今回は、デザイナーとして
世界的に活躍されている深澤直人さんに
ご登場いただきました。
きっかけは、デザイン誌『AXIS』の書評コーナーで
深澤さんが『三位一体モデル』を取り上げてくださったこと。
デザイン専門誌の書評欄で、なぜこの本?
そんな話題を手がかりとしながら、深澤さんのお話は
ご自身の「デザイン観」にまで広がっていきました。
今日から全5回の連載として、お届けいたします。


深澤直人 NAOTO FUKASAWA

1956年山梨県生まれ。
多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業。
1980年多摩美術大学卒業。1989年渡米し、
デザインコンサルティング会社IDEO(サンフランシスコ)で
8年勤務後帰国、IDEO東京支社を設立。
2003年に独立しNaoto Fukasawa Design設立。
「MUJI」CDプレーヤー、「±0」加湿器、
「au/KDDI」inforbar、neonはN.Y.MOMA永久収蔵品に。
B&B ITALIA、Driade、Magis、
Artemide、Danese、Boffiをはじめ、
ドイツ、北欧など国内外の大手メーカーとの
プロダクトを進行中。
If金賞(ドイツ)、D&AD賞(英国)、IDEA(米国)、
毎日デザイン賞、Gマーク金賞、
第5回織部賞など受賞歴は50を超える。
武蔵野美術大学教授、多摩美術大学客員教授。
著書に『デザインの輪郭』(TOTO出版)、
共著書『デザインの生態学』(東京書籍)。








── 現代の日本において
ほとんどの「デザイン」は
経済効率の増殖に加担している、
とおっしゃっていましたが、
将来的には、どのような役割を
果たすべきなんでしょう?
深澤 デザインが、ですか?

現在でも、それ以外の面で
貢献していることはいっぱいありますよ。
── それは、たとえば‥‥。
深澤 デザイナーのジャスパー・モリソンと
「スーパーノーマル展」という、
展覧会をやったんです。

これは、たとえば
立食いそば屋にあるようなコップだとか
小学校でよく見るポリバケツだとか、
あまりに「ふつう」すぎて
デザインを意識させないモノが
じつは手放せないんだよね、ということに
気づいてもらいたいと思って
進めてきた展覧会なんです。
── 今までのお話でいうと
人とモノとの「いい関係」、ですよね。
深澤 ええ。

人とモノとが、
もともと持っていた関係性を
もうちょっと見直したらどうだろう?
というコンセプトなんですね。

つまり、これは、ひとつには
「いまあるモノ」の見直し作業です。
── はい。
深澤 「こういうモノっていいよね」と
思える素直な感覚を、
もういちど取り戻すこと。

つまり、むやみに
新しいものを作ろうとしない
という考えかたですね。

これは、むしろ
「いい関係性を、変えない」
ということが、
これからのデザインには
求められていると思うからです。

そういうことを総称して、
「スーパーノーマル」。
── 超ふつう、と。
深澤 ノーマルを超えるノーマルです。
ノーマルなものをもとに
新しいモノをデザインすることですね。
── なるほど。
深澤 もうひとつは、スーパーノーマルって
「ものすごくふつう」ということですが、
そもそも「ふつう」って、
煎じ詰めたひとつのかたまり、
みんなが共有できているものだと思うんです。
── 多くの人が思い浮かべられるイメージ、
ということでしょうか?
深澤 コーヒーカップをいくつか並べて、
どれがいちばん
「ふつう」のコーヒーカップですか?
と聞いたら、
たいていの人が「これ」って
言い当てられると思うんですよ。

だったら、それが
もっともブレのないコーヒーカップ。
そして、それは同時に
僕たちと、もっとも「いい関係」にある
コーヒーカップなんですよ。
── なるほど‥‥
確かにそんな気がします。
深澤 あるいは、
アイスクリームを食べようとして
引き出しを開けたら、
いくつかスプーンが並んでるでしょう?
── ええ。
深澤 でもそのなかから、いつも必ず
ある特定のスプーンを探しませんか?
── ああ‥‥そうですね!
深澤 慣れ親しんでいるスプーン。
それがいちばん、
自分にとっての「ふつう」なんです。
── 自分にとっての「ふつう」こそ
自分にとっての最良のものである、と。
深澤 そうそう、そしてそれが
他人にとっての「ふつう」だったりもする。
共有してるわけですよね。

そして、「ふつう」についての理解を
まわりの人と共有してるということは
とても幸せなことだと思うんです。
── なるほど‥‥。
深澤 でも、それを無視して
新しいデザインを生み出したい、というのが
デザイナーの欲求なんですね。
── ええ、ええ。
深澤 だけど、この「ふつう」のカップには
みんなが言い当てている「中心」がある。
このカップで問題ないんだったら、
このスプーンをいつも選ぶなら、
もう、それがいちばんいいんじゃない?
ということを伝えたいと思ってるんです。
── お聞きしていて思ったんですが、
スーパーノーマルという考えかたって、
深澤さんが高浜虚子の言葉から
インスピレーションを受けたのと同じように、
デザイン以外の分野にも
応用できそうな概念ですよね。
深澤 だから、たとえば政治でも経済でも
参謀のなかに
優秀なデザイナーを一人、入れるだけで
なにかが変わってくるんじゃないかなと、
僕は思っています。
── ただ、一般的に「ふつう」というと
まるで評価が低い、なんて
言われているみたいですけれど‥‥。
深澤 うん、「ふつう」というと、
なんだか後ろ向きな印象があります。

