帰ってきた松本人志まじ頭。

第5回 いつから「食える」と感じましたか。



(※今日は多少長くなりますが、
  ひとつのテーマでお届けします。
  主に、松本さんと高須さんが、
  この仕事でやっていけるという感触が
  いつ生まれたのか?について訊ねてます)

糸井 今、就職しない子の話を聞くと、
「したいところにするまでは、いいんだ」
って言うんですよね。
末永 それは、甘えなんです。
そういうことを言ってられるのは。
糸井 つまり、
「私はしたいことがあるので、
 そうじゃないところだったら、
 大きな会社でも嫌だ」って言っていて、
ぼくはそれを聞いた時には、
「そりゃあ甘えだ」と思うよりも、
すげえなあ、って感じたんですよ。
それって、昔だったら、
とりあえずは、就職しといて、とか、
給料が先に立つじゃない?

でも、給料も別に、
30万でも10万でも、生活のレベルって
大きくは変わらないので、それだったら
フリーターでいいやって考えている・・・。
「一生は短いんだから、一番やりたいことをやる」
と思っている人が、こんなにたくさんいる時代って、
俺の年だと、かっこいいと思っちゃうよね?
松本 「余裕かあ?」って思いますよ(笑)。
高須 ははは(笑)。
糸井 (笑)俺らが、口では言ってたけど、
ガマンしてやってた、その無駄な時間を、
彼らは「無駄でしょう?」って言ってるような。
松本 ・・・そこは複雑やなあ。
ぼくはどっか、それをまっとうした、
みたいなところがありますからね。
それがいちがいに悪いことやとは思えへんし、
「甘い」と言われるのもわかりますね。
糸井 ぼくも両方やってやってた世代だから、
両方おもしろいのはわかるんですよ。
親父が、こつこつずうっとひとつの道で
かせいでて、子どもを大学にやった、
という思いも、あるだろうなあ・・・
そこは、心の持ち方になっちゃいますよね。
末永 豊かになったということは明らかですよね。
飢えるということが想像できないわけで・・・。
ちょっと前までは、飢えるということに対して
本気で心配していましたから。
高須 そうですよね。
末永 でも、今は、飢えちゃうという心配が、
まったくないんでしょうね。
高須 だって、ぼく、
親からそう言われていましたからね。
「そんな、いい時代じゃないんだから。
 どうなるか、わからないんだから」
ということを常に言われてると、
それはやっぱり、少しは安定を願うし、
そっちの道も考えとかな・・・でも、
やりたいこともあるし、っていうので。

そういうようなことは、もう、
体にしみついていますよね。
「やばいぞ、やばいぞ」っていう感じは、
世代的に、まだあります。
糸井 高須くんが「俺、食えるんだ」って
感じたのは、いつぐらいですか?
高須 うーん・・・。
松本 今もちょっと不安感じてるみたいだけど。
高須 うん、まだ感じてます。
全然、不安ですよ。
まだ何となく見えたのが、
でもまあまあ、28とか29の頃です。
「あ、仕事ができる」って。
それはね、自分の位置が
全体の中で見えてこないと不安だった・・・。
自分がどこにいるのかが、
最初はずっと、分からなかったから。
糸井 若い頃って、マトリックスが、ないよね。
高須 何となく、全体像が見えた時に、
「あ、俺この位置なんだ、それなら大丈夫」とか。
その全体が把握できないと、不安なんですよ。
糸井 でも、その「全体」って、入れ替えあるよ?
高須 そうなんです。
でもまあ、今の時点、って考えると、
一応答えが出るんですよ。
今自分がどこの位置、って考えると、
放送作家ってわからないじゃないですか。
松本 いまいち、
最終形が見えへんからな、放送作家って。
高須 例えば芸人なら、ゴールデン何本持ってる、
長者番付に乗った・・・いろいろあるじゃないですか。
そういう、認知があるじゃないですか。
でも、放送作家って、実はそんなにないんですよね。

