小林淳一(こばやし・じゅんいち)

1965年生まれ。立教大学経済学部卒業。
1989年ぴあ入社後、『TVぴあ』に配属される。
『ウィクリーぴあ』副編集長を経て、
『Invitation』編集部の準備室へ。
創刊に携わり、副編集長を経て2005年より編集長。

わかりやすくて、「伝わる」本。 中沢先生の「実践の姿勢」を感じます。
── まずは、率直なご感想をお聞かせください。
小林 僕が大学生のころ、
世の中は「ニュー・アカデミズム」という
ムーブメントのまっただなかでした。

中沢先生や浅田彰さんの
「難しい本」を読むのが
ファッショナブルとされていた時代です。

でも、この『三位一体モデル』からは
「難しいことを言って通じないよりも、
 わかるように伝えなければダメなんだ」
という「実践の姿勢」を強く感じましたね。
── 役に立つ本であると。
小林 はい。

思想系の本って、やっぱり
ほとんどのものが、難しいわけです。

なおかつ「実践」、つまり
読んで何かの役に立つといったこととは
ほど遠いケースが多い。
── たしかに、そうですね。
小林 でも、ここへきて
養老孟司さんの『バカの壁』もそうでしたし、
一級の学者なり研究者による
「わかりやすく伝える本」が
ひとつのムーブメントになってきたのかな、
と思っています。

── 雑誌の編集長というお立場から
「三位一体モデル」を見たとき、
どんなことをお考えになりましたか?
小林 そうですね‥‥。

最近の雑誌の例でいうと、
いちばん分かりやすい成功モデルって
『CanCam』と『LEON』ですよね。
── 雑誌業界からはじまって
大きな社会現象になりました。
小林 これをひとことでいうと、
「エビちゃん」と「ちょいワル」。

これらふたつの概念を
『三位一体モデル』の
「社会」「幻想」「価値の増殖」で考えると‥‥。
── 中沢先生は『三位一体モデル』のあとがきで
「父」「子」「精霊」のみっつの原理を
「社会的コントロール」
「幻想力」「増殖力」と言い換えています。
小林 はい。

そういう考えかたで見てみると、
まず「エビちゃん」という概念は、
「幻想させる力」の強い、
優秀な「子」だったんじゃないかと。

いまでは、若い女性向け雑誌においては、
ひとつの「父」的な原理原則、
ルールにさえなりつつあるかもしれません。

あるいは、「ちょいワル」という
ひとつの「おしゃれのルール」を
少しだけ変えた雑誌なんかも出てきています。

でもそこで、
たとえば『LEON』のブームと
いっしょに語るべきこととして、
「伊勢丹の成功」という社会的な流れが
あったと思うんです。
── なるほど。
小林 『LEON』が創刊するちょっと前から、
新宿伊勢丹の紳士服売り場は
活気が出はじめていましたし。
── そうなんですか。
小林 つまり、雑誌というもので
「三位一体」を考えたときには
「時代との連携」ということが
非常に重要な要因としてあると思うんです。

ですから、
ただ「エビちゃん」に似たような
モデルさんを立てるというだけでは、
たぶん、うまくいかないですよね。
── ふん、ふん。
小林 モデル自体を真似ただけではダメで、
幻想させる力をもった「子」や
世のなかの雰囲気をつかんだ
「父=コンセプト」が必要になってくる。

あるいは、『Number』という雑誌。

創刊当初は、
ボクシングもやれば
アメフトもやっていたわけですけれど、
Jリーグの盛り上がりという
時代の波をうまくとらえて、
今ではサッカーを伝えるメディアの
オーソリティとなっています。
── サッカーといったら『Number』、
みたいな印象がありますよね。
小林 ええ。

そこで、『Number』の成功をみて
「あっ、このモデルはいい!」と、
似たような雑誌がたくさん出てくるわけです。

つまり、これはモデル自体が
増殖していくというケースですよね。
── なるほど。
小林 「父」や「子」の部分を、
ちょっとだけ変えたりして、
『Number』に似た雑誌をつくった。

でも、小手先だけでは、
やはりうまくいかないんですよ。
── そこが難しいところなんでしょうね。
小林 だから、「三位一体」の構造って
数値化できるものではないですから、
それぞれの部分を
固定的にとらえてしまわずに
時代の空気を読み取りながら、
常にバランスをとっていくことが、
大事なんじゃないかと思いました。


小林さんが編集長をつとめる 『Invitation』。
写真の12月号では 「ほぼ日特集」も読めます!
── 小林さんは、この本のベースとなった
第0講にも参加されていますね。
小林 ええ。

あの講義を本にすると聞いたとき、
最初はもっと「新書」的にするのかな、
と思っていたんですよ。

新書って、実践の書ですから。

でも、『三位一体モデル』って
そういうつくりにはなっていないですよね。
── そうですね。
小林 とはいえ、80年代に
僕らが好んで読んでいたような
かたちのない世界を語る哲学書とも違う。

圧倒的に、読みやすいんですよ。

ですから、内容じたいは
純粋に学問としておもしろいですけれど、
「キリスト教の話」と敬遠せずに
読めてしまうところがあると思うんです。
── ビジネスや経済の例も出てきますしね。
小林 最近、『Invitation』をやっていても
「実効性のあること」が大切なんだと
感じはじめていたところでした。
── ええ。
小林 それを、中沢先生は、この本でやっている。

あたまのなかのことだけじゃなくて、
「実践」していくことの大切さやおもしろさ。

このことは、
『アースダイバー』にも通じることです。

ですから、若い読者でも、
充分理解できるし、役立てることができる
本なのではないでしょうか。
── 「青山分校!」の受講生にも
若いかたが多くいらっしゃいます。
小林 僕らが大学生だった80年代には
「いい大学を出て、いい会社に入る」という
ひとつの人生モデルがありましたけれど、
いまは、そのあたりの価値観が混沌として
わからなくなっている時代だと思うんです。
── はい。
小林 だからこそ、実効性のある「モデル」が
求められるようになっているんじゃないか。

そういう意味では、
ものを考えるときのひとつの道具として
この『三位一体モデル』が読まれるといいな、
というふうに思っています。
── ありがとうございました!

<終わります>

2006-11-30-THU