帰ってきた松本人志まじ頭。
去年の正月も,この人で明けたっけ。
大人気企画が、帰ってきた!
松本人志さん。またまた、鼠穴に登場。
放送作家の高須光聖さん、謎の若隠居の末永徹さんを交え、
コタツでミカン食いながら、話題はどこまでもブブカのごとく。

予告篇

第1回 ヒマなのだろうか。

第2回 結婚は、したいのだろうか。

第3回 世の中は、変化しているだろうか。

第4回 血のいれかえ。

第5回 いつから「食える」と感じましたか。

第6回 考え抜いたことと、考えなかったことと、
    結論はたぶん、おんなじになるような。

第7回 勝利の方程式は、ないけども。

第8回 価値のあるものは、何だろうか。

第9回 話している動機を知りたい。

第10回 ぼくの場合は、絵を描いて、ピンで貼って。

第11回 テレビに自由は、あるのだろうか。

第12回 服装がヤバくなるのは、なんでだろうか。

第13回 ぼくたちは、着るものをどう変えるだろうか。

第14回 ジェラシーに、どうやって反応するのだろうか。

第15回 頂点に行ったあと、人はどうなるのだろうか。

第16回 多数の人の理解を、得られるのだろうか。

第17回 頂点にいるキチガイのすごさは、何だろう。

第18回 言葉は、究極のフリーウェアだから。

第19回 潜在能力への信頼が、お金の本質。

第20回 痛みを忘れないけど、攻めるというような。



(※今回で、「帰ってきたまじ頭」は最終回です。
  前回の話のつづきで、「100円を捨てる」という
  お金についての話を笑いの比喩にもしながら、
  最後の一言まで進みます。では、どうぞ)

糸井 100円玉を投げる授業をしたのは、
ぼくの体験がもとになっています。

小さい頃、
氷の張りかけたお堀に石を投げて
チュンチューン、と飛んでいくのを観て、
かなり楽しんでいた時があったんですけど、
とうとう近くに石がなくなった時に、
自分のなけなしの50円玉を投げてみたんです。

その時に「あれ?」とぼくが感じた
不思議なものを、みんなにも
感じさせてあげたい、と思って
ぼくはその授業をやってみたんです。
「これは100円では覚えられない感覚だよ」
という、ほんとは、とても
親切なはずだったんだけど・・・。
松本 でも結局、それを
「もったいない」
と言う人が、いっぱいいたんですか。
それ、ぼくが番組を作っている時に
よく感じさせられることと、似てます。

「食べ物を粗末にするな」
という苦情があるじゃないですか。
例えば、ごはんならごはんを、
地面にビタンとしたとして、それを
「もったいない!」と言う奴がいるけども、
ぼくはその時に、いつも思うんです。

「ごはんを、口に入れることの
 利用価値しかないと思うなよ!」

ごはんをビタンとした時に、
それがものすごくおもしろければ、
もう、ごはん程度の価値は
果たされたじゃないか・・・。
そういう考え方を理解してくれる人が、
少ないんですよ。
糸井 それは、宗教だからですよね。
「ごはんを食べる教」というのがあって、
「食べものを粗末にしない教」があって、
でも、松本教は、
「ごはんはいろいろ使える教」だから・・・。
松本 絶対に分かちあえないんですよ。
糸井 宗教戦争だ。
松本 100円も、確かにかたちとしては
「捨てる」ことかもしれないけど、
使い方によっては、
100円以上に楽しめるんだから、
ぼくはそれで充分に100円の価値を
果たすことができたと思うんです。
糸井 そうなんです。
だから、そういう教室には、
できませんでしたという奴がいたり、
そこから逃げようとして
斜めに対峙する奴もいるけど、
やっぱりいちばんトクしたのは、
「捨てた! ああ気持ちよかったあ!
 ・・・何なんでしょう、この感じは!」
と言った奴だと思います。
末永 捨てることができない人が多いと聞いて、
それだけ、お金というものへの執着が
人間にとって本質的なもんなんだなあ、
ということを感じます。

約束のしるしのあるものを作って、
それをある種の神聖なものとして
流通させるというのは、昔からの、
人間の本性なのでしょうね。
糸井 そこまで密になっている宗教は他になくて、
日本は、いま基本的には「お金教」ですよね?