自分の子どもを
「ふつうだね」なんて言われたら
すごく、ネガティブですよね。
── はい。
深澤 でもじつは
「静かで平和な暮らし」ということを
表現するときにに使う「ふつう」なんて、
かなり前向きな意味を持っているでしょう。
── なるほど、そうですね。
深澤 みんな、「ふつう」を超えたがっていて、
みんな、「ふつう」がイヤだっていう時代だけど、
ちょっと振り返ってみて、
今まで気づいてなかった「ふつう」を
眺めかえしてみたらどう? ってね。

そうすると、自分の生活が
ものすごく豊かになっていくと思うんですよ。
── そっちのほうに、
価値があるんじゃないか、と。
深澤 ようするに、そのモノが
自分の暮らしに、
「ふつう」に合っているのかどうか。
── どっちいいか、みんな知っていて、
そこに気づいてもらうことが
スーパーノーマルという考えかたなんですね。

すべての人たちは知ってるけど、
その良さに気づいてないという‥‥。
深澤 そうですね。
── みんな、忘れているんでしょうか。
深澤 僕らのなかに染み込んでいて
忘れてはいないけれど、気づいていない。

とくに最近は、「ふつう」って
「デザイン」の対極にあるものだと
思われている時代ですから。
── なるほど、確かにそうです。
深澤 逆に言えば、
「デザイン」というものが
人とモノとの「いい関係」をも
崩してしまうような、
ちょっと背伸びしたもの、というふうに
理解されているような時代ですよね。
── それでは、深澤さんにとっての
「いいデザイン」というのは‥‥。
深澤 やっぱり、人との関係性が
切れていないデザイン。

僕はそれを
「ふつう」と表現しているんですよ。

<終わります>




池谷裕二先生
「三位一体モデル」は、ものごとを
分解して解析するための「ドライバー」。
2006-11-22

人生の指南書、参考書として
読める一冊じゃないかと思います。
2006-11-24
『Invitation』編集長 小林淳一さん
わかりやすくて、「伝わる」本。
中沢先生の「実践の姿勢」を感じます。
2006-11-30
立ち読みコーナーは、こちらです。
『三位一体モデル』の中身をすこしだけ、
ご紹介いたします。
2006-12-03
三省堂書店 神田本店 秋山弘毅さん
『バカの壁』『国家の品格』につづく
一冊になるのでは、と楽しみにしています。
2006-12-07
ブックファースト渋谷店 広野陽子さん
ハードカバーの本が売れていくのって、
見ていてワクワクしてくるんですよ。
2006-12-14
赤瀬川原平さん
第1回
経済や株のことについて、
ああそうかと、納得できる本でした。

2006-12-22

第2回
お金ってほしいものだけど、
それだけでは楽しくないんですよ。

2006-12-25

第3回
いまの合理性の時代にはない、
「余分なちから」に感動するんです。

2006-12-27

最終回
教養って、その人のなかから
染み出してくるようなものだと思います。

2006-12-29
がんばれ本屋さん! ミーティング
第1回 本屋さんって、ライバルどうし?
2007-01-05

第2回 お店によって、「しかけ」もいろいろ。
2007-01-08

第3回 おもしろがって、本を売りたい。
2007-01-10

第4回 本屋さんとの、「本気」な関係。
2007-01-12
神田出張所
第1回 生命の原理、バルセロナの「3」
2007-01-15

第2回 世界を覆う、「2」の原理
2007-01-17

第3回 ロシアと西ヨーロッパの「三位一体」
2007-01-19

第4回 西欧資本主義というメカニズム
2007-01-22

第5回 流動的知性の発生
2007-01-24

第6回 こころに「過剰」を抱えた人類
2007-01-26

第7回 流動的知性、イメージ、言葉
2007-01-29

第8回 わたしたちの、こころの構造
2007-01-31

第9回 世界とって、「三位一体モデル」とは
2007-02-02

第10回 まずは、丸をみっつ描いてみる
2007-02-05

第11回 『キングコング』と「三位一体」
2007-02-07

最終回 「三位一体モデル」の先には
2007-02-09
永江朗さん
第1回
いまの世のなかを批判的に見る
ものさしになる本だと思います

2007-02-16

第2回
いま、みんなが気になっているのは
自分の会社の社会的意義ですよね
2007-02-19

第3回
何千年も前の話だからこそ、
有効なことって、いっぱいあるんです
2007-02-21

第4回
出版界の「三位一体」を考え直すことが
大事なことじゃないかと思います
2007-02-23
信藤三雄さん
第1回
「三角形しか、信じられない!」のは
「安定」を求めているからだと思います
2007-03-02-FRI

第2回
地平線は水平じゃなきゃいやだし、
電柱はまっすぐ立ってなきゃいやなんです
2007-03-05-MON

第3回
ものごとの本質をつかみ出した
「シンボルマーク」をつくりたい
2007-03-07-WED

第4回
自分なりの「三位一体」を
もうすこし考えてみたいと思います
2007-03-09-WED
深澤直人さん
第1回
「デザイン」と「経済」
2007-04-11-WED

第2回
人とモノとの「いい関係」
2007-04-13-FRI

第3回
輪郭線に合っているかどうか
2007-04-16-MON

第4回
客観写生、張り、選択圧
2007-04-18-WED



2007-04-20-FRI