ほぼ日WEB新書シリーズ
「教育」をテーマに
誰かと対談することになったとき、
糸井重里の頭に浮かんだのは、
アーティストの横尾忠則さんでした。
「誰になにをどう教わったら
 横尾さんみたいになれるんだろう?」
糸井の素朴な質問をキーにして、
横尾さんの豊富な経験が
愉快に、ひもとかれていきます。
もちろん、しょっちゅう脱線しながら。
第6回
いきなり本番でいいでしょう
糸井 いままでアピールのためだけに
わざと変なことしたことって、
横尾さんは、一回もないですよね。
横尾 いや、やりたくないのに
「人におだてられてやる」ことはあるよ。
糸井 あ、そうか。
横尾 たいしたことじゃないかもわからないけど、
そういうことはあるね。
結果とか目的をもっても、
それが何かの手段になりかけると、
バーッと自分から壊しちゃう。
糸井 居心地悪くなるわけ?
横尾 うん。目的とか結果をもつと、
必ず「大義名分の何とか」のためにやる
ということになってくるじゃないですか。
そうすると、おもしろくなくなって、
壊したくなっちゃう。

人と約束しちゃったときでも、そう。 
あいまいな約束だったらぼくは守るんだけれども、
「何月何日、何とかかんとか」というような、
ちゃんとした約束をすると、壊したくなっちゃう。
全部壊してるわけじゃないけれども、
そういうところはありますね。
糸井 あいまいじゃない約束って
カリカリに自分を縛るから、
それが不愉快になるんでしょうか。
横尾 そうね。
ウイークデーのスケジュールは、
もう約束されてしまってるから、
これはまあ、お仕事みたいになっちゃう。
ところが、土日になると・・・
糸井 「楽しみ」が入りますよね。
横尾 楽しみなんだよ。
土日になると、
だれに電話してだれに会うとか、
そんなことばっかりやってるわけ(笑)。
あんなに毎日、
月曜日から金曜日まで人と会ってるくせに。
糸井 土日になったらまた、
とたんに会いたくなるんだ。
横尾 今度はもっと、「きっちりした約束じゃない人」と
会いたいと思っちゃう。
月曜日から金曜日まで会わないけれども
土日は会うとかさ、用もなくね。
糸井 そういう人がいたら
なんだか楽そうだ。
横尾 糸井さんみたいに青山界隈に住んでると、
人がいっぱいいるから
むしろ誰とも会いたくないかもわからないね。
ぼくは成城に住んでるけど、
あそこまで離れちゃうと、いいよ。
成城にも以前はいろんな人がいたけど、
皆死んでしまったり、
あんまり偉くなりすぎて、会いにくくなったりしてる。
糸井 人に会うというのは、
どんな学校よりもすごいです。
絶対自分とは違うこと言ってますもんね、人って。
横尾 うん、違うね。
人によっては、すばらしい時間を持てるよ。
糸井 「何を勉強するのか」なんて考えてるうちは、
だめですね。
やっぱり自分だけのものには限りがあります。

ぼくは「全員が違うんだろうと思っている世の中」が
いちばんおもしろいと思うんです。
「なんてみんな同じなんだろう」というんじゃなくて、
「なんて違うんだろう」、
「違う人たちが集まってて、なんてすてきなんだろう」
という気分になれるのが理想だと思う。 
この「教育の話」シリーズに
横尾さんが登場してくれると伺って、
その部分をぜひ期待したかったんですよ。
聞いてみると、みごとに、先生もいないし・・・。
横尾 うん。あのね、テニスなんかの運動でもそうだけど、
みんな、何かするために練習したり
トレーニングしたりいろいろするじゃない? 
ぼく、あれがダメなの。
すぐ本番じゃないとダメなの。
だから「テニスする」って思い立つと、
ラケットの持ち方を知らなくても、
いきなりコートに入って、
いきなりカウントとってもらって、
ルールは向こうが決めればいい。
そういうところがある。

テニスがやりたいと言うと、
まずは壁打ちからはじめる。
そうすると「ああ、おもしろくない」と
なっちゃうわけよ。
だからやらないんですよ。
糸井 楽しさが向こう側にあって、
そのために努力しないとそこにいかないよ、
というのは嫌ですよね。
横尾 うん。
糸井 だれでもほんとは
そうなんじゃないでしょうか。
横尾 テニスをやるにしても、
そこに先生がつくじゃない? 
それを見ただけでゾッとするわけ。

