「weeksdays」には何度か登場いただいている
「パリのチャコさん」こと、鈴木ひろこさん。
じつは6年ほどかけて、パリ発でメイドインジャパンの
下着づくりをしていたのです。
ブランドの名前は「LERET.H」(ルレ・アッシュ)。
その立ち上げの話を、オンラインで、
伊藤まさこさんがたっぷりききました。

鈴木ひろこさんのプロフィール

鈴木ひろこ すずき・ひろこ

スタイリスト、ライター、コーディネーター、
ファッションコンサルタント。
パリ在住29年。
スタイリストとして、雑誌や広告、
音楽関係などで経験を積んだ後、渡仏。
現在は、女性誌を中心に
パリをはじめ、ヨーロッパ各国で取材・執筆を行い、
ファッション撮影のキャスティングや
オーガナイズを手がける。
日々、パリの街を歩きながら、
人、モノ、コトなど
さまざまな古き良きものや、
新しい発見をすることが趣味。
著書に『フレンチ・シャビーのインテリア』
『大人スウィートなフレンチ・インテリア』
『パリのナチュラルモダン・スタイル』
『シャンペトル・シャビーの家』
(グラフィック社)などがある。
「weeksdays」では、オンライン対談
「パリのチャコさんと、おしゃれについて1時間。」
「いま、どんな風に過ごしてますか?」に登場、
その1年後のようすをエッセイで寄稿。
さらに「saquiはクチュール。」でもコラムを執筆。
などに登場。

