第4回 プラスに考えられないときは?

──
高校時代、ソフトテニス部の「苦い経験」で
「心のおもしろさ」に目覚めた西條先生。

二浪の末に早稲田に入学したわけですから、
一転して
心理学の研究に打ち込んだ‥‥んですよね?
西條
いや、結局テニスやっちゃいましたね。
──
うすうす、そんな予感がしていました(笑)。
西條
高校総体でいい結果を出せなかったから、
「二度とやるまい」と誓ったのですが‥‥
体育会系のサークルに入ってしまいました。

でも、高校のときと大きくちがったのは、
「心理学を学んでいたこと」でした。
──
その考えをテニスに応用できた、と?
西條
たとえば、僕が幹事長だったとき
勝つためのセルフコントロールの方法論を
自分なりにまとめ、
それを選手に伝えて練習したら
主要タイトルをぜんぶ制覇したんです。
──
ぜんぶ?
西條
ええ、ぜんぶ。
西條
ぜんぶ、とおっしゃいますと‥‥。
西條
僕らが所属していた六大学連盟の
男子・女子、団体・個人、春・秋‥‥。
──
すごい。なんたるビッグウェーブ。
西條
それらをはじめとして、
他にも、目指していた主なタイトルは
すべて獲ることができたんです。
──
すごすぎないですか。
西條
個人戦は強い選手がいたから、ですが、
団体にしても、それまでは
「早稲田は、うまいけど勝てないよね」
と言われていたんです。

僕らの代も断トツに強かったわけではなく、
いつもギリギリで競っていました。

でも「競ったら勝つようになった」んです。
──
競ったら、勝つ。
西條
つまり、彼我の実力が拮抗している場合、
僕らは「心をコントロールする方法」を
持っていたのに対して、
相手は、その方法を持っていなかった。

その結果、
「競れば競るほど勝てるようになった」
んです。
──
おお、おもしろいです。
もっとくわしく、聞かせてください。
西條
たとえば
「勝てば1位だけど、負ければ3位に転落」
みたいな状況が、あったとします。
──
ドキドキする場面ですね。
西條
そんなとき人は「ポジティブに考えろ」って
言うじゃないですか、よく。

でも、そんな「追い詰められた」場面では
人間、なかなか
ポジティブになんて考えられません。
──
それができたら、苦労ないですよね。
西條
むしろ、次のポイントを取られたら
ああなって、こうなって、負けちゃう‥‥
みたいに、頭のなかで
負のストーリーができあがってしまう。
──
悪いほうへ悪いほうへ‥‥と。
西條
そういう状態に陥ると、
ふだんなら、難なく入れられるサーブが
入らなくなってしまうんです。

心と連動して、
身体が緊張してしまうんですね。
──
どうすればいいんでしょう。
西條
身もフタもないような答えですが、
「何も考えない」、それしかないと思います。

思考が悪いほうへ向かいそうなとき、
僕は、手の平に「集中」と書くんですが、
場合によっては、より直接的に
「何も考えない」と書いていました。
──
そこまで徹底して「無」になろうと。
西條
試合の流れに沿うことも大事なので、
「水のように」とかね。
──
でも、考えないように考えないように
ぐるぐる考えるほど
考えちゃうってこと、ないでしょうか。
西條
ありますよね。

そういうとき、どうするかというと
僕が独自に編み出した方法なんですが‥‥。
──
ええ。
西條
一瞬「頭を振る」んです。(頭を振る)
──
えっと、「実際に頭を振る動作をする」、
ということですか?
西條
そう。瞬時に。こうやって。(頭を振る)
──
はー‥‥。
西條
『サザエさん』のカツオみたいに
よけいな雑念が
ホワンホワンホワワワ~ン‥‥と
出てきたなと思ったら、
すぐさま、サッと「頭を振る」んです。

ちいさな動作でもいいので、
一瞬「脳を揺らす」ような要領で、サッと。
──
それはまた、何でですか?
西條
ロダンの「考える人」も
アゴに手を当てて座っていますけれど、
人が考えをめぐるらせるときって
じいっとして動かないじゃないですか。
──
ええ。
西條
ですから、逆に言うと
人間って「脳が揺れている状態」では
「考える」ことができないんですよ。
──
つまり物理的に「脳を揺らす」ことで
雑念や悪い考えを、消し飛ばしちゃう?
西條
そうです。

僕独自の方法ではあったんですけど、
追い詰められた場面を
これで、けっこう乗り切りました。
──
今度やってみようかな‥‥。
西條
騙されたと思ってやってみてください。
けっこう、おすすめですよ。

自分の経験からすると、頭の中で
「こうなって、ああなって、こうなるよな」
と文章にしてしまった時点で駄目。
──
マイナス思考が、身体を緊張させてしまう。
西條
ですから、僕は
「あ、よけいなこと考えはじめてるな」
と気づいた瞬間に、
そのつど、頭を振って消してました。
──
つまり、どうしても
プラスの方向に考えられないときは
「考えない方法」を取れ、と。
西條
そう、考える時間のあるプレーほど
よけいな思考が
邪魔してしまうことがあるんです。

だから、サッカーのPK戦のときとか
いいと思うんですけどね。
──
なるほど‥‥。
西條
実際、宮城県の古川西中学校の講演で
構造構成主義のエッセンスの話とともに、
このことを紹介したら、
ある親御さんから、
「バレーボールの部長をしている娘が、
 サーブのときに実践して
 はじめて大会で3位に入賞しました」
と、うれしい連絡をいただいたんですよ。
──
この西條先生の方法論が広まったら
いろんなスポーツ選手が
選手が頭を振るようになったりして。
西條
そうなったら、おもしろいかもですね。
誰でも簡単にできますし。
<つづきます>
2014-09-25-THU