REPORT

ストックホルム 明知直子さん[1]
必要なものと不必要なもの、
スウェーデンの人々を支える自然。

コロナ禍のなか、伊藤まさこさんが、
世界各国の9つの街に住む友人たちと
オンラインで話をしたのは、
ちょうど1年前のことでした。
「1年後にはきっと会えるね」
‥‥なんて、そのときは思っていたのに、
いまも、わたしたちの暮らしは、ままならないまま。
ひさしぶりにみなさんに連絡をとり、
それぞれの様子を綴っていただくことにしました。
遠い町のようすを、たっぷり、連載でおとどけします。

(前回のオンライン対談は、こちらからごらんくださいね。)

登場するみなさま

(登場順)
ストックホルム‥‥明知直子さん
ロンドン‥‥イセキアヤコさん
ホーチミン‥‥田中博子さん
パリ‥‥鈴木ひろこさん
ハワイ‥‥工藤まやさん
ミラノ‥‥小林もりみさん
メルボルン‥‥田中博子さん
ニューヨーク‥‥仁平綾さん
ヘルシンキ‥‥森下圭子さん


明知直子さんのプロフィール

あけち・なおこ
1979年生まれ。
フォトグラファー、コーディネーター、
ライター、通訳・翻訳。
千葉大学美術・図工教育課程終了。
その後、IDEEにてインテリアコーディネートに携わる。
2007年渡瑞。北極圏の街キルナに語学留学し、
スウェーデン最古の街シグチューナで写真を学ぶ。
現在、ストックホルムを拠点に
北欧の魅力を伝えるプロジェクト
「Handcrafteriet」(「手でつくる」の造語)にて、
幸せは自分たちで作る北欧のライフスタイルや
暮らしを彩るヒントを探っている。

「ほぼ日」では
2012年のほぼ日手帳springの限定カバーで
「ダーラナの春」を販売したさい、
ダーラナ地方と、ダーラヘスト(木彫りの馬)の
魅力を伝える写真のコンテンツに登場。
「weeksdays」では2019年11月に
冬支度のコラム「冬の愉しみ」を執筆。

著書に、『北欧スウェーデン 暮らしの中のかわいい民芸』(パイインターナショナル)がある。

■明知直子さんのInstagram
■オオロラ手帖のInstagram


「もう」なのか「やっと」なのか、不思議な1年でした。

ちょうどコロナの感染が広がった3月には
旦那さんはテレビ撮影チームとともに
スウェーデンの北から南まで撮影で移動しており、
クルーをデンマークのコーディネーターさんに
バトンタッチした直後、
イタリアがロックダウンを宣言。
その後ヨーロッパの国々が次々と封鎖されていきました。

危機を迎えた世界は、
必要なものと不必要なものがはっきり見え、
不思議な静けさがありました。
そしてその中では危機に立ち向かうある種の一体感も
人々のあいだに生まれていたように思います。

▲セーデルマルムでバスを待つ人々。

日本からクライアントが来る仕事案件は
すべてキャンセル・延期になりました。
時間だけはたくさんあり、
ちょうど季節は白夜が進んでいく時期。
「人と会う時は外で」という公衆衛生局の推奨もあり、
一気に盛り上がったアウトドアブームに便乗し、
夏は自宅の庭にテント泊。
季節を問わず焚火で沸かしたコーヒーで、
隣人や友人家族と自然の中で会うのが日常になりました。

▲この一年で揃ってきたアウトドアグッズ。
焚火で使える柄が長いフライパンやワッフルを焼く道具、
粗く挽いたコーヒーを煮出すケトルや
サーミの人々が使う木をくりぬいたコップ(コーサ)など。
自然から得られるものに助けられた一年でもありました。

自分が直接の恩恵を受け、
自然がより身近なものになると
この森がどのように守られているのかが気になりました。
そんな時ふと見つけたのが、
環境保護団体Fältbiologernaが作った
森林伐採のドキュメンタリー映画
スウェーデンの森も
アマゾン原生林のように伐採されている現実があり、
生物多様性のある原生林が
失われつつあることを知りました。

▲家から歩いてすぐの自然保護区の森。
植林された森と違い「原生林」には生まれたての木も
年老いた木も共存しています。
朽ち果てた木にしか生息しない
珍しい虫やキノコなどもいるそう。

▲枝についているのはトナカイ苔。
冬の間のトナカイの貴重な食料です。

日本に住んでいた時は、
「自然にゴミを捨ててはいけないのはマナーだから」
と教えられましたが、
ここでは夏はベリー摘み、秋にはキノコ狩り、
冬は凍った湖でスケートを楽しみ
春がきたら刺草の葉でスープを作る。
自然は自分の暮らしの一部で
みんなの共有財産という認識です。
このスウェーデン人独特の肌感覚は、
自然に親しむ時間がなければ、わからない感覚でした。

▲寒いスウェーデンでゆっくりと育った木から、
伝統的なかごや木工作品を作る職人ビョルンさん。
彼の作品販売のイベントお手伝いで得た利益の一部を
団体に寄付しました。

▲環境保護団体のFältbiologernaが作った
森林伐採のドキュメンタリー映画のトレイラー。

▲ビョルンさんと柳の木。
柳は森の中で春一番に花を咲かせる木なので、
森の昆虫達が必要な春先は
この木を採らないようにしているのだそう。

2021-04-24-SAT