
- 糸井
- 恋愛面での行動がわかりやすいのは
谷川俊太郎さんですよね。 - 阿川
- ああ、谷川さん。
「僕は詩をずっと書いてきたけれども、
よくよく顧みると、
ほとんど女のことしか考えてなかった」
なんてことを、さらっとおっしゃるから
「え?」って(笑)。 - 糸井
- 完成してますよね。

- 阿川
- ご本人がおっしゃってましたけども、
なぜ何回も別れを繰り返すのかというと、
相手のほうが嫌になっちゃうらしいんです。
いまここで抱きしめてほしいという気持ちや
いまここであなたは私をどう思ってるか
ということに対して、
わりに淡白な態度をおとりになるらしい。 - 糸井
- 谷川さんが?
- 阿川
- 谷川さんが。
別にお相手を嫌いなわけじゃなくて。 - 糸井
- 後ろ手で鍵かけられない少年の話ですね。
- 阿川
- 草食男子系ってこと?
- 糸井
- いや、この場合、草食とは限らなくて、
たとえばの話、
阿川さんが詩を大好きな少女だとして、
谷川先生とお話して、
詩の話を雲の上でずっとやりとりしてるときに、
鍵のことを出しちゃダメじゃないですか。 - 阿川
- 別にかまわないけど、私は(笑)。
- 糸井
- 「詩のままでいたい」と。
- 阿川
- だとしたら、どのタイミングで
鍵を閉めていらっしゃるのか、
そこがよくわからないですね。 - 糸井
- 鍵閉めだらけかも(笑)。
- 阿川
- (笑)閉めだらけ。

- 糸井
- あの人は、ワルぶるかわりに、
「僕はとても恋多き人です」という宣言を
しているんじゃないかな。
鍵閉めやすい状況を自ら作ってる気がする。
‥‥って、これ、谷川さんが読むのかなぁ(笑)。
谷川さん、このへんまで
しゃべって大丈夫ですよね? - 阿川
- 「ちょっと違うんだけど」って
ここで出てきたらおかしいのにね。 - 糸井
- こういう話、芸能の人なんかだと、
もっと生々しくてややこしいけど、
谷川さんだと平気なのは、なんなんだろう?
一緒にこういう話ができそうですね。 - 阿川
- なんなんでしょうね。
危険オーラを出しつつも、
でも、寄り添っていたいと思える男の人って
素敵だなと思うんです。 - 糸井
- それは谷川さんの素敵なところですね。
- 阿川
- 鍵閉められてもいいか、みたいな(笑)。
- 糸井
- 愛とかエロチシズムのなかで、人が
「いい気持ちに感じる」ようなことは
やっぱり文化が作ったものだと思うんです。 - 阿川
- いい気持ちを?
- 糸井
- うん。いい気持ちの中に、
「その制度は文化ですよね」というのが多分あります。
それは、50万年前にさかのぼったら
見つけられない
なにかがあるはずなんです。 - 阿川
- あ、はいはい。
ただ押し倒すだけじゃない
なにかがある。 - 糸井
- つまり、
「元客室乗務員でした」みたいなセリフが
どういうふうに関係あるかみたいな‥‥。 - 阿川
- (真顔で)
なんで客室乗務員が好きなんですか、男は。

- 糸井
- いや、例です、例。
例に出すのにすごく都合がよかったんですよ。
僕は知らないですよ、客室乗務員のことは(笑)。 - 阿川
- (笑)
- 糸井
- 純度100%の愛、というのがあって、
物語はそこを表現したくて
成り立ってるような気がするんです。
だから、恋愛ドラマでも
そうじゃない不純物をあえて出すことによって、
こちらには純がありますよ、という例を出します。
たとえば「悪い女がいて遺産目当てで」とかいうのを
散々描く。
でも、逆に言うと、
遺産目当ての人の純愛を
描くのもありだと思うんです。 - 阿川
- かえって純度が増しそうですもんね。
- 糸井
- 石油王とかが84歳ぐらいになってから、
すごく若い人と結婚したりするじゃないですか。
あれをみんな笑うんです。
「あれは遺産目当てに決まってる」とか、
「見るに見かねるね、あのネエちゃんの存在は」
みたいなことを言う。
そうやって利口ぶってる男の人はみんな、
半端にしか物を考えてないと思います。 - 阿川
- ステレオタイプにしか考えてない。
- 糸井
- うん。いくらつぎ込んだとしても、
なにもかもを捧げて、
その子に好かれたいと思ってるんです。
84歳の小金持ちは全うしたんですよ。
だから、遺産目当てだと人が吹き込んでも、
いいじゃん、遺産なんか。
遺産目当てだとしても、
俺は金要らないもん、と思ってるにちがいない。
「この子は僕に親切にしてくれてね、
このあいだも、たのしかったんだよー」
みたいに思ってる人を
批判してる人は負けてるんですよ。

- 阿川
- なんか後妻業推進委員会の
会長みたいな話になってきた(笑)。
昔、布団訪問販売の人が、
おばあちゃんを騙して捕まったという
実際の話があって。
犯人をつかまえたあと、
警察の人が、そのおばあちゃんに、
「ひどい目に遭いましたねえ」って言うと
「あの人は本当にいい人だった。
あの人ほど私に親切な人はいなかった。
どれほどお金を貢いでも、
そんなのなにも損したとか思わなかった」
と、こたえたそうです。
そのおばあちゃんの証言に、
世の中はたいへんな衝撃を受けたんですが、
でも、それ、わかりますよね。 - 糸井
- わかるよね。
- 阿川
- わかる。息子や娘はこんなに
話を聞いてくれなかったっていうことでしょう、きっと。 - 糸井
- 心からうれしいと思えたら、
それをほかの価値で、
「財産取られたんですよね」
って言われても‥‥。 - 阿川
- そうそうそうそう。
本人が幸せなら。 - 糸井
- みんな、ああだこうだ言って、
どっちが利口かの話をしてるんです。
でも、どっちが利口かなんていうのは、
たかが知れてるわけで。 - 阿川
- カップルを見て、釣合いがいいとか
不釣合いだとか、
なんであの人、あんな人を選んだんだろうとか、
勝手にあれこれ批判するけど、
シアワセな二人には関係ないっすよね。

- 糸井
- うん。やっぱりいろいろ浮名を流した人が
最後に結婚するのは
マネージャーだったりするんですよね。
ほかにも、ファンクラブ会長とか、
丸々認めてくれたり叱ってくれたりする
お母さんみたいな人で。 - 阿川
- ああ‥‥。
- 糸井
- なんて言うのかな、
人が、「これは愛でこれは愛じゃない」なんて
分けていろんなことを言ってるけど、
そんなこと誰が決めるんだよ、って思います。
本人が言うことでしょう。 - 阿川
- ああ、本当にそうですね。
でも、他人の愛については
とやかく言いたくなるんですよね、つい。