楽しまないともったいないから。春風亭昇太さん×糸井重里 対談
春風亭昇太さんがひさしぶりに
「ほぼ日」に来てくださって
糸井重里とおしゃべりしました。
最近では『笑点』の司会にも抜擢され、
なにかと話題の昇太さんですが、
糸井との付き合いは長く、
12年前には、ほぼ日主催の落語会、
春風亭昇太ひとり会」を
開催したこともありました。
あいかわらず軽やかで、多趣味で、
楽しそうな昇太さんに、
いろんなお話をうかがいましたよ。
第1回
若手界の大御所と呼ばれて。
(出囃子とともに昇太さんが登場。
 観客は「ほぼ日」の乗組員です。)
糸井
テネシー生まれの快男児、昇太さんです。

(一同拍手)
昇太
よろしくおねがいいたします。
糸井
と言っても、
「テネシー生まれ」の話を知らない人もいるかもね。
昇太
あ、そうですね。
特に、若い方はご存知ないかもしれません。
「テネシー生まれ」というのは、
ぼくが出囃子で使っている
『デイビー・クロケット』の訳詞なんです。
みなさん、この曲は知ってます?
糸井
知らない人、手を挙げて!

(乗組員の一部が手を挙げる。)
昇太
4、5人いらっしゃいますね。
糸井
改めて考えると、
昇太さんは「若手」と呼ばれていましたけど、
そこからもう30年くらい経ったんですね。
昇太さんが若手じゃないということに
ぼくも、うすうすは気づいてましたけど、
ご本人は、その「若手」という立場を
みごとにキープなさってますよね。
昇太
そうですね。
さすがに最近は「若手」とは
言われなくなりつつありますけど。
でも、このあいだ、
「若手界の大御所」と言われました(笑)。
糸井
若手界の大御所(笑)。
そういうのって、望んでやってきたの?
昇太
いや、望んでやってきたわけじゃないんです。
でも、なんか、
ぼくって薄っぺらい感じがするじゃないですか。
糸井
薄っぺらい?
昇太
はい。
朝起きて歯を磨きながら、自分の顔を鏡で見て、
「薄っぺらい男だな」と思うんですよ。
もっとこう、同業者で、
重々しい感じの人もいるでしょう?
糸井
いる。
昇太
たとえば、『ためしてガッテン』の人とか。
糸井
立川志の輔さん。
あの方は、みごとに
1年ごとに重みを増してらっしゃいますよね。
昇太
ええ。
あの人は、若手のころから重みがあったんですよ。
実際にサラリーマンを経験して、
いろんなことを見聞きしてから
落語界に入ってますから。
しかも、入ったのが談志師匠のところでしょ。
もう、ねえ。
よくああいうところに行けるな、と思って(笑)。
糸井
(笑)
そうですよね。
「柳昇がいいや」と言った人とは違いますね。
昇太
(笑)
全然違います。
あの、春風亭柳昇を
ご存知ない方もいると思うので説明すると、
春風亭柳昇はぼくの師匠です。
落語芸術協会の副会長という要職に就いて、
ちょこちょこと政治的な動きもしていた人なんです。
政府にお願いに行って、
国立演芸場を建てるのにも尽力したり。
糸井
柳昇さんが。
昇太
はい。本当はそういう人なんです。
でも、見た目は、
まったくそんなふうには見えないんです。
糸井
春のぽかぽか陽気みたいな感じですよね。
昇太
そうですね。ポワ~ンとした感じ。
ぼくが大学生のころ、
はじめて寄席に行ったら師匠が出てきて、
最初は、なにをしゃべってるか
よく分かんなかったんです。
糸井
そうなんですか?
昇太
はい。
すごく滑舌が悪くて、
ホワホワホワホワ言ってるんです。
「この人、なんなのかな」と思いました。
でも、聞いているうちに、
おもしろいなと思いはじめて、
一度そう思うと、そのあとは、
なにもかもがおもしろく聞こえちゃうんです。
あれはすごいと思いましたね。
糸井
そういうのって、いわゆる
「フラがある」ということなんでしょうか。
昇太
そうですね。
業界用語で「フラ」と言いますが、
なんとも言えないおかしみがあったんです。
糸井
おかしみ。
しゃべっている内容そのものじゃなくて、
その人自身から
にじみ出てくるものですよね。
昇太
そう。
ときどき、いますよね。
近所のおじさんとかおばさんとかで、
とくに言葉を発さなくても、なぜかおもしろい人って。
ああいうのがずーっと持続しているような感じでした。
糸井
昇太さんもそこを目指している?
昇太
うーん、目指そうとしても、
計算してできるものではないですけどね。
でも、やっぱり弟子ですから、
「ああいうふうになりたい」とは思っています。
糸井
ぼくが知っている限りでは、
昇太さんにも若いときから、
その傾向はありましたよ。
昇太さんが学生のころ、
ぼくが審査員をしていた
演芸のオーディション番組にも出てくれましたよね。
昇太
『ザ・テレビ演芸』ですね。
横山やすし師匠が司会の。
糸井
そう。
周囲に本職の人がいっぱいいるなかで、
本職でもなんでもないぼくが
「俺の立場ってどうなんだろうな」と
自分を疑いながら審査員席に座ってました。
だから、野球中継がある日は、
ラジオのイヤホンを出して、こっそり‥‥。
昇太
はっはっはっは。
そんなに無責任な立場で参加してたんですか。
糸井
いや、ちゃんと見てはいましたよ。
ただ、合間合間に、
「3対2か」「あ、4対2になった」。
それを横山やすしさんの目を盗んでやってましたね。
昇太
それはすごいですね。
糸井
そんなふうでしたが、
ぼくとしては、
「普通に審査されたら落ちてしまう人に、
 『おもしろい!』と言ってあげるとしたら、
 それは自分の役割だ」
と思ってました。
司会の横山やすしさんが出演者に向かって
「お前、出てけ!」って
ボロクソに怒るようなときに、
「お言葉ではございますが」
と入っていくのが、ぼくの役目だったんですよ。
昇太
本来、司会者というのは、
漫才をやる人がやりやすいように
審査員たちとの架け橋をする役ですよね。
でも、やすし師匠はそうじゃなかった。
とにかく強烈な方だから、
出演者に対しても、
自分が嫌いだと思ったら嫌いなんです。
糸井
「俺のいるところで何さらしとんじゃい」
なんて言って(笑)。
昇太
やすし師匠はモノマネ自体も嫌いでしたね。
糸井
「僕」「君」でしゃべる漫才がお好きでしたから。
あと、出演者がスーツを着てないだけでも怒るんですよ。
昇太
そうそう。
名前が気に入らなくても怒る。
糸井
「なんとかハウスでーす」
みたいなこと言うと、
「名前あるやろ! 親からもろた名前が!」(笑)。
昇太
やすし師匠は
「やすしきよし」みたいな名前が好きですから。
常に感情をぶつけておられましたよねえ。
糸井
その番組に、ある日、
東海大学の落研にいる2人組が出てきました。
「まんだらぁ~ず」という名前で、
ものすごくおもしろかったんですけど、
そのひとりが、昇太さんだったんです。

(つづきます)
2016-09-01-THU