第12回
映画スターとテレビスターの違い。
糸井
『潮騒』とかに出る頃には、もう、
生意気ではなくなっているんですか?
石坂
いや、まだまだ生意気でした。
まわりも、すごい生意気だったんです。

早稲田の仏文科を出た
実相寺昭雄さんだとか、
東大の美学科から来た久世光彦さんとか、
もういろいろな人が
ディレクターで入ってきていた。

その人たちが入ってきた時代に上役が
「あいつらは、何やるかわからないから、
 もう成績とかで採るのは来年からやめよう。
 人物本位で採用しよう」
と言っていたぐらいでした。

もう、優秀だし、生意気だし……
TBSがいちばんヘンだった時代だと思う。
生放送のドラマの合間に入れるカットは、
鼻の穴のアップだとか、
目玉のアップの中を
花嫁衣装を来た女性が走るカットだとか。
ヘンだよね。

そんなカットを本番十分前ぐらいまで
延々と撮ってる人ばかりなの。

あの頃、TBSのすぐそばに
赤坂寮というのがあって、
朝イチのニュース出しの人が
泊まるために借りたはずのところなんだけど、
それをなぜか演出部が乗っとっていた(笑)。
そこでいつもドンチャン騒ぎ。

生放送だから、ちゃんと、
十時とかにはすべてが終わるんですよ。
だからもう、そこからはやることがないの。
それで、演出部の部屋で大騒ぎして、
今日はみんなで赤坂寮に泊まろう! と。

ぼくは、出ていなくても、
赤坂寮には遊びにいってたんです。
そのあと製作会社のイーストを作った
東さんもいましたし。
糸井
そのときは、石坂さんとしては、
役者になっちゃってたんですか?
石坂
というか、まだテレビというのは、
やっぱり「わけのわからないもの」でした。
これからどうなるか、見当がつかなかった。

「週刊明星」のインタビューで、以前、私は
「これからのテレビスターはどういうものですか」
ときかれたことがありました。

「映画スターには、
 ファンは興奮のあまり
 顔に硫酸かけられたりするほど熱中する。
 だけどテレビは日々消えてくもんだから、
 どういうやつがスターになるかっていったら、
 人畜無害じゃなきゃダメだよ」
って言ったことがあったの。
テレビスターのファンは、映画スターほどは、
自分の生活の中にまではひきずりこまないもん。

ぼくが子どもの頃に、
近所のおばさんなんかでいた
追っかけファンになっちゃう人って、
やっぱり、おかしかったよ……
私のファンでも一時いたけどね。
一財産を私にくれた人がいた。

驚きましたよ。

ある日、マンションの管理人さんに
「これ、おとどけものです」
と言われて開けてみたら、
株券がこんなに置いてある。

大河ドラマの『天と地と』を
やっている頃だったけど、
中に手紙が入っていて
『私はあなたのように、仏門に帰依する』
……俺まだ、仏門なんか帰依してないんだよ。
糸井
(笑)
石坂
さすがに、
二日後ぐらいにその人の息子から
電話かかってきましたけどね。
「母が狂いましてすいません」と。

手紙には
「この世で得た富は捨てたいと思います。
 つきましては……」と長々と書いてあった。
ただ、そういうことっていうのは、
もうありえないわけですよね。

つまり、テレビのファンというのは
映画時代とは変わっていくと言ったの。
糸井
それは、めちゃくちゃ当たってますよね。
おもしろいなぁ。
2015-05-05-TUE
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