あれで練習してさ、
別にプロになるわけじゃないのにさ。
先生なんか入れなくて、
我流で打ちゃいいじゃないかと思う。
でも、うちのカミさんは
腕を壊すとかいろいろ言うわけね。
「ちゃんと正式な打ち方をしなきゃだめだ」。
糸井 奥さんは、テニスをなさってるんですね。
どうやって練習してるんですか。
横尾 先生について、だよ(笑)。
テニスをはじめて相当たつのに、
いまだに「きょうは練習」って出ていく。
なんで練習をそんなにしなきゃいけないのか、
さっぱりわかんないよ。
「いきなり本番ばっかり、試合ばっかり」で
いいじゃないかと思うんだけどさ。

だから、ぼくは絵を描くときでも、
デッサン描いたりなんか、できないね。
いきなり本チャンでないとダメ。
糸井 階段を登っていくみたいなことは、
苦手なんですね。
横尾 うん。
糸井 ぼくらが小さいころ、
エレキギターがはやった時代がありましたよね。
ベンチャーズとかがかっこよくて。
あのときに、ぼくら、
「音楽って習うもんだ」と思ってたんです。
だから、教則本とか買って練習したんですよ。

ところが、あの時代って、
ギター弾くともてるから、
不良がギターをはじめたんですよ。
そいつらは・・・
横尾 楽譜も読めないし、書けない。
糸井 そう。最初から弾いてみるんですよ。
その結果、そいつらのほうが絶対うまい。
横尾 ビートルズがそうだもんね。
糸井 ああいうところで
「優等生が持ってるダメさ」が出ちゃうんだなぁ。
横尾 でも、いま絵をやろうとしている
若い女の子たちは
「ぶっつけ本番」タイプが多いですよ。
何も知らない、聞いてない、やっちゃう。
糸井 そうですね。でも、
「そういうほうがいいんだ」というふうに
若い子は簡単に思ってて、
それだからたいしたものができてない
というのも寂しいでしょう?
横尾 うーん。べつにねぇ・・・。
ねぇ、「たいしたもの」は、
なんでつくらなきゃいけないの? 
誰のためにつくらなきゃいけないの? 
その人がそれでいいと思って
楽しんでればいいんじゃないのかな。
糸井 ふーむ。
横尾 なんでそんな立派なものを
つくらなきゃいけないか。
糸井 この前の審査会で、途中で嫌になっちゃったのは
あれはどうしてなんですか。
たいしたものがなかったからじゃなくて?
横尾 ・・・どうしてだろうか。
糸井 それよりも、
アーティスト対アーティストの
次元になっちゃったんでしょうか。
横尾 あ、そうですね。
ぼくはぼくに刺激を与えるために
あそこに居たのかもしれない。
ぼくが打ちのめされるようなものが
全然なかったから、席をたっちゃったんだ。

ぼくは、学生の作品から何か学ぼうと
思って行ってるわけだから。
ある意味で、すごいまじめ、
アホぐらいまじめなのよね。
糸井 横尾さんはいつも、
ショックを受けようと思ってるんですよね。
横尾 そう。だから、そこで何も学ぶことがなきゃ、
あとは時間がもったいないだけ。
糸井 ぼくの場合は、
「あのぐらいの年の子だと、
 このぐらいできるようになって、
 こういうところに穴があるんだな」とか、
「総じてこういう穴があるんだな」とか、
そういうのを楽しむわけですよ。
横尾 うーん、・・・それは偉い!
糸井 ああ、こうすりゃいいのにというふうに、
その子たちが気づかないことがあるのを見ると、
それなりにおもしろいんですよ。
でも横尾さんは、作家同士の対決をしてた。
横尾 うん。真剣に見るから、
自分が描くのと同じぐらい疲れるんだよ。
糸井 フフフ。何に対してもそうですよね。
だから、はだかの甘栗とも
対決してるんです、きっと。
「何でむいたんだ!」みたいに。
横尾 結局、栗の皮をむくという
自分のプロセスがおもしろいんじゃないかな。
先生がいて、
先生に手取り足取り教わるプロセスなんていうのは
ちっともおもしろくない。
それじゃあ発見がないじゃない? 
先生が発見した何かをこちらがなぞって、
それこそ模写するだけだよ。
やっぱり自分で発見するのがおもしろい。

だから、自転車の乗り方とか水泳の泳ぎ方なんて、
絶対教わりたくないね。
犬かきであろうが、溺れてもいいから、
自分でやりたいと思うし、
そのときの発見がおもしろいんじゃないかな。
(つづきます)
2014-08-23-SAT
(対談収録日/2002年4月)


第1回
兄弟みたいな関係
第2回
方法論は必要ない
第3回
一光さんと、三島さん
第4回
先生はいない
第5回
平凡な普通の人間だよ
第6回
いきなり本番でいいでしょう
第7回
面倒くさい!
第8回
人に知られたくない自分
第9回
今できることって何だろう
第10回
自信を持たせること