『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里

「あのマンガの作者にお会いしてみたい」
そもそもは糸井重里のそんな希望が実現しての対談でした。
まるで大学の漫画研究会での会話のように、
おだやかな熱を帯びながら、おしゃべりは進みます。
そして終盤、対談は思いがけない展開に。
『さよなら群青』の「ほぼ日」への引っ越しが、
その場で一気に決まったのです。
そんな最後の「びっくり」も含めておたのしみください。
『さよなら群青』の作者と、
その作品にほれ込んだ男の対談を全9回でお送りします。

(対談に登場する「編集のかた」は、
 当日同席した「週刊コミックバンチ」の編集者です)

第1回 遠くへボールを投げるように 2010-04-19-MON
第2回 ものすごくエッチなんですよ 2010-04-20-TUE
第3回 プロになっちゃいけないんじゃないか? 2010-04-21-WED
第4回 取材に3年?! 2010-04-22-THU
第5回 薄皮一枚の生命の「色」 2010-04-23-FRI
第6回 描きながら「ニャッ」とするとき 2010-04-26-MON
第7回 切り株の色気 2010-04-27-TUE
第8回 「教える」「教えられる」の効果 2010-04-28-WED
最終回 『さよなら群青』の匂いをほぼ日で 2010-04-29-THU
第1回 遠くへボールを投げるように
糸井 はじめまして、糸井と申します。
さそう はじめまして、よろしくお願いします。
糸井 「はじめまして」ということになると、
因縁みたいなところからになるんですが。
まずは『さよなら群青』の1巻を
送っていただいたんです。
ありがたいことで、
そうやって本を送ってくださるかたは
たくさんいらっしゃるんですね。
ですがなにせ、
読んだほうがいいかどうかを調べるだけでも
なかなかたいへんなことになるんですよ。
さそう はい。
糸井 「読むかもしれない」っていうところに、
どんどん本が溜まっていっちゃうんです。
で、そんな中に『さよなら群青』が‥‥。
すみません。
さそう いえいえ(笑)。
糸井 さそうさんは『おくりびと』
描いてらっしゃいますよね。
さそう ええ、映画を漫画化したものを。
糸井 それを映画のあとで読んだんですよ。
そのときに
「さそうあきらってひとは、
 こういう絵だったかな?」って。
あの、『俺たちに明日はないッス』って、
さそうさんですよね?
さそう はい、そうです。
糸井 あのころの絵もまた違っていて、
「線がどんどん柔らかくなってるんだ」
みたいなことを『さよなら群青』の
表紙だけを見て、なんとなく思ってたんです。
パラパラッともやらずに。
‥‥ほんと、すみません。
さそう いや、そんな(笑)。
糸井 で、きっかけさえ忘れちゃったんですけど、
『さよなら群青』を読んでみたら、
はなっからびっくりしちゃって。
「こういうのを見逃してたのか!」と。
さそう (笑)
糸井 ドキドキしたんです。
なにを感じているのかもわからずに、
「ああ〜!」って思った。
あとから振り返って確かめたくなるような
自分の感情のようなものがあったんです。
あとになって考えると、
「それは恋のことなのかもしれない」
と思ったり。
さそう そうでしたか。
ありがとうございます。
糸井 そもそもは新潮社さんから、
2巻の帯の言葉を
ご依頼いただいてたんですよね。
編集の
かた
はい、お願いいたしました。
糸井 ちゃんと読んでいなかったし、
そのときは時間がとれそうもなかったので
お断りさせていただいたんです。
読まないで安請け合いをしないように
気をつけていると、そうなっちゃって。
編集の
かた
たいへん残念でしたが。
糸井 で、読み始めたら、
「なんだ、これは!?」ってことになりまして。
贖罪の意識みたいに、翌日の「ほぼ日」に
「これはおもしろかったぁ」っていうのを
書かせていただいたんです。
もう、「すいませんでした」という思いで。
編集のかた それを書いていただいたのが、
帯の締め切りの日だった、と。
糸井 ああ〜、すみませんねぇ。
いや、こういう言い方もへんなんですが、
正直にやると、
そういうことにもなっちゃうんですよ。
さそう はい。
でも、うれしかったです。
糸井 とにかく人に読ませたくなっちゃって、
贖罪みたいなきもちで知り合いに
「読んだ? 読んだほうがいいよ」
とすすめたりしてたんです。
そうこうしているうちに
コミックスの2巻ができて、
今のうちにちゃんと出版が保証される方法は
ないものだろうか、と思いはじめたりしまして。
さそう なんだか、ご心配いただいて、
ありがとうございます。
糸井 いや、口幅ったいですけど、
油断できない時代じゃないですか。
だってあの、天才音楽家の話‥‥。
編集のかた 『神童』ですね。
糸井 そう、『神童』。
『神童』と『マエストロ』
続けて読んだんですが、
あんのじょう『マエストロ』は、
中断してた時期があったそうで。
さそう そうですね。
『神童』も途中で打ち切りになりました。
糸井 はぁ〜! そうでしたか、すごいことですね。
それはショックの度合いって、どうなんですか?
さそう う〜ん‥