秋元さんになるのか、高田文夫さんになるのか、
巨泉さんになるのか何になるのかは、わからないけど、
ちゃんとしたかたちで出なくなっていくなり、
裏にまわって会社を持つなり、全然、
それはまっぷたつに別れるわけですから。
テレビやっている状況では、ないですよね?
糸井 そうですかー。
松っちゃんは、いつ食えたんですか。
松本 ぼくは、二十・・・六、七くらいですかねえ。
大阪で、ちょっとだけ人気が出た時に、
「ああ、食えるのかなあ」と、
ちょっとだけ思ったんですけど。
今振り返ってみると、
そん時にそんなん思ったらあかんぞ、
と思うんですけど、その時は思いました。
でも、実際は、いつでしょうね・・・
30超えたぐらいから、ああ、大丈夫かなと。
糸井 30歳超えたあたりには、
もう、番組いっぱい持っていたでしょ。
松本 でも・・・。
高須 そうや、それ、不安感じすぎやで。
糸井 観てると、ふたりとも、おんなじだって(笑)。
高須 (笑)そうかなあ〜。

給料、月々で明細に100万入った時に、
「あれ?俺、月々100万入るように
 なったんや・・・俺は大丈夫」
って、普通、一度は、
簡単な尺度としてそう思うじゃない?

松本も、大阪で清水圭といてて、
「圭、俺、やっと給料100万取れるようになったわ」
というのを、言ったんやて?それで圭が、
「おお、100万いったんか。もう大丈夫やなあ」
って思ったんやて・・・。
松本 (笑)
糸井 それ、リアリティあるなあ。
高須 あの時って、お金あんまりなかったやんか。
そんなに入るなんて思えへんやんか。
もちろん、それも、実は保証のない金ですよ。

それでも、何の保証もない100万が
たまたま入っただけでも、
おいおい、すごいぞ、と思いましたもん。
だから松本がそう言ったというのも、
ぼくは当時、すごいうなづけました。
松本 ただ、ぼくの形態はすごくむつかしくて、
うーん、こう言うと、語弊あるかなあ・・・。
テレ東の旅番組をやるわけには
いかないじゃないですか。
糸井 (笑)
松本 自分が嫌だから、じゃなくて
・・・許さないでしょう。
それはできないんですよ。
やりたい、やりたない、に関わらず。
だとすると、どっかで、今をキープするか、
上にいくか、じゃなければ・・・。
糸井 あるか、ないか、なんですよね。
松本 だから、
徐々にフェードアウトするような権利を、
ぼくは、得ていないと思うんです。
だからどこかでスパッと辞めるしかないと思ってて。
糸井 それは、俺でさえ思った。
ゆるやかに下げていくというのは、
やっぱり、自分としてしちゃいけないんだなあ、
と思うから、するならタダの仕事をするし。
気まぐれで何でもするよっていうのはあるけど、
どちらにしても「俺が決める」と思ってました。

俺は芸能の人じゃないけど、例えば
映画のタイトルで順番がどうこうって、
よく言うじゃないですか。そういう時に、
「その場所だったら、出演しない」
と言えるところに自分でいないと、
どんどん下がっていく・・・。

下がっているのを知った人から
「じゃ、うちもその位置でお願いします」
と次からどんどん言われることの嫌さって、
想像しただけで、ぞっとしますよね。

でも、例えばの話、それも、旅まわりで
おばあちゃんこんにちは、って話しかけることを、
蔑んでいるわけじゃないわけで。
ただ単に、それをしないからこそ
守ってきたものが、あるというだけだよね。

ひとつしたことで「うちも」って言われたら、
「ついに来たかあ!」って思わざるをえない。
・・・その恐怖は、俺、少し年とってから来た。
「あ、なるな」って思って、だったら、
ぜんぶ辞めてやろうと思ったんだよね。

要するに、一銭にもならなくても、
俺が選んでやっていることはぜんぶ一流って。
そう決めれば、いいんだもん。
松本 こないだ、俺は今田に言ったんだけど、
たぶん、最終的に芸能界で稼ぐ金額は、
俺は、今田に負けると思う。
高須 なるほどな・・・。
糸井 なるほどね。総合的にね。
松本 金でいうと、たぶんそうなると思う。
糸井 うん。しょうがないんだよね。
松本 それは、しょうがないです。
だから、俺から見たら、ある種、
高須のほうが順風満帆だなあと。
高須 そうかなあ。全然違うけどなあ。

(つづきます)

2001-01-09-TUE

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