●Instagram

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下着はわたしをご機嫌にする

伊藤
チャコさん、
この「LERET.H」(ルレ・アッシュ)という
下着ブランドの立ち上げのために、
ずいぶん長い間、準備をしてらっしゃいましたよね。
鈴木
そうですね。
ほんとに大変な世界に
足を踏み入れちゃったなっていう感じですよ(笑)!
伊藤
準備期間は3年くらいでしたっけ。
鈴木
もっとですよ。元々のきっかけは。
2015年の11月にパリで起きた同時多発テロでした。
当時住んでいた11区のアパートのすぐ近所の
カンボジア料理屋さんやカフェで銃声が響き、
コンサート会場でも、結構な方が亡くなって。
それを機に、普通の日常がどれだけ大切か、
明日はそうじゃなくなっちゃうかもしれないんだ、
っていうことをすごく考えたんです。
そして、そのテロの影響で、
2016年と17年のほぼ2年間、
ゼロではなかったけれど、
日本からのお仕事がガクンと減ってしまって、
それまで依頼を受けてやってきた仕事を
見つめ直すきっかけになったんです。
受け身で、今までコンスタントに続いてきたのは、
決して当たり前じゃなくて奇跡だったんだなって、
改めて思いました。
ヨーロッパにいたらテロや人災が起こるかもしれないし、
日本の場合は大雨とかいろんな天災があるかもしれない。
それで何かできないかな? 
私から発信できるものはないかなあ? と。
その2年間、つまり暇だった時期に考えたのが
「下着」だったんですよ。
伊藤
なるほど~! 
鈴木
じゃあなぜ下着だったのかというと、
その当時、ちょうど、ヨガをやり始めたんです。
そしてね、私、体がほんっとにカチカチで、
みんなが簡単にできるポーズもつらいほどでした。
でもそのとき、自分のTシャツの下から
チラッと見える下着の色に、
ちょっと励まされたんです。
今日はこんな色のブラだったんだ、ということが、
ちょっと嬉しかったりして、
つらいけど、このポーズをもう5秒頑張ろうとか。
下着からもらえるパワーってあるんですよね。
伊藤
「自分だけの楽しみ」
っていう感じが、すごくします。
鈴木
そうなんです、そうなんです。
誰にも分かってもらえないかもしれないけれど、
目には見えない、自分の中のご機嫌をよくするのに、
下着が大事だなと、私はすごく思いました。
それで「下着をつくろう!」と思ったんだけれど、
なんのコネクションもなかったので、
下着会社さんを50社選んで、
その50社にお手紙を書いて、会いに行きました。
たしかにこの話、
伊藤さんにしていなかったね(笑)。
伊藤
初めてうかがいました! 
50社にお手紙を書くって‥‥日本のですか?
鈴木
日本のです。
フランスにいたから、
フランスのメーカーも調べたんですが、
生産の問題とか、納期の問題とか、
いろいろ不安があって。
ヨーロッパでつくるものって、
モロッコかポルトガルでの生産が多くなるんですけど、
ちっちゃい無名の個人で始めることだし、
さらにそれを日本で展開することを考えたら、
とても無理だなと思いました。
だから、メイドインジャパンにしようと。
クオリティがいいですしね。
それで、ネットで調べた50社に、
こんなことを考えてます、と手紙を送りました。
私は下着に関してはド素人だけど、
今ヨーロッパにいて、こうでこうで、
もうちょっと詳しい企画を
お話させていただけるんだったら、
帰国の際に会いに行きます、
という内容の手紙です。
そうしたら、38社からお返事をいただきました。
伊藤
え?! すご~い!
鈴木
38社の方が「会いたいです」って言ってくださった。
なので、帰国をして、
1人で、順番に、企画書を持って会いに行きました。
伊藤
38社に?!
鈴木
うん。38社に(笑)。
伊藤
すごいですね~。
‥‥そもそも、最初の50社を、
どうやって選んだんですか。
鈴木
今はほんとにネットでいろいろなことがわかりますよ。
下着だからというわけじゃないかもしれませんが、
ちょっと怪しい会社とかもあるんです。
全国にはもっとたくさんの下着メーカーがあるんですが、
私の日本での拠点は東京なので、
関東近郊に絞っての50社でした。
もし関東近郊でダメなら、
北海道や四国、九州のメーカーなど、
範囲を広げようと思ったんですけど。
伊藤
じっさい、お目にかかって、どうだったんでしょう、
その38社は‥‥。
鈴木
いろいろな反応がありましたよ。
「どんな人がこんな図々しいことを、
フランスから手紙をくれたか、
あなたの顔が見てみたかった」
って言われただけのところもありましたし(笑)、
「そんなに甘いものじゃない、
そんな素人が簡単にできるようなことじゃない、
まぁとにかく頑張ってくださいね」って、
ちょっと皮肉みたいなことを言われた会社もあったし、
「自分のところの商品をパリで売って欲しい。
そうしたらあなたのやりたいことにも
ちょっと協力しましょうか」
みたいなところもありました。
伊藤
そんな‥‥。
鈴木
ほんとにいろんな方がいらっしゃったんですけど、
でも皆さんに会ってお話を聞くのが、
私にとっていい経験だなと思って!
伊藤
すごいです。それで、1社を選ばれた?
鈴木
はい、そんななかから、2社まで絞り込みました。
そのうちの1社が、武漢の近所に自社工場を持っていて、
コロナでどうなるか分からないからと
立ち消えになりました。
そして今一緒につくって下さってる
「BLOOMLuXE」(ブルームリュクス)という会社と
組ませていただくことになったんです。
ここは補正下着をつくってる会社で、
体のラインを補正することに特化していました。
