東日本大震災の直後、構造構成主義という哲学的理論をもとに多くの被災地支援アイディアを考え、実行に移してきた「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の西條剛央さんが、いま、すごく「忙しくない」のだという。大学の授業が週1コマとなり、「ふんばろう」もほぼ「解体に近い」レベルで体制変更。遠目から見ても「うわー、忙しそう‥‥」な人の筆頭で、あれだけ多忙を極めた西條さんが自宅に腰を据え、昼夜、自分の研究のことばかっり考えて、合間に1歳の娘さんの子守りをしながら日々を過ごしているというのです。哲学者が、洞窟にこもった?そのこと自体おもしろかったので今の興味や、構造構成主義のことなど、いろいろじっくり聞いてきました。その間、解体直前の「ふんばろう」が「プリ・アルス・エレクトロニカ」という権威あるメディア・アートの祭典のグランプリを受賞したという仰天ニュースも飛び込んできたりして‥‥。この人やっぱり、おもしろそうでしょう?聞き手は「ほぼ日」奥野です。

第1回 ゴールデン・ニカ賞、受賞。

──
いまは、主に何をされているんですか?
西條
今年から、肩書が
早稲田の「客員准教授」になったんですが
授業の数は、減っちゃいまして。
──
おっしゃってましたよね。
専任講師から准教授になったけど‥‥と。
西條
そう、土曜日の1コマだけになりました。
だから、すごく時間があるんです。

なので、家で「子育て」をやってますね。
──
いま、お子さんは‥‥?
西條
1歳2ヶ月かな。
──
じゃあ、この研究室にも
毎日、来てるってわけじゃないんですか。
西條
ここ数ヶ月は、家で論文を書いたりとか
自分の研究のことを
部屋にこもって考えていることのほうが
多かったですね。

それとまあ‥‥「子育て」と。
──
この9月末に、西條さんの「ふんばろう」も
大きく体制変換するとのことですが。
西條
ええ、震災以降、
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」という
「大きな枠」のなかに
さまざまなプロジェクトが
数十の単位で存在していたんですが、
それらを束ねていた「枠」を、
この9月いっぱいで解体することにして。
──
その「枠」の代表が
西條さんだったわけですけれど‥‥。
西條
これまでも、個々のプロジェクトは
「半独立」のような感じで
ほぼ自立的に動いていたんです。

でも、10月からは
「完全に独立」してもらおうと思って。
──
数十もの独立プロジェクトが生まれて、
あとには何も残らない?
西條
いえ、「ふんばろう支援基金」という、
各プロジェクトに
資金配分する一般社団をつくりました。

その団体と各プロジェクトとが
1対1でつながるようなイメージです。
──
そうなると
西條さんの仕事も、だいぶ減りますか?
西條
ええ、基金の代表理事ではありますが
基本的には年に一度、資金を配って
報告を出していただくだけですから、
僕の出番は、ほとんどなくなるでしょうね。

これまで、
「サポータークラブ」というかたちで
毎月、1000人以上の人たちが
寄付金を
「自動振込」してくださっていたのですが
その仕組みも9月でお終いにします。
──
西條さんは
「ふんばろう」をつくった直後から
「役目を終えたら、静かに消滅するのが目標」
とおっしゃっていましたが、
実際に決断した理由は、何だったんですか?
西條
ステージが、変わったことですね。
──
と、言いますと?
西條
つまり、震災の年にやっていたような、
全国から冬物家電を集めて
被災地の1万数千世帯へ送る‥‥みたいな、
多くの人手とお金を使うステージでは
すでに、なくなっているということです。
──
なるほど。
西條
それよりもむしろ、
人と人との「つながり」を大切にした、
規模はちいさくても
きめ細やかで丁寧な活動が求められている。

もちろんお金も必要なんですが、
僕らの手元にプールしてある資金だけでも
あと2年くらいは、
各プロジェクトを支援できますから。
──
西條さんが代表から退いても
自律的に動く仕組みを整えたいとは
ずっと、おっしゃってましたが
今回の体制変換は
その「最終段階」というわけですね。
西條
そうですね。「ふんばろう」に属している
すべてのプロジェクトが一致団結して
何かに取り組む場面は、当面ないでしょう。

