ほぼ日WEB新書シリーズ
「教育」をテーマに
誰かと対談することになったとき、
糸井重里の頭に浮かんだのは、
アーティストの横尾忠則さんでした。
「誰になにをどう教わったら
 横尾さんみたいになれるんだろう?」
糸井の素朴な質問をキーにして、
横尾さんの豊富な経験が
愉快に、ひもとかれていきます。
もちろん、しょっちゅう脱線しながら。
第10回
自信を持たせること
糸井 今、横尾さんは学校で
先生という立場で、教える側になっていますよね。
自分が「教わった」という意識がないのに
だれかに教えるという、その矛盾は感じませんか?
横尾 ないない、全然。
だって、ぼく教えないもん。
糸井 生徒にものを教えない先生なんですね。
横尾 うん。
「え、どうやって描いたの?」 
そればっかり。
糸井 逆に生徒に教えてもらってる。
横尾 「これ、何と何をまぜたの?」 
「へぇ、どないしてするの?」 
そんなことばっかり聞いてる。
糸井 そこに「いる」だけの先生なんですね。
横尾 自分が生徒のいいとこをまねしようと思ってるからさ。
生徒ひとりひとりから聞くわけ。
生徒は納得してるかどうかわからないけど、
それで授業は終わりなんですよ。

ここをああしたら、こうしたらなんて言わない。
ぼくの生徒って、大学院生なんですよ。
だから、半分プロなの。
糸井 アーチスト同士のような関係なんだ。
横尾 ふつうはアーチストに
「どうやって描いてるの?」とは聞けないから。
でも、学生には聞けるのよ。
糸井 いいですね。お互いに健康ですね。
横尾 うん、それはもう、勉強になるの。
聞かれたほうも、自信持っちゃうんですね。
糸井 そうでしょう。
横尾 うん。「教える」って、そういうことじゃないか。
相手が自信を持っちゃえば、
もうそれでいいんじゃないかな。
糸井 親子のつき合いでもそうですよね。
親が子どもに何かを聞いておもしろがってるときって、
子どもはうれしそうです。
横尾 うん、得意になるでしょう?
糸井 アイドルの名前とか聞くと、
うれしそうに答えますよ(笑)。
横尾 ぼくももう、とにかく質問攻め。
逆に、生徒に「ぼくに質問しろ」といったって、
何も出てこないしね。
「何聞いていいのかわからない」みたいな顔してる。
糸井 すごくいいですよ、そういうの。
横尾 教壇に立って教えるんじゃなくて、
マンツーマンみたいな感じだから。
糸井 この前横尾さんが出ておられた
NHKの「課外授業 ようこそ先輩」も
すごくおもしろかったですよ。
小学生に模写させてた。
あれも、横尾さんはべつに、教えたりはしてない。
ただ「描いてね」って言ってただけ。
横尾 そう、もうそれだけね。
テレビ向けに何か言ったけど、
そういうところはカットされてたんだよ(笑)。
糸井 「よーく見てね」と、言った。それだけ。
横尾 でも、すっごくおもしろかった。
糸井 あの番組で、ぼくはなんだか
横尾さんの自信を感じましたよ。
横尾 ぼくが番組で教えたのは、6年生だったの。
最初にクラスで
「絵の嫌いな子、手を挙げて」と言ったら、
半分近くの生徒が手を挙げよった。
6年間、学校の先生は一体何をしてたんだろう、
って思ったよ。
最後にもう一度
「絵をまだ嫌いな子、手を挙げてごらんなさい」
と言ったら、いなかった。
全員が絵を好きになってたの。
糸井 うん。あれ、ショック受けたもん。
横尾 あそこにおとなも何人かまじえて、
同じことをやらせればどうかなぁ。
糸井 どうでしょう。
子どもほどのおもしろさは、もしかしたら
ないかもしれませんね。
横尾 うん。
模写といえば、そのものそっくり描かなきゃ
模写にならないのに、子どもの描くものは
「どこが模写?」と
言いたくなるほど似てないわけ。
ぼくなんかは、小さい頃から
そっくりに描いちゃってたよ。

