第2回 ソフトテニスから、心理学。

──
震災直後の2011年5月、
西條さんが
はじめて「ほぼ日」にお見えになったときのことを
とても印象深く覚えています。
西條
どうしてですか?
──
だって、
あまり「ほぼ日」のまわりでは見かけない
ビシッとした三つ揃いのスーツに
端正なお顔立ちをした大学の先生が
「コカコーラ・ゼロの缶」をひとつだけ持って
いらっしゃったので。

初対面のとき、コカコーラ・ゼロの缶と三つ揃いスーツの西條さん。

西條
あはは、僕は手ぶらが理想なんですが
そのころ、
コーラは僕の「命の水」だったんです。

不思議なことに、
今はまったく欲しなくなったのですが。
──
一見「クールそう」に見える西條さんの
そのような
「おもしろい人となり」については
その後、徐々に判明してくるんですけど‥‥
なにしろ、そのときは初対面でしたから。
西條
そうですよね。失礼しました。
──
糸井さんとの対談では
もう「つぎつぎとアイディアを言う」さまが
なんとも「すんごい」と思いまして
連載も、そういうタイトルにいたしまして。
(「西條剛央さんのすんごいアイディア」)
西條
対談は震災後2ヶ月くらいの時点で
まだ想像している段階の計画もありましたが
あのあと、支援者やスタッフのおかげで
思っていた以上に実現できたかなと思います。

──
そして、もうひとつビックリしたのが
西條さんって
もともと「ボランティア」をやってた人じゃ
ないってことと‥‥。
西條
はい。
──
西條さんが提唱し、ずーっと研究してきた
「構造構成主義」を応用して
あれらのアイディアを考えた、ということ。
西條
ええ。
──
なので、そのときからずっと
「あんなに、いろんなアイディアを生み出せる
 構造構成主義って、どんな学問なんだ?」
と、気になっていたんです。
西條
そうでしたか。
──
なにしろ、あのときの西條さんを見てたら
まるで
「べんりな魔法の玉手箱」を持ってるかのように
思えたものですから、
西條
そうですか。
──
でも、冷静になって考えてみれば
構造構成主義だって
決して「べんりな魔法の玉手箱」ではないと
思うんです。

問題を入れたら、いつでもどこでも
すばらしい解答がポンっと出てくるような。
西條
そうですね。

構造構成主義もひとつの「考え方」ですから、
そんなに都合のいいものではないです。
──
僕ら一般人には
詳しい理解は難しいかもしれませんが、
でも、そんな「構造構成主義」のことを
少しでもわかりたいので
まずはそこから、おうかがいしても?
西條
なるほど、承知しました。
──
そもそものところからお聞きしますと
西條先生は
「心理学」を専攻されていたんですよね。
西條
そうです。
──
どうして「心理学」だったんでしょう。
西條
そこから語りはじめるには
中高、大学とやっていたソフトテニスのことを
話さなければなりませんが‥‥。
──
ぜひ、お願いします。
ソフトテニスから‥‥心理学ですか。
西條
高校のとき、
僕はソフトテニスの部長をやっていたんです。
わりと、伝統的に強い高校で。
──
強豪校で、部長。
西條
そこで、「技術」と「メンタル」が
ともに備わってないと
試合に勝てないという苦い経験をしたんです。
──
なるほど、テクニックだけでも駄目だし、
精神力だけでも駄目だ‥‥と。
西條
極端にいえば
「技術 × メンタル=パフォーマンス」
なので、
「メンタルが0」だと
アウトプットも「0」になってしまう。
──
ははあ。
西條
そのことが
すごく「おもしろいな」と思ったんです。
──
具体的には、どんな「苦い経験」を?
西條
いちばんインパクトが大きかったのは
最後の高校総体の団体戦ですね。

それなりに強いメンバーで臨んだんですけど
初戦で負けちゃったんです。
──
へぇ。
西條
漫画の『スラムダンク』の桜木花道が陥った
「桜木ビジョン」みたいに
まったく動けなくなってしまった選手がいて。
──
極度に視野が狭くなってしまう、あの。
西條
対戦相手は、別に強くなかったんです。

サーブも入らないくらいだったんですけど
同じように
こちらもサーブが入らなくて‥‥(笑)。
──
つまり「入らない合戦」に付き合ってしまい、
しかも、負けてしまったと。
西條
抜擢された選手が、
ものすごく緊張しちゃったんですね。

実力はあったのですが、
はじめての総体でいきなり試合に出されて
相当プレッシャーを感じたんでしょう。
ラケットの真横を
ボールが何事もなく通過していったり‥‥。
──
強豪校のレギュラー選手としては、
考えられないミスなわけですね、それは。
西條
ボールも相手の動きも見えていないし、
僕らのアドバイスも、聞こえていない。

そんなふうにして負けてしまったことに
ものすごく理不尽を感じたんです。
──
理不尽、ですか。
西條
だって、選手たちはみんな、
朝から晩まで猛練習してきたわけですから。
──
でも、そういうことって、
多かれ少なかれ
誰にでも、経験がありそうですよね。
西條
そうですね。

やはり、どんなに鍛えても
メンタルの出力が「0」になってしまうと
結果を出すことができない。

そのことを「理不尽だ」と思うと同時に
「心って、すごいな」
「おもしろいな」と思ったんです。
──
それが、心理学に興味を持ったきっかけ。
西條
そうなんです。
<つづきます>
2014-09-23-TUE