── たとえば50年代など、
昔のレコードジャケットを見ると、
ただ人物が写っている、というものが
多かったような気がするんですけれど、
いつごろから、あるいはどの作品あたりから
ジャケットは「アート」になったんでしょう?
信藤 そうですね‥‥意識的にそうなってきたのは
ピンク・フロイドの『原子心母』という
アルバムからじゃないかと思います。
── あ、あの牧場にいる牛の。
信藤 うん。


ピンク・フロイド『原子心母』
── ビートルズ以降、というのが
なんだか意外です。
信藤 確かに『サージェントペパーズ』なんかは
アーティスティックでしたけれどね。

でも、はじまりはヒプノシス、
じゃないでしょうか。
── 有名なジャケットデザイナーの‥‥。
信藤 ええ、デザイン集団ですね。
── では『原子心母』も?
信藤 その人たちの初期の作品。

ピンク・フロイド以外にも
イエスとか、レッド・ツェッペリン、
10ccなんかも手がけています。

ユーミンの『昨晩お会いしましょう』
というアルバムも、ヒプノシス。


松任谷由実『昨晩お会いしましょう』
── では、彼らが出てきたあたりから
ジャケットデザインにおける
作家性のようなものが際立ってきた、
ということなんでしょうか?
信藤 ヒプノシスは、ある「ストーリー性」を
ジャケットに持ち込んだ、
ということかもしれないですね。
── 意味ありげなデザイン、ということ?
信藤 たぶん、それ以前は
ジャケットデザインも
もう少し即物的だった気がします。
── では、もう何度も何度も
聞かれた質問だと思うんですが、
信藤さんが影響を受けた
アルバムジャケットって、何ですか?
信藤 うーん、ジャケットに限らず、
やはりアンディ・ウォーホルには
かなり影響を受けてると思います。


The Velvet Underground
『The Velvet Underground & Nico』



The Rolling Stones
『Sticky Fingers』
── それは表現者として?
信藤 一見、ポップで軽いんだけど、
何かすごいダークなものを持っている
あの感じ‥‥いまだに飽きないですね。
── ダーク、ですか?
信藤 日本でやったアンディ・ウォーホルの展覧会、
2回くらい行ったんだけど、
2回ともなんか、すごく疲れたんですよ(笑)。
── それは、
真剣に見てたってこと以外に‥‥。
信藤 やっぱりこう、作品から
何かダークなエネルギーを感じるのかなぁ。
── 見た目はあんなカラフルなのに?
信藤 うん、そう見えるけど。
つねに、「死」のにおいのようなものを
作品のなかから感じるんですよね。
── なるほど‥‥そうですか。
信藤 もちろん、必ずしも本人は
そんなこと意識してるわけじゃ
ないんだろうけどね。

でも、そう感じさせるものを
扱った作品は、けっこう多いんですよ。

電気椅子をモチーフにしたり、
ビルから飛び降りてる
その瞬間の写真を作品にしたり‥‥。

── そうした影響を経て、
現在までに通算900枚ぐらい、
ジャケットを
手がけられてらっしゃいますけれども、
それでは、アルバムジャケットって
一体、どんなものなのでしょうか?
信藤 ひとつの結論はね、
ジャケットに限らないんだけど、
ものをつくるというのは、
シンボルマークをつくる、
ということなんだと思います。
── シンボルマーク。
信藤 たとえば、ある企業やブランドの
シンボルマークや、ロゴ。

優秀なシンンボルマークは、
それらの企業やブランドの「本質」を
ギュッと取り出してるんですね。
── ジャケットの場合には、まず
そのアルバムに収録されている音楽が
どういうものか、ということですよね。
信藤 それもあるし、
あとはアーティスト本人が
どういう人かっていうこと、ですね。
その人に会ったとき、
すごく透明感あるなって思ったら‥‥。
── 雰囲気が?
信藤 透明感のあるジャケットにするだろうし、
カエルに似てるなって思ったら
ジャケットにカエルが出てきてもいいしね。

つまり、アーティストその個人の
シンボルマークをつくる、というような
考えかたに立って、アプローチする。
── それが、いわゆる
「本質をつかみだす」ということなんですね。
信藤 そして、そういうイメージも
もちろんなんですけど、
もうひとつ大事なのは、「言葉」です。
── それは、アルバムのタイトルだったり、
コンセプトだったり‥‥。
信藤 シンボリックである、ということは、
言葉にしやすい、
ということでもあると思うんです。


<続きます>


2007-03-07-WED