ところが、その子どもたちは全然描けない。
その、「描けない絵」がものすごく魅力的。
糸井 おお、そうなんだ。
横尾 ものを目の前に見ながら、
こんなに違うものを描くのは、すごいなぁと思う。
ぼくの目と彼らの目が違うということなんですよ。
糸井 ひとりひとりの人間の違いが
そのまま絵に出ちゃうんだろうね。
横尾 そう。ぼくのこの目と入れかえたいぐらい、違うね。
糸井 借りてみたいですね。
横尾 子どもの目を僕の中に入れると、
かなりいい線いくよ。
糸井 そのやりとりができたら、
おもしろそう(笑)。
横尾 うん。腕も、ヒジから先を交換してさ。
そうなると、いきなりピカソぐらいのものを
描いちゃったりしてね。
糸井 そうか、コラージュなんかでやりたいことって、
ほんとはそういうことかもしれません。
横尾 模写はけっこう面倒くさいことをやるわけですよ。
その模写の部分を、コラージュは省くわけだからさ。
人がかいてくれるやつを鋏で切る。
コラージュは、
ぼくの模写のなれの果てだと思ってるわけです。
糸井 そうですね。
コラージュと模写が横尾さんのベースですよね。
横尾 ベースです。
この間はじめて、コンピュータを使わないで
はさみとのりで切って張ってつくったの。
それがけっこう楽しかった。
コンピュータだったら思いのまま、
形が自由自在になるでしょう? 
それが、既成の素材のコラージュでは、
そうはいかない。

限定された、ある画像から選ぶわけだから、
その方がはるかに創造的だし、
自分でも驚くような組み合わせもできる。
糸井 不自由さがおもしろいんですよ。
横尾 コンピュータはあんまりよくないね。
糸井 何でもできることになっているということが
多分つらいんですよ。
やめようがないんです。
横尾 やめようがないね。
完璧なものがないくせに、
完璧なものを求める。
糸井 「限りなく透明に近いブルー」じゃないけど、
限りなくできるように思わせてるんです。
横尾 思わせるだけで、あれは幻想ですよ。
糸井 感覚としては違うとわかるんです。だけど、
「ずうっとやめなければ
 永遠にできるんだよな」
と思わせる何かがちょっと感じ悪いんですよ。
バベルの塔のような。
横尾 そうです、コンピュータってそういうものなんだ。
それをまた、好きなやつがいるんだよ。
糸井 途中まで便利だし。
横尾 もっともっと進化して、あと何年か後には、
ものすごいものができるんじゃないの? 
・・・でも、ぼくははさみだな。楽しかった。
糸井 小学生にものを教える先生役をやってるときも、
横尾さんは楽しそうに見えましたよ。
横尾 楽しいよりも、驚きの連続だったんだよ。
子どもたちが目の前でどんどんやることなすこと、
ぼくにとっては驚きなの。
みんな、ぼくに絵を隠しながら描いたりする。
中には描いてるものについて
言い訳みたいな説明をしちゃう子もいるんだけど、
そういう絵はおもしろくないの。
いろんなことをしゃべる子よりも、
むしろ、隠しながら描くぐらいの
子のほうがおもしろい。
糸井 こっちも「そこをもっと知りたい」って思う。
横尾 うん。だから我々も、
あんまりしゃべるのは考えものだよ。
何かを解明しようとして
ついいろいろしゃべってしまうけど、
黙ってるほうが逆に
開示されていくところがあるような気がする。
しゃべればしゃべるほど、どうもだめだね(笑)。
糸井 壊れちゃうものが多いんですよね。
ぼくはともかく、横尾さんも、しゃべる分量は、
多いじゃないですか。
横尾 多いんだよ(笑)。
おれ、昔、無口だったのに。
ものすごく恥ずかしがり屋だったんだけど。
糸井 必要に迫られてしゃべるんですかねぇ。
横尾 いつごろからか知らないけれども、
おしゃべりになってしまったね。
糸井 今もおしゃべりすぎて、
どうもきりがないな。
横尾 しゃべりっぱなしだね(笑)。
(横尾忠則さんと糸井重里の対談は
 これで終わりです。
 お読みいただきまして、ありがとうございました)
 
2014-08-23-SAT
(対談収録日/2002年4月)


第1回
兄弟みたいな関係
第2回
方法論は必要ない
第3回
一光さんと、三島さん
第4回
先生はいない
第5回
平凡な普通の人間だよ
第6回
いきなり本番でいいでしょう
第7回
面倒くさい!
第8回
人に知られたくない自分
第9回
今できることって何だろう
第10回
自信を持たせること