第15回
テレビ界の派閥。
糸井
『太閤記』は、
カラーじゃなかったんですか?
石坂
白黒でしたよ。
『太閤記』の次の年は、
『義経』だったじゃないですか。

尾上菊之助(現・尾上菊五郎)さんが義経で、
藤純子(現・冨司純子)さんが出ていて、
それでふたりは夫婦になったんだもん。
藤純子さんは静御前だった。
糸井
そうなんですか。
それで、寺島しのぶが生まれたわけだ。
nhkのおかげですね。

そう言えば、
昔の映画やテレビのスターたちって、
コワイ人もおおぜいいたわけだけども、
石坂さんは、
そのへんをどう見ていたんですか?
石坂
あの頃、東映のヤクザ映画で、
刀を振ってるの、
ぜんぶホンモノのその筋の人たちでしたからね。

それで撮影所を、
大勢ひきつれて歩いてる……
鶴田浩二さんとかああいう人は
ひとりでは歩かないんです。

うしろに十人ぐらい、
ホンモノがついてきていて……
それで若山富三郎さんのところの若いのが、
鶴田浩二さんの若いのを呼んで
殴りあいになっただとか、
そこに鶴田さんがバーッと来て
「てめぇら静かにしろ!」と張り倒したり。

ぼくはかっこいいなぁと思って見てた。
そういうことが、撮影所の中で
しょっちゅう起こっていたんだ。
すごいやね。
糸井
(笑)いや、かっこいいかもしんないけど、
若干困る……石坂さんは、
生意気っていってもそういうことはないもんね。
石坂
ぼくには、そういう意味の生意気さはない。
糸井
歌謡界に伝わるような、
豪快な男女のエピソードもあったりしたんですか?
石坂
歌の世界と芝居の世界は、また違うんです。

昔、日劇でバイトをしていて、
紅白歌合戦はそこでやっていたから、
人受け(出演者のアテンド係)をやったことあるもん。

歌手を呼びにいくんだけど……
偉いさんは、なかなか出てこないんだよね。
何をやっているかというと、女とくっついてる。

今、活躍している人で、呼びにいって、
やってるところを見たこと、あるもん。
これは芝居とは違う世界だなぁとは思った。

芝居はせいぜい、それぞれの巡業地に
かならず女がいた人がたまにいるとか、その程度。
糸井
芝居の世界の派閥というのは、
どういうものでしたか?
石坂
ありましたね。
大きな勢力を持つ一派がいくつもありました。

一派に入ると何が困るかっていって、
他のやつのところには出られなくなる……
一座とおんなじですよね。

大部屋俳優さんも、
一派に入れば他に出られなくなるから、
食えない食えないといいながら
バーで働いていたりするんだもん。

それと、一派に入ると
おいそれとはやめられない。
今はそういう役者さんも
いないのかもしれないけど、
テレビも映画も一派がたくさんあって……
日本人、
そういう派閥みたいなのが好きなんだ。
糸井
そういう意味では、石坂さんって、
ほんとに全部の国のパスポートを
持ってるみたいなところがあって、
あらゆる場所に出ていますよね。
石坂
それは、派閥は入らないようにしろって、
フランキー堺さんに言われたの。
フランキーさんは慶応で、
学部もおなじ先輩だったんです。

慶応の頃から
ジャズドラマーをやっていた人で……
フランキーさんからは
「映画界には派閥があるけど、
 そういうところに入っちゃうと終わりだよ。
 決まったものしかできなくなるよ。
 どうせ利用されるんだから」
と言われました。

フランキーさん、
昔、大きな派閥との戦いがあったみたいでした。
 (石坂さんとの会話は、ここでおわりです。
 またいつか、石坂さんと長く話しあった時に、
 誰も知らない時代の
 テレビ論のつづきをきけるかもしれません。
 ご愛読を、どうもありがとうございました)
2015-05-05-TUE
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