ほぼ日WEB新書シリーズ
「教育」をテーマに
誰かと対談することになったとき、
糸井重里の頭に浮かんだのは、
アーティストの横尾忠則さんでした。
「誰になにをどう教わったら
 横尾さんみたいになれるんだろう?」
糸井の素朴な質問をキーにして、
横尾さんの豊富な経験が
愉快に、ひもとかれていきます。
もちろん、しょっちゅう脱線しながら。
第3回
一光さんと、三島さん
糸井 横尾さんはいろんなことを全部
自分でつかんできたみたいに見えますけど、
誰かに何かを教えてもらった覚えって
ありますか?
横尾 田中一光さんのことは、よく覚えてるよ。
さっき話した
「最近亡くなった父親みたいな人」っていうのは、
一光さんのことなの。
糸井 急でしたものね。
横尾 うん。
若い頃、東京に来てはじめて喫茶店に入ったときに、
一光さんに
「コーヒーにする? 紅茶にする?」
と聞かれて、
「どっちでもいいです」
って答えたら、
えらく怒られたんだよ。
東京でやっていく場合には何事にも
白黒はっきりつけなきゃいけない。
そう、一光さんは教えてくれたんだと思う。

でもまぁ、その判断の基準というようなものを
ぼくは性格的に持ち合わせてないわけよ。
いつも、はっきりいって、
どっちでもいい。
糸井 横尾さんが「どっちでもいい」ってときは
ほんとにどっちでもいいんですよね。
横尾 うん、どっちでもいいの、ほんとに。
だから、相手にどっちか決めてって言うの、
そういうときは。
そのほうがよっぽど楽だしさ。
糸井 一光さんから
「はっきり決める」ことの大切さを教えられて、
でも自分にはそういうことはできないと
思ったんですね。
横尾 そうだね。
こうやって「どっちでもいいんだ」という生き方を
選んだのも、
一光さんに教わったからかもね。
糸井 あと、影響を受けた人というのはいますか?
横尾 あとは、三島由紀夫さん。
実は、三島さんが亡くなってから
だんだん気づいてきたんだけれどね、
ぼくは三島さんから「礼節」を学んだと思う。
ぼく、人間として
もっとも礼節がないタイプなんだよ。
糸井 礼節、ですか。
それは、礼儀みたいなもの?
横尾 「エチケット」というと軽すぎて、
フランス料理の食い方みたいになっちゃうな(笑)。
三島さんがぼくに伝えたかったのは、
やっぱり礼節だね。

例えばいろんな人から
手紙をもらったりしても、
返事を書かなかったり、
連絡しないでほったらかしになっていたりする。
そういうことはひとつずつ
片づけていかないとだめだとか、
そういうことだよ。
糸井 横尾さん、そういうことは
あんまり意識してこなかったんですか。
横尾 そういうの、考えたこともない。
糸井 ・・・すごいですね。
横尾 うん。礼節ということ自体が、もう
生きていくために
障害になると思ってた。
糸井 いや、それはぼくもわかります。
たとえばぼくは
年賀状を出すのをやめて何年か経つんですけど、
やめるって決めたときは
気持ちよかったものです。
横尾 でも、糸井さん
お中元をやめてないじゃない?
糸井 やめてますよ。
横尾 あれ? やめたの?
糸井 やめてます、とっくに。
お中元、お歳暮、年賀状、全部やめてます。
横尾 あれ、おかしいなぁ。
やめちゃったの?
糸井 はい。
横尾 でも・・・
印象としては毎年来てるような気ィするけど。
糸井 それは、お中元、お歳暮と関係なく
ぼくが「使って下さい」と
お送りしているものが
そういう印象になっているだけじゃないですか?
横尾 そうか。
あの細長い、
いっぱい字が書いてある手書きの手紙も?
糸井 あれをやめたんです。
あれをやめて
インターネットにしたんですよ。
横尾 「重里にあいさつしてもらいたい人は
 インターネットを見なさい、
 そうしたら、あいさつしてくれる」
と、こうなんだね?
糸井 (笑)あえて言えばね。
(金物がぶつかった音)
横尾 あっ、その音、なにか
頭をどつかれたみたいな音を想像するね。
糸井 ごめんなさい、ぶつかっちゃって。
横尾 ねぇねぇ、頭をどつかれたときを
思い出さなかった?
糸井 え・・・?
ああ、ぼくはね、除夜の鐘です。
ちゃちな、除夜の鐘を思い出した(笑)。
(つづきます)
2014-08-23-SAT
(対談収録日/2002年4月)


第1回
兄弟みたいな関係
第2回
方法論は必要ない
第3回
一光さんと、三島さん
第4回
先生はいない
第5回
平凡な普通の人間だよ
第6回
いきなり本番でいいでしょう
第7回
面倒くさい!
第8回
人に知られたくない自分
第9回
今できることって何だろう
第10回
自信を持たせること