楽しまないともったいないから。春風亭昇太さん×糸井重里 対談
第2回
「地獄を見た人」の穏やかさ。
糸井
学生だった昇太さんが
「まんだらぁ~ず」というコンビで番組に出てくれて、
ぼくは審査員席で見ていましたけど、
とてもおもしろかったです。
昇太
ありがとうございます。
ぼくがその番組に出たのは、
落研の先輩の元木すみおさんという方が
その番組の構成作家をしていて、
「素人がなかなか出てくれないから、出てほしい」
と言われたのがきっかけだったんです。
そりゃ、みんな出づらいですよね、
やすし師匠が司会なんだから(笑)。
でも、番組の性質上、
素人が出てこないと困ると言うので、
「じゃあ、出ましょうか」と言って、
コンパ芸のようなことをやりました。
コンパでウケたことをまとめて、
そこに筋書きだけをつけた芸です。
糸井
「自分を攻撃すると相手が痛がるプロレス」とかね。
あれ、笑いましたよ。
素人なんだけど、物怖じしてなくて、
楽しそうにやってましたよね。
それで、その週のチャンピオンになられて。
たしかあのときは毎週チャンピオンを決めて、
次に、そういう人同士が戦ったんだっけ?
昇太
そうです。
勝った人達が4組集まって、
グランドチャンピオン大会というのがありました。
糸井
そうだ。
で、「まんだらぁ~ず」が優勝したんですよ。
第1回目のグランドチャンピオンなんです。
昇太
きっと、あまりにも
異質だったからでしょうね。
糸井
ぼくも一応、審査員席から見てたけど、
異質というだけじゃなくて、芸が楽しいんですよ。
あと、他の出演者も、みんな芸をしようと思って
参加してるんだけど、
芸が終わって審査員がしゃべっているときに
キツいこと言われると、
暗くなって下を向いたり、睨み返したりするんです。
そうじゃなければ、作り笑いでニコッとしてたり。
ところが「まんだらぁ~ず」は、
「よくわかんない」みたいな感じでしたよね。
昇太
いや、なんの責任もなく出ているから、
なにを言われても、
別に痛くも痒くもないんですよ。
「あそこがおかしい」と言われても、
「まぁ、そうでしょうね」
みたいな感じで、ずっとニヤニヤ。
グランドチャンピオンになったときも、
やすし師匠に
「君ら、プロになるんやろうな」と訊かれて、
「どぉーですかねぇ」って答えました。
いま思うと、よくあんな返事をしたものだと。
糸井
でも、「まんだらぁ~ず」は
やすし師匠にあんまり怒られなかったですね。
なんででしょうね。
昇太
やすし師匠も、
さすがに学生だし、素人だから、
言ってもしょうがないという気持ちが
あったんじゃないですかね。
糸井
いや、素人だからって容赦しないよ?
だって竹中直人くんは怒られてたもん。
竹中くんは、別の人が芸をやってるときに、
聞いてなきゃいけないのに
モノマネとかしてたから、怒られてました。
「ドアホお前! ちゃんとせいっちゅうねん」。
昇太
(笑)
遊んでる子どもを叱る教頭先生みたいな感じですよね。
ぼくが怒られなかったのは、
「こいつを相手にしてもしょうがない」
と思ってたんじゃないでしょうか。
いやでも、怖かったですけどね。
糸井
昇太さんの師匠の柳昇さんは怒らなさそうですね。
昇太
怒らなかったですね。
ぼく、入門してから怒られたことが1回もないんです。
糸井
それを見抜いて入ったんですね(笑)。
昇太
いや、見抜いたわけじゃないです。
師匠は、基本的にはすごく真面目な人なので、
筋が通ってないと嫌なんですけど、
人として失礼なことさえしなければ怒らないんです。
よく「自由にやりなさいよ」と言われてました。
糸井
柳昇さんと共通のにおいがする人って、
ぼくは、水木しげるさんだと思うんです。
ふたりは似てますよね。
昇太
ああ、はい。
ぼくも水木先生、すごく好きですよ。
糸井
水木さんも言ってることは
だいたいぼわっとしたことばっかりで、
人に対してあまり怒ったりしない。
柳昇さんと水木さんは、
どちらも激しい戦争体験者なんですよね。
で、戦争についての思いがものすごく強くて。
昇太
そうですねぇ。
糸井
柳昇さんも、戦争を題材にした落語を
やってらっしゃいましたよね。
昇太
はい。
『与太郎戦記』という題で、
戦争の本も書いてます。
水木先生も、戦争中の爆撃で
片腕を落とされてますよね。
うちの師匠も、太平洋戦争中は、
機関銃警護で、中国と日本を
行き来する輸送船を守っていたそうです。
アメリカの戦闘機とも撃ち合ってるんですよ。
よくあの人が撃ち合ったなと思って。
実は、師匠、そのときに怪我をして
指が1本ないんですよ。
高座に上がるときには、
いつも手ぬぐいを握っていたので
あまり気づかれなかったんですけどね。
糸井
あ、そうですか。
ぼくも気がついてなかったです。
なんか、雑な言い方をすれば、
「地獄を見た人」共通の穏やかさが、
どちらにもありますよね。
「歯を食いしばれ」という言葉は、
あえて絶対に言わない感じ。
昇太
「歯を食いしばれ」という思いは、
師匠の中にはあるんです。
実際に軍隊での生活を通して、
そういう体験をした人なので。
でも、それを他人には強要しない。
そのあたりがやっぱり、
強烈な戦闘体験をした人に共通する雰囲気なのかなと。
糸井
うんうんうん。
それはある。
きつい目にあった人こそ、
そこのところを黙りますよね。
それはどんな話でも言えますね。
昇太
そうですね。
うちの師匠も、
ときどき戦争の話をしてくれたんですけど、
最後は全部落語の話になるんです。
強烈に覚えていることがあって、
居酒屋で飲みながら戦争の話になったとき、師匠が、
「結局ね、日本がなぜ負けたかと言ったらね、
 武器なんだよ武器。
 戦争に勝つには、
 いい武器がないと勝てないんだよ。
 それは、落語も同じだね」
と言ったんです。
「新しくて強い武器を、
 いつも開発して持ってないとダメだ」と。
糸井
あぁ、説得力ありますね。
そして、ご自身も、そういう人だったわけですよね。
ボーッとしているように見えるけど、
「新しさ」に対してすごく貪欲でしたよね。
昇太
そうですね。
糸井
あと、人のおもしろさを認めるのが
上手な人だったと思うんです。
ぼくが柳昇さんを知ったのは、
テレビ番組の『お笑いタッグマッチ』なんですよ。
昇太
はいはい。
糸井
2つのチームに分かれて大喜利をやる、
「笑点」の原点のような番組だったんですけど、
その司会が柳昇さんでした。
出演するメンバーは
自由にやっていればいいんですが、
司会は、人が話していることの
どの部分がおもしろいか拾わなければ、
客席の笑いを作れませんよね。
そのなかで仕切っているのが、
柳昇さんだったんです。
あ、そうだ、歌丸さんも、円楽さんも、伸治さんも
そこにいたんですよ。
‥‥あれ、そういえば
おなじことしてますね、昇太さんも。
このたび司会になられて。
昇太
あっ、そういえばそうですね。
やっぱり柳昇一門の血がちょっと(笑)。
糸井
一門ですねえ。


(つづきます)
2016-09-02-FRI