つまり私がやりたいことと真逆なんです。
けれども、そこの社長さんと、女性の営業の方が、
私の話をちゃんと、真摯に聞いて下さった。
コロナがあって、「BLOOMLuXE」もたいへんななかで、
「やりましょう。ここまで来たのだから」と
おっしゃってくださったんです。
結果、最初のその50社にお手紙書いたところから、
6年ぐらいかかっての立ち上げでしたね。
その間は、私も幾度か帰国して、
サンプルをチェックしつつの進行でした。
オンライン会議だけだと、
なかなか商品をつくるのが難しいですから。
伊藤
はい、その様子は、すこしうかがってました。
「補正下着と真逆」っておっしゃってましたけど、
チャコさんが最初につくりたい下着っていうのは、
どういうものだったんですか?
鈴木
私は、ほんとにもう、
寄せてとか上げてのような、
補正はしなくていいと思ってました。
伊藤
フランスの方の下着って、
補整系じゃないですものね。
鈴木
そうです。パッドもなくって、
ちょっと見えても気にしないみたいな。
私、雑誌などの撮影で、
ヨーロッパの普通のマダムや
パリジェンヌの取材をする機会が
いっぱいあったんですね。
皆すごいんですよ、
人前でバーンと脱いで、
「次、じゃぁ私何を着ればいいのかしら?」って。
ほんと皆さん、平気で脱ぐの(笑)!
伊藤
パリのブティックに行くと、試着室でも、
1人ずつ区切られてなかったりしますよね。
鈴木
そうなんですよね。皆さんおおっぴら。
だから、皆さんがどんな下着をお召しなのか、
知ることができるじゃないですか。
それで、妙齢のマダムでも、
こんなに素敵なのを着けてるんだ! というのは、
ずっと思っていたんです。
日本のマダムは年齢をどんどん重ねていくにつれ、
どんどん諦めて、自分を控えめにしちゃうけど、
ヨーロッパの女性たちのように、
表面はただのTシャツやシャツだけど、
脱いだらすごく素敵なものを身につけている、
っていうのが衝撃だったんです。
だから、大人が心地よく、身につけていて、
なんだか楽しい気分になるものをつくりたいと。
そのためにワイヤーとか、厚いパッドは不要、
というところから始めました。
伊藤
製品化までにはかなりの試作を繰り返して?
鈴木
はい。なにしろ補正下着の会社にお願いをしたわけなので、
あちらの標準でいくと、
ホックの金具ひとつにしても、
絶対取れないように、しっかりしているわけです。
それでは、私のつくりたいものにしてみたら、
色気がなさすぎる。
伊藤
そうなんです、チャコさんの「LERET.H」は、
ホックひとつが、かわいいんです。
鈴木
難しかったですよ。
表面にデザインは要らないけれど、
さりげなくゴールドでとか、
そういうふうにしたかった。
でも金具って、ミニマムロットが何千個とか、
そんな世界なんですね。
でも、ロボコップみたいな金具はいやだし、
かといって、何もつけないで脱ぎ着できるものは、
スポーツブラっぽくて、それもいやで。
見た目はシンプルなんだけれど、
ちょっと艶感が出したかったんですよ。
そういうところでずいぶん試行錯誤をしましたね。
伊藤
話をしていく中で、段々通じ合えてきたんですか? 
「チャコさんは、そういうことがしたいんだ」みたいに。
鈴木
はい。よかったのが、担当の方が女性で、
彼女はもう、商談っていうと
⿊いスーツをパリッと切るようなタイプの⽅なんですね。
つまり私たちの周りにはいない
タイプの方なんだけど、
その彼女がすごく賛同してくれたんです。
彼女は商品として、体を締め付けることだけを
営業してきたけれども、
こういう真逆のものがあることも、
女性にとってすごく大事だって、
彼女がまず賛同してくれた。
そしてパターンをつくってくれる企画の部長さんも女性で、
私を含めてこの3人が、
全くタイプは違うんですけど、すごく気が合ったんです。
伊藤
気持ちよかったり、
つけてて嬉しいっていうのが、
3人の共通の目標に? 
鈴木
そうです。まずやりたいっていうことを
受け止めて下さったのが、一番大きいと思います。
最初は「これってナイトブラですか?」と
おっしゃるんだけれど、
私は「ナイトブラって何ですか?」。
そういうものの存在を知らないの(笑)。
「じゃ、家に帰って着るものですか?」
「いや、外でも着ていただけるし、
家に帰って着ていただいてもいいし、
夜寝るとき着ていただいてもいいけど、
私は外にそのまま出て行きます」って、
それが、なかなか理解されなかったんです。
「パッドがなければ、胸のポチを、
日本の方は気にします」とか。
伊藤
なるほど。
逆に補正下着の会社だからこそ、
チャコさんが今回よかったなって
思えたことはありました?
鈴木
まず、下着をつくる技術がきちんとしていました。
自社工場が九州と千葉にあって、
ほんとに100パーセントジャパンメイドでつくられている。
しっかりとした土台がある会社ですね。
それと、親会社が素材を持っているところで、
「こんな素材があるといいな」って言ったとき、
すぐに「こういうのがあります」と
出てくるんですよね。それがすごくよかったです。
伊藤
チーム以外の、先方の会社のみなさんは
どういうふうに思っていたのかしら。
営業のおじさんとか‥‥。
鈴木
おじさんたちは、一切前に出てこなくて、
話してないんですけど、
そういえば年に1回の会議の席で、
親会社の社長さんから、営業の方が、
こんな風に言われたそうですよ。
「ルレアッシュみたいな新しい試みも、
やってみる価値があるんだね。
ちょっとずつ、ゆっくりだけど出せたらいいね」。
伊藤
わぁ! すごくいい会社ですね!
鈴木
ほんとに恵まれました、
「BLOOMLuXE」との出会いは。
(つづきます)
2022-09-04-SUN