だとすれば、
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」という
コンソーシアムは、
その役割を終えてもいいだろうな、と。
──
今後は、個々のプロジェクトの活動を
資金的に支えていくわけですね。
西條
僕は、
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」が
誰でも、どこでも使える
ひとつの「雛型」になったらいいなと
思っていたんです。

そうであるならば
「どうやって終わるか」も重要なので。
──
なるほど、組織の終わり方まで含めて、
ひとつの「モデル化」というか、
「ワンパッケージ」というわけですね。
西條
ダラダラ続けても、いいことないです。

「何のための組織だったの?」
みたいな、
肝心な部分が曖昧になってる組織って、
たくさんあるじゃないですか。
──
でも、そうして
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」が
解体される月に、
「プリ・アルス・エレクトロニカ」という、
オーストリアの
芸術や文化・先端技術の権威ある祭典で
「ふんばろう」に
最優秀賞が贈られるんですよね。
西條
ええ、今回「ふんばろう」が受賞したのは
「コミュニティ部門」で、
「ゴールデン・ニカ賞」と言って
何やら「コンピューターの世界のオスカー」
と呼ばれている賞みたいです。
──
過去の受賞者がすごいのですが
パソコンの世界ではおなじみというか
これなしには成立しない
「World Wide Web」(www)とか、
みんな便利に使ってる
「ウィキペディア」とか‥‥。
西條
そうらしいですね。
──
ものすごいことじゃないですか。
西條
ええ。
──
知ってました、その賞のこと?
西條
知らなかったです。

だから、今回アルス・エレクトロニカに
ノミネートされたと聞いても、
ぜんぜんピンとこなかったんですが、
まわりの詳しい人たちに
「いやいやいや、
 これは、ものすごく有名な賞だから!」
と口々に言われまして。
──
ははあ。
西條
なにしろ、
グランプリの受賞が決まってからしばらく
受賞したことに
ちっとも気付いていなかったくらいです。
──
え、連絡とか来なかったんですか?
西條
来てました。

受賞したってメールが来てたんですけど、
2週間くらい、
迷惑メールのフォルダに入ってました。
──
西條さんらしいと言ったら失礼ですが、
なんとも西條さんらしい‥‥。
西條
だって、メールの文面が
「Conguraturation!!
 あなたはグランプリを受賞しました。
 賞金はいくらいくらで‥‥」
みたいな、
いかにも迷惑メールじゃないですか。
──
た、たしかに。
西條
アルスの小川さんという日本人スタッフから
電話がかかってきて
ようやく受賞のことを知ったんです。
──
「ふんばろう」が受賞した理由は?
西條
それを今度の授賞式で聞くんですけど、
まあ、行政に頼らず、
インターネットというデジタル媒体を使って
つくりあげた市民機能、新しい支援のかたち、
みたいな感じだと思います‥‥たぶん。
──
なるほど。
西條
メディア・アートの祭典というと
他にもたくさん、あるんだと思うんですけど、
アルス・エレクトロニカでは、
「アート・テクノロジー・社会」をテーマに
世界各地から
イノベーティブなアイディアや取り組みを
選出してるそうなんです。
──
ええ。
西條
「アート」「テクノロジー」に加えて
「社会」
というテーマを設定しているところが
おもしろいですよね。

つまり、社会に実装するフェーズまで
視野に入れていて、
そして実際にその賞を受賞した作品が
世界を変えているわけですから。
──
今回「ふんばろう」が賞を取った理由も
まさしく、そこですもんね。
西條
そうだと思います。
──
まさに今、西條さんが解体しようとしている
「ふんばろう」という組織に
そのような権威ある賞が贈られるってことが
何だか「痛快」な感じがして‥‥。
西條
ああ、そうですか?
──
そこで今日は、いまの興味や関心事など
少しお時間のできた西條さんに
いろいろおうかがいしたくて、来ました。
西條
はい、ありがとうございます。

このところ時間は「たっぷり」あるので、
もう、なんなりと(笑)。
<つづきます>

ハーバード・ビジネス・レビュー オンラインでも
西條剛央さんの連載がはじまりました。

『ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門』

2014-09-22-MON