- 糸井
- 『聞く力』にそう書いてあったかどうかは
定かではないんですけど、
会話って、
「事前に知り過ぎるとつまんなくなる」
というのがありますよね。
- 阿川
- ああ、それは私の勉強不足の
エクスキューズなんです。 - 糸井
- 安心してください、
僕もそうです。 - 糸井
- あと、「聞き役だけど、自分を語る」
という状況もあるじゃないですか。
そのときは、聞いてるけども
しゃべってることになりますね。 - 阿川
- はい、それはあります。
「そう来たなら私も話したいことがあるぞ」
ということが。 - 糸井
- 聞きながら
「賛成です」と思うこともあれば、
「その考えは嫌だな」と思うときもあります。
だから、ただ聞き役って思っている場合でも、
案外自分の考えが‥‥。 - 阿川
- 入ります。
- 糸井
- やっぱり、そうですよね。
- 阿川
- 「ここで反論しちゃまずいな。仕事だし我慢しよう」
と自制心が働くことはちょくちょくありますが、
でも私、「違う」と思うときは
顔に出てるらしいです。 - 糸井
- 顔に出てますね。
- 阿川
- やっぱり(笑)。
- 糸井
- あと、会話の話でいうと
あえて「対立」することがありますよね。
穏やかな例だと、
「カレーライスと呼ぶのかライスカレーと呼ぶのか」
あるいは
「粒あん派か、こしあん派か」というように、
こどもがルールを決めて遊ぶみたいに、人とやり合う。
僕それ、わりと苦手なんです。 - 阿川
- そういう会話の展開が
お好きではない。 - 糸井
- そう。
「持論をぶつけないと会話がおもしろくならない」
というふうに、僕は思わないんです。 - 阿川
- 言われてみると、私も同感かも。
それで思い出したのは、
長友啓典さんがうちの近くに住んでらして、
一緒にゴルフへ行くために
車でお迎えに上がることがあるんです。
長友さんが助手席で、
2人で1時間ちょっとの道のりを行くわけ。 - 糸井
- 阿川さんが運転されるんですか。
- 阿川
- はい。
長友さんとは長いお付き合いでもないんですが、
なぜか会話が尽きなくて、たのしいんです。
たとえば私が長友さんに
「昨日ちょっと新幹線で帰ってきて」
とかいう話をすると
「あ、新幹線といえばね」って
長友さんが後を引き継ぐの。 - 糸井
- 「といえば」(笑)。
- 阿川
- 「新幹線といえばおもろい話があるんや」。
で、新幹線の中で起こった
小さな偶然の話をしてくださって、
「へぇー」って聞いてるうちに、
「そう来るなら私の新幹線話にも
おかしいのがあるぞ」
みたいな。
それで、「新大阪でね‥‥」
「あ、新大阪といえば」
なんだか知らないけど、ものすごく続くんです。 - 糸井
- しりとりみたいになってるんだ。
いいですね。 - 阿川
- そう、しりとり歌合戦状態。
終わったときになにも残らないんだけど、
でも、この会話は「対立」ではないんです。
言葉のしっぽつかんだら、次は私の番、みたいな。
- 糸井
- そう、それは対立じゃないですよね。
僕が前に、伸坊と話していたとき、
「あ、それ、その話くれる?」
って言ったことがあります。
話のタネを譲って、と。
いまの話聞いてて、そんな感じがしました。
「新幹線、ちょっとくれる?」っていう(笑)。 - 阿川
- そうそうそう!
「それいただきます!」ってなりますよね。
テーマを出されたら
思い出す引き出しが
どんどん開きはじめるような感じ。
たとえば長友さんと会話しているときって、
「交通事故を起こさないように」と私が言ったら、
「交通事故といえば、
フロリダで事故を起こしたことがあるんや」
という話になって、
「私も追突されたことがある」と言ったら、
すかさず長友さんが、
「追突といえば、わし、六本木5丁目の
交差点でバイクに乗ってたんや」と。
「で、ブンッとやったら座席が外れて、
バイクだけが前に行って、なにかに追突したんや」
って(笑)。 - 糸井
- 座席だけ持って(笑)。
- 阿川
- そう、座席だけお尻に残ってて。
「信じられない、その話」みたいな
おもしろい話ばかりなんです。 - 糸井
- 長友さんはね、プロなんです。
- 阿川
- あ、そうなんですか。
- 糸井
- 飲み屋さんでも、横にいる人を
そうやって笑わせて、次のお店に行く、
そんなことを何十年もされている方です。
人に聞かれるということを前提に、
ちょうどいいところを見繕って
お話をするのがものすごくうまいんだと思います。
お店はたいてい5軒ぐらいはしごしてましたよ。 - 阿川
- そうなんですか。
その時代はお会いしてないんですけど。 - 糸井
- 一箇所に留まらないで、
ひと笑いさせたら、「ほな行こか」。
いわゆる「流し」ですよ。
- 阿川
- 「流し」商法だったのか‥‥(笑)。
長友さんって
たたずまい自体がかわいらしいんです。
でも真面目なんです。
ご本人は笑わせようとしているわけじゃないらしいけど。 - 糸井
- うん。
でもまあ、それはちょっと怪しいと思う(笑)。
ボケを売りにしてる人って、
本当に真面目なのかなぁ‥‥。 - 阿川
- わざとボケているの?
- 糸井
- 天然と言われる人たちが、
どのくらい本当なのか嘘なのかは
自分でもわかんないんじゃないですかね。 - 阿川
- あぁ。
ただ、人は求められる人間に
なっていくんじゃないでしょうか。 - 糸井
- そうですね。
期待されて、求められて、
そういうふうになっていく。
長友さんとか典型的な大阪のおじさんですよね。 - 阿川
- あ、そうそうそう。
- 糸井
- なにがおもしろいか、
つまんないかってことをわかってるわけです。
「おもしろいつもりで言ってるわけじゃない」
って顔してますけど、
つまんなかったら言わないと思うんですよ。