パリ在住30年の“チャコさん”こと鈴木ひろこさんが
「weeksdays」に登場してくださったのは、
コロナ禍のなかでのオンライン対談
「いま、どんな風に過ごしてますか?」
でのこと。そのあと、コラム「おとなの水着事情。」
「saquiはクチュール。」などを通じて、
ヨーロッパのおとなの女性たちのおしゃれについて
たくさん教えてくださいました。
そのチャコさんが、今回、一時帰国。
ムートンバッグでの私服コーディネートをお願いした
撮影のあと、伊藤さんとおしゃべりした
「おしゃれ談義」をおとどけします。
年齢をかさねるごとに、
深く、かろやかに、たのしくなるのが「おしゃれ」。
とっても元気のでるお話ですよ!

鈴木ひろこさんのプロフィール

鈴木ひろこ すずき・ひろこ

スタイリスト、ライター、コーディネーター、
ファッションコンサルタント。
パリ在住29年。
スタイリストとして、雑誌や広告、
音楽関係などで経験を積んだ後、渡仏。
現在は、女性誌を中心に
パリをはじめ、ヨーロッパ各国で取材・執筆を行い、
ファッション撮影のキャスティングや
オーガナイズを手がける。
日々、パリの街を歩きながら、
人、モノ、コトなど
さまざまな古き良きものや、
新しい発見をすることが趣味。
著書に『フレンチ・シャビーのインテリア』
『大人スウィートなフレンチ・インテリア』
『パリのナチュラルモダン・スタイル』
『シャンペトル・シャビーの家』(グラフィック社)
などがある。
「weeksdays」では、オンライン対談
「いま、どんな風に過ごしてますか?」に登場、
その1年後のようすをエッセイで寄稿
さらに「saquiはクチュール。」でもコラムを執筆。

