれるというのもあるし、
僕が彼の言ってることをわかることもある。
で、そばにいると僕が保護者になっちゃう。 - 阿川
- ああ。
「いま危ないよ」とか、そういう感じ? - 糸井
- うん、そいつが喧嘩しそうになって、
あわてて僕が止めようと
2人のあいだへ入っちゃって
喧嘩に巻き込まれたこともありました。
すごく面倒くさいんです、そばにいると。
- 阿川
- いつも面倒みてなきゃならない。
- 糸井
- 面倒みてるというか、
しょうがないんですよね。
しょうがないんです。 - 阿川
- ちょっと話がズレちゃいますけども、
昔、えのきどいちろうさんと
けっこう長く話したことがあって。 - 糸井
- ああ、いいですね、あの人も。
- 阿川
- そしたら、えのきどさんに
「世の中はお世話するタイプと
お世話されるタイプの二つに大別される。
阿川さんはお世話されるタイプだ」
と言われたんです。
そう言われればそうだけど、
だけど私、確かにお世話されるときもあるけど、
ある人に対しては、
お世話ばっかりしてるけどなぁって。
両方ありますよね。 - 糸井
- 両方あると思う。僕もそう思います。
- 阿川
- 糸井さんがお世話されるときもありますか。
- 糸井
- 「靴に鉄板」の彼については、
どうしてもお世話のほうに立っちゃうけどね。
でも、彼もすごく僕にお世話したいんです。
「こんなん買った」と言って
急にニューヨークで買った
ライカのカメラを出してきたり。
だけど、僕は別にカメラ欲しくないんです。
トンチンカンなの(笑)。 - 阿川
- ちょっと方向が違うんですね。
- 糸井
- ちっちゃい子が設計図描いて
夢を語るようなことを
ずーっとしてる奴なんです。
彼は東京タワーの見えるマンションに
住んでいたんですけど、
「東京タワーよく見えるなあ」と言ったら、
「だろ。だから買ったんだ」と。
東京タワーが見えるというと
女の子を部屋に入れやすいんだそうです。
でも「東京タワー見たらいいよ」ってところまでは
いいんだけど、そこからうまくいかない。
女の子がずっと東京タワー見てると困るから、
ベッドがある部屋に一人で行って、
「ああ、柔らかいなあ」とか言って
わざとポンポン弾んでみるんだけど、
いっこうに来ないんだって(笑)。 - 阿川
- いいなぁ、バカだなぁ(笑)。
- 糸井
- バカでしょう?
そいつもちょっと困って、
「東京タワーとその柔らかいベッドの
ポンポンのあいだに、なにかが必要なんだ」って。 - 阿川
- (笑)それを糸井さんが
おもしろがってるのを、その方は
わかってらっしゃるんですか?
- 糸井
- わかってますよ。
ほかにも‥‥どのくらいまで言っていいのかな。
まあ、とりあえずフィクションとして言いますけど。 - 阿川
- はい、フィクションですね。
- 糸井
- フィクションですけど、
世の中には、長ーく付き合ってるうちに
お互い年を取ってしまったような
女性がいたりする場合がありますよね。 - 阿川
- あ、はいはい。
- 糸井
- 「佐和子ちゃんが20歳で、僕が23歳のときでした」
みたいなお付き合いが
平行移動して43歳と46歳とかになるじゃないですか。 - 阿川
- それはなりますね。
- 糸井
- で、また恒例の別れ話がやってきました。
「私このまま死んでいくのもなんだし」
みたいなことを、また言われたと。
そこで、彼は
「俺はいつもおまえの前ではいいカッコして、
二枚目ぶって格好つけてて悪かったな」
と言ったんだそうです。
そしたら、彼女のほうは「は?」となって、
「いったいなにを言ってるんだろう」という顔で
「貴方はおもしろい」って言ったんだって。
つまり、格好つけてなんかいなかったと
彼女は思ってたし、男のほうは、
自分がいつも格好つけていたと思っていた(笑)。
「おもしろい人」というふうに
見られてたってことを知ったらしいです。 - 阿川
- 20年の歳月を経て、やっと自覚したと(笑)。
- 糸井
- 言われて分かったらしい。
- 阿川
- 気がついたんですか?
- 糸井
- で、俺が「そうだろうな」と言ったら、
「そうかなあ」って(笑)。 - 阿川
- 「おもしろい人」じゃ、不満なんだ。
- 糸井
- 二枚目ぶりたい人なんですけど、
バレバレなんです。 - 阿川
- かわいい人ですね。
- 糸井
- そういうところ、
全部がおもしろいんです。