ぜんぶをお金で判断するような
今の感じに移行できたのには、
実はお金に対する伝統的なイメージが
すでに江戸時代から
下地にあったからだろうなあと思います。

江戸時代からお金を捨てていたとしたら、
今、こんなに、捨てることに対して
「背信的だなあ」とは感じないと思うから。

末永さんは、前に証券会社で
何億という単位のお金を扱っていて、
感覚がぶっとんじゃったりしないんですか?
末永 だんだん、トレーニングされるんですよ。
会社に入った時には、大学生の金銭感覚ですから。
糸井 「牛丼は安い」という金銭感覚ですよね。
末永 まあ、大前提としては、会社のお金と
自分のお金は違うという感じがありますけど、
でも最初は、それもほとんど区別ないですね。

大学生だったやつが仕事をはじめて
会社にとってはすごく小さなお金だけど、
取引をしていると、はじめから、
100万ぐらいは簡単にふっとぶんです。
大学生にとっては、すごい大金ですから、
ぼくは最初に100万円を損した時、
打ちひしがれましたよーっ。
・・・その日いちにち、口がきけないくらい。

でも、だんだんそれに慣れてきます。
だんだん取引にうまくもなるし・・・でも、
気が大きくなっちゃあ、だめなんですよね。
やっぱり「損するのは怖い」という気持ちを
いつでも持っていないとだめで、
会社のお金だから損をしてもいい、
というのは、だめな態度なんです。
糸井 「俺は、バクチ打ちなんでぃ」
って言っちゃうことは、ないんですね?
末永 ないと思います。損する人は
会社にとって、困りますから。
松本 そうやってお金を使う感じは、たぶん、
ぼくがテレビで頭をはたかれることと
似ているんじゃないかなあ・・・?

プライベートで叩かれると腹が立つけど、
でも、舞台の上ではたかれてるのは、
あれはぼくの頭じゃないんですよね。
末永 あ、そういう感じです。
糸井 ふだんまで平気になったら、おしまいで。
そしたら、それは、人間じゃないからね。
松本 (笑)そう。
頭をぱーんとやられて
痛さを感じなくなってはだめですよね。
でも、それを嫌がりすぎても、だめですし。
糸井 週刊誌に「毛ジラミ」と書かれて
うれしいと思う感性を持っている人間って、
たぶん、いないと思うんですよ。
「腹立つわ」っていうのが、ほんとうで。
松本 うん。
糸井 でも、「これ、おいしい」に
チェンジしてしゃべっちゃうと、
それは自分とは違う人のことになるからね。
「腹は立ちまくってるけど相手にしない」
という、ものすごい反応ができるんだよね。
松本 うん。このことを素人に説明するのは、
かなりむつかしいですよ。
ある種、多重人格ですから。
糸井 それ、むつかしいよなあ。
その感じを、お金の扱いだと思って考えると、
末永さんが扱っていたお金とおんなじなんだね。
末永 その通りだなと思います。
糸井 「あいたたた」という感じはあって、
でも、痛いっていったら試合ができなくて。
末永 でもその痛みを忘れたらダメで。
糸井 格闘技の選手もそうなんだけど、
どっかに相手の攻撃を入れさせて、
その次を狙ったりするじゃないですか。
あれって、純粋理性の行為ですよね。

人間はほっとけば逃げるようにできてるのに、
入れさせるように動いて次を狙うなんて、
あんな知性的な行為は実はないのに、
それなのに、格闘家たちって乱暴だと思われてる。

ぼくは、その理性がわかったとたんに
格闘技が、ぜんぶおもしろくなったの。
それも、おんなじだよね。

あ、そうだ。別の話だけど、
松っちゃんにすごいお笑いのネタがあっても、
でも、女の子をくどく時には、
そのネタって出せないんじゃない?
これも、不思議だよなあ。
松本 ・・・それ「会社のお金」やからでしょうねえ。
糸井 ははははは(笑)。
末永 (笑)業務上横領になるんだ?
糸井 (笑)そのひとことで、ぜんぶ解決するよね。
そーだよなあ。
末永 名言ですね。
糸井 俺も、確かに、ふだんうまいこと言えないもん。
番組でゲストで来た時って、困る時があります。

コピーライターは、気のきいたことを言って
稼いでいるんじゃない?と思われているから、
そっちを使いたいんだけど、それをやると、
俺が番組に出る意味が変わっちゃうと思うんです。

だから、ぼくにとっては、
そこの中間の浮島のようなところが、ダジャレで。
しょうがないから、ダジャレを言ってみて、
ああ、浮いてる浮いてるって思ったり・・・。
でも「ダジャレの人」になるような
和田勉な決意もないし、
その浮島を売りものにすると、
それもまた、会社の金になっちゃうんですよ。

だからね、松っちゃんに、
それを言わないでくれえという気持ちもあって。
そこがなあ。

・・・あ。
このへんの話、わかりにくいかもしれない。
読者でこれを分かる人がいたとしたら、
それはもう、何かになれる人でしょうね。
松本 いやあ、分からないでしょうねえ・・・。
糸井 分かる人も、いると思う。
若い時の自分だったら、わかると思う。
でも、その子はたぶん、将来どこかで、
「あの時に読んでいたぼくですよ」
というようなんだろうね〜。
やっぱ、「会社の金」って、
お金に直すとものすごくわかりやすいよ。

でも、そこをズルしてるのが
ミュージシャンだよね。
あの人たち、うたえるもんなあ。
「お前のために・・・」とか。
だから、うらやましいんだよね。
ミュージシャンは、ちょっと特殊ですね。
あれは、祭りの人だろうなあ。


(ご愛読いただき、ありがとうございました!)

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2001-01-24-WED

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