楽しまないともったいないから。春風亭昇太さん×糸井重里 対談
第9回
理想の老後とお小遣い。
糸井
あの、ちょっと週刊誌的なことを聞きますけど、
そんなにお忙しいと、
結婚する暇がないですね。
昇太
いや、ほんとにないですねぇ。
糸井
このまま行く?
昇太
このまま行く感じなのかなぁ。
でも、たとえば、いまぼくが
パタッと死んじゃうとするじゃないですか。
そうすると、
このあいだ建てた家や、貯金とかが
全部、お兄ちゃんのところに行くのかなと思うと、
それはちょっと嫌かなと(笑)。
糸井
お兄ちゃんに渡るんだ(笑)。
でも法律ってそういうもんですよ。
昇太
そうなんですよ。
糸井
そういうことを考えるなら、
なにかしらの、
「君とぼくは深い関係だね」
という人の存在は必要ですね。
昇太
はい。それは多分必要だと思います。
糸井
誰かが家にいるのがめんどくさい、
という気持ちもある?
昇太
はい。ちょっとあります。
糸井
昔、松本人志さんが似たようなことを
言ってましたよ。
でも、コロッと結婚しました。
昇太
そうですね。
老後、ぼくはどんな感じになるのかなって
ちょっと考えちゃいます。
糸井
老後の話がでましたけど、
ぼくは、この仕事をやめたら、
自分の入る老人ホームを作ろうかなと
思っているんです。
まだ考えてるだけですが。
昇太
うわぁ。いいですね。
糸井
でしょ。
こういうのがいいなと思う施設を、
好きなように作りたいなと。
だいたい、ぼくの好きなことというのは、
みんなが描く普通の欲望と一致しますから、
まわりに話すと、
「俺も入る」という人がいると思うんです。
そうすると、親しい人が入ってくれて、
たぶん一日中おもしろい。
昇太
なるほど。
糸井
昇太さんが入居してくれたら、
老人ホームなのに、高座もできます。
たまに外からのお客を呼んでもいいし。
それから、
たとえば羽生善治さんみたいな人がいたら
「将棋講座」も開けます。
なかで暮らしてる人は、
「羽生ちゃん、今日は
 お客さんにむけて将棋講座やるらしいよ。
 いつもやってんのにねぇ」
とか言って(笑)。
昇太
「何度も聞いたよぉ」なんて言われて。
糸井
「今日はなんか、若い人が来るらしいよ」
「女の人もいっぱい来るらしいよ」
「いいねぇ」
「それ終わったら、六本木に映画行こう」
で、運転手付きで
映画観に行って帰ってきて‥‥
そんな老人ホーム、いいでしょう?
昇太
いやあ、いいですね。
糸井
東京に行ったり来たりできる場所で、
釣りができる場所と、
温泉と田んぼと畑は必須。
「今日はナスの収穫の日だから、
 ちょっと2時間ばかり
 ナスでも採ってくるかな」って。
ナスは食べるだけじゃなくて売るんです。
昇太
いいですね。
糸井
この話、このあいだ
12歳上ぐらいの人に言ったんですよ。
そしたら
「糸井ちゃん、それ、早く作って」
って本気で言われました。
たしかにそうだな、と。
ぼくの10年後と
彼の10年後、違いますからね。
昇太さんはぼくより10歳下だから、
ちょうどいいですよ。
ぼくがだいたいちょうどよくしておいた
タイミングで来れます。
昇太
(笑)入りたい、それ。
糸井
だって、病気とかで
「あと5年の命です」というときに
医療に億のお金を使っても
あまり意味がないと思うんですよ。
だとしたら、そこに何億も使うようなことをやめて、
そこを諦めれば、全部安くすむ。
で、そのぶん看護師さんを雇って
チヤホヤしてもらう(笑)。
昇太
はい。
人はね、やっぱチヤホヤが必要なんですよ。
チヤホヤされたいんですよ。
糸井
小銭を貯めている分は、
よかったらそこに使ってください。
だって、何百億円も持っている人でさえ、
「老後が心配だ」と言うんですよ。
そんなはずはないんで、
「あなたの老後は大丈夫です」
と保証してあげて、
あとのお金は、若い人に
運用してもらえるような組織にしたい。
困ってる若い人たち、たくさんいますから。
そのお金を運用してもらうことで、
自分たちがお役に立てれば
うれしいじゃないですか。
昇太
いいですね。
ぼくも、けっこういろんな人を見てるけど、
結局は年を取ったときに、
人との接点があるかどうか、だと思うんです。
やることや仕事がなくなると、
どんどん元気がなくなるんですよね。
でも、人との接点があると、
そこからまた、なにかが広がりますから。
糸井
そうですね。
いまは儲からない仕事というのが、
世の中からなくなってるけど、
「儲らないけどやろうよ」
という仕事があればいいんです。
老人ホームでちょっと寺銭取って
落語やってもいいし、
お城の話とかしてもいいし。
で、もうすでにお金はあるんだけど、
ちょっとしたお小遣いももらえる。
昇太
それは嬉しいですね。
「お小遣い」って嬉しいんですよ。
糸井さんは最近、
お小遣いをもらったことってありますか?