●Instagram

その1
人生をカバンに詰め込んで。

伊藤
今回、なぜチャコさんに
モデルをお願いをしたかというと、
いつもInstagramを拝見していて、
チャコさんのファッションスナップが
すごくかわいいと思っているからなんです。
しかも、バッグを持っていることで、
おしゃれが完成している気がして。
▲いつもバッグと一緒のチャコさんのおしゃれ。
鈴木
本当ですか。うれしいな。
伊藤
Instagramの写真は、
どなたが撮影を? 
鈴木
取材や撮影でごいっしょさせていただいた
プロのかたがいらっしゃると、
終わった後に撮っていただいたり。
そういうときはクレジットを入れているんですよ。
伊藤
そうなんですね。
着るものって、いつも、何から決めていくんですか、
たとえばわたしは靴から決めるんですけれど。
鈴木
うーん? 本当に何も‥‥。
伊藤
バッグも、靴も、全部でチャコさん、って感じがする。
どれひとつとして欠かせないって感じがするんです。
鈴木
そのときの気分気分なんですよ。
あるいはその日の天気、その日の行動。
ふたつ出かける先がある日に、
一回帰って来られるかどうかでも
着てゆく服が変わりますよね。
伊藤
そっか。仕事に出て、
そのままプライベートの食事に行く日の装い。
なるほど。
鈴木
パリは小さいから、
出先から住まいに一度帰ることも、
できなくないんですよ。
時間にすこしでも余裕があるときは、
帰って着替えます。
そうすると、自分の気持ち、気分も変わるから。
伊藤
よくわかります!
鈴木
でも出先が1箇所だったら、
朝起きたときのお天気が大事かな。
そこから、今日はどんな色だろう、って。
伊藤
色?
鈴木
そう、私、色から選ぶかもしれない。
「なんだかブルーな感じ」とか。
伊藤
そうなんだ!
鈴木
パリって、曇天が多いんですよ。
だから朝から曇っている日には
「少し明るい色にしよう」と。
たとえば、今日は薄いピンクのコートを
着てみよう、というふうに考えたり。
伊藤
うんうん。
鈴木
あるいは
「今日はヌードカラー(ベージュ系)にしよう」
とか。
伊藤
お天気や気温に適応して、色を考える。
それで、色を決めたら、
最初に選ぶのは‥‥靴、ですか?
鈴木
うん。そうですね。
伊藤
そして、バッグ?
鈴木
そう、バッグ‥‥バッグといえば、
フランス人のおもしろいところは、
いくらだらしなそうに見えても、
お家はみんなきれいなんです。
なのに、バッグの中はぐちゃぐちゃなんですよ。
伊藤
えっ? バッグだけ?
鈴木
そう、バッグの中はグッチャグチャで、
伊藤
ええーっ?
鈴木
ジェーン・バーキンがそうなんですって。
大きめのバーキン(エルメス)に、
口が締まらないくらいにモノを入れているので、
人生を詰めて歩いてる、って言われます。
伊藤
毎日バッグを替えるわけじゃないのかしら。
チャコさんは、毎日持つバッグを
替えている印象があるけれど。
鈴木
私は、そうですね、
そのときの用途に合わせて替えています、
伊藤
そっか、バーキンは、人生を詰めて‥‥。
鈴木
そう言うんですよ、ふつうのフランス人も、
インタビューをすると、
「そうなのよ、私たちは人生を詰めて歩いている」って。
おもしろいでしょう? 
伊藤
いったい、人生の、何を詰めているんだろう?
鈴木
銀行の小切手とか(笑)?
伊藤
ええっ(笑)?
鈴木
今はもうみんなデジタルになっちゃったけど。
でも、お財布や家の鍵はもちろんだし、
水道の請求書とか、パスポートや身分証明書、
いろんなものが入っているの。
伊藤
パスポート?! 
IDを求められることが多いからかなぁ? 
日本にいたら、家の大事なところに
仕舞っておきますよね。
鈴木
なぜそんなにいろんなものを持って行くの? 
と訊いたら、
「パンッ! と、すぐにどこかに行けるように」
って言った人もいた。
私はそんなふうには考えていないですよ、
それはまたどうかと思うほうで。
伊藤
そっか、パスポートも、
ヨーロッパ内の地続きのところなら、
すぐに行けるでしょ、って意味なのかも。
鈴木
そうですね。パッと電車に乗って、
パリからブリュッセルにお茶を買いに行っちゃうとか。
大きなバッグにぜんぶ入っていれば、
思い立ったらすぐ行けるものね。
でもね、みんな、バッグの中がそんなだから、
探し物も多いんです。
夕方、スーパーのレジに並んでいて、
前の人、ずいぶん遅いなと思うと、
一所懸命お財布を探してたり。
伊藤
そうなんだ。
鈴木
だいたいがグチャグチャなんです。
日本の女性は、このポケットにこれを、
みたいな感じでしょう? 
そういうの、ないですね。
伊藤
じゃあ、バッグ・イン・バッグなんか、
使わないのかな。
鈴木
そうですね。以前はそういう習慣はなかったかも。
でも、最近増えてきた‥‥かな? 
とにかく、なんでもかんでも詰め込んでます。
伊藤
夜、食事に行くときはどうするんだろう。
鈴木
食事に行くときはね、
大きなバッグは野暮だから、
小っちゃなバッグで。
それは絶対。
伊藤
そうですよね。
以前、パリに行ったとき、
レストランで隣の女性が、
こぉんなに小っちゃいビーズのバッグを、
ポンってテーブルの上に置いて、
そこからタバコを出していたのが格好よかった。
小っちゃなバッグの時は、
本当に、必要最低限のものだけを入れているんですよね。
それを見習ったわけじゃないんですが、
私は、本当に、バッグ、小っちゃいんですよ。
鈴木
うんうんうん。知ってる(笑)。昔からそう。
伊藤
私って、人生が何もないのかしら!
鈴木
(笑)フランスの人たちは、
なんていうのかな、いつも「押せ押せ」なの。
ちょっと時間があったら銀行に行って、
この支払いをしなくっちゃ、とか、
郵便局でこれを出さなくちゃ、とか。
だからなんでもかんでも「ひとまず」バッグに
詰め込んじゃうんだと思う。
伊藤
へえーっ。
鈴木
人生がハチャメチャっていうか!
伊藤
そんななのに、なぜ、家はきれいにできるんだろう。
鈴木
そこが不思議なんです。
わからない。ミステリアス。
本当にきれいなんですよ。
クローゼットの中とか、すごくきれい。
「え、家政婦さんを雇っているの?」
と訊くレベルできれいなんだけど、
「ううん、私がやってる」って。
伊藤
アイロンをかけるのも好きですよね。
なのにどうしてカバンの中だけ。
鈴木
ほんと。あと、車ね。
ちらかってるのはバッグと車です(笑)。
ダッシュボードの中とか、ひどいの。
蓋とか締まってないし。
あれだけスリや泥棒のいる国なのに‥‥。
請求書は持ってても、
あんまり現金は持ち歩かないからかなあ。
伊藤
なんか、でも、それを含めてかわいいなあ。
鈴木
そうですね。
伊藤
なるほど、なるほど。
パリの女性たちは、
バッグにもオンとオフがあるってことですね。
鈴木
そうですね。靴よりもバッグの方でTPOをつけるかも。
日本だと、ちょっと素敵なドレスコードがあると、
女性はヒールのある靴を履くでしょう。
パリの人は、靴はわりとラフで、
ぺたんこの靴で行ったりもするけれど、
バッグには凝りますよ。
ちゃんとしたお出かけにエコバッグなんて絶対ダメ、
せっかく素敵な所に行くのに! って。
伊藤
ああ!
鈴木
それじゃ「取り急ぎ駆け付けました」感が
出ちゃうからかもしれないですね。
お呼ばれなのか、
友達とのディナーなのかわからないけど、
準備が間に合わなくて駆け付けてきたっていう感じに。
伊藤
わたしも、夜、あらためて出かけるときは、
仕事先からいちど家に戻って、
バッグと服は替えることにしています。
今住んでいる場所は交通の便が良いし、
もちろん自分のためでもあるけれど、
「これから会う人のために時間をつくる」みたいな。
鈴木
そうですよね。そういうのがいいのかも。
(つづきます)
2021-11-15-MON