糸井
ないですねえ。
昇太
ぼく、お小遣いのことで、
これはいいなと思ったことがあって。
ぼくが40歳くらいのときですけど、
お正月に師匠の家に行ったら、
兄弟子も来ていたんです。
その人も70歳近いんですが、
なんと、80歳くらいの師匠から
お年玉をもらっていたんです。
糸井
あー。いいですねぇ。
昇太
「はい、これはお年玉ね」
「あ、師匠、ありがとうございます」って。
おじいちゃんがおじいちゃんに、
お小遣いを渡してる姿、
それはもう夢のような風景でした。
糸井
いや、いいですよ。欲しいです。
昇太
糸井さんも欲しいでしょ。
ぼく、永六輔先生にいいことしたなと
思うことが一つだけあって。
永先生が、シャレで、うちの師匠から
名前をもらったことがあるんですが、
それが、ぼくが入門した後だったんです。
糸井
じゃあ昇太さんの弟弟子になるんだ(笑)。
昇太
はい。
それ以来、永先生は、
いつもぼくのこと、
「あにさん、あにさん」って呼ぶんです。
それでぼくね、
1回お正月にお年玉をあげたんですよ。
糸井
いいですねぇ。
昇太
すごく喜んでもらえました。
糸井
それは嬉しいだろうなぁ。
あげるほうも嬉しいでしょう。
昇太
そうそう、そうなんですよ。
あげるほうも嬉しい。
糸井
本当にみんなが欲しいのは流通なんです。
チョロチョロでいいから、
流れていればいいんですよ。
昇太
経済って、そういうことですよね。
回ってれば、景気がいいってことだし、
滞ってたら、景気が悪いってことだし。
糸井
止めちゃうのが一番悪いんですよね。
お年玉の話、いいなぁ。
ぼくらももらえるようにがんばろうね。
昇太
ぼくも、もらいたいです。
子どもだけのものにしておくのは
もったいないかもしれないですね。
年に1回、たとえばお盆の時期は、
若い人が年配の人にお小遣いあげる日、
というふうになると、
楽しいんじゃないですか。
糸井
いいですね。
いや、今日は春風亭昇太という人が
よく分かる話だったと思います。
昇太
ありがとうございます。
糸井
お仕事のほうも忙しいんでしょう?
昇太
はい。いろいろと。
だけど、ぼくは無理がきかないタイプなんで、
休みはちゃんと取るようにしてます。
事務所にスケジュールを
管理してもらっていますが、
「ここからここは休み!」って
ぼくが言ったら、
もうそれが休みになるんです。
糸井
そういうことを聞いてると、
昇太さんと、
自分を追い込むタイプの志の輔さんが
友達だというのが、すごく不思議です。
昇太
彼とは全然タイプが違うんで、
かえってラクなんです。
おそらく、出身が日本海側と
太平洋側という違いがあるからでしょうか。
お互いのやることを
「バカなんじゃないの」って
おもしろがりながら見てます。
糸井
昇太さんのご出身の静岡は、
気候が温暖だからね。
そりゃ富山の志の輔さんとは違いますよね。
昇太
はい。富山とは違います。
だって静岡でイカとか捕まえても、
光らないですからね。
向こうのイカは、光ってますからね。
「駿河湾の桜えび」も光らせたいな(笑)。
糸井
(笑)たいへん結構な。
どうも、ありがとうございました。
昇太さんは、今日これからご予定は?
昇太
これから、バンド活動です。
ぼく、グループサウンズ以外にも、
ディキシーランド・ジャズの
バンドもやっているんです。
糸井
そっちもやってるんですか。
昇太
はい。これからそこで
トロンボーン吹いてきます。
どうも、ありがとうございました。

(終わります)
2016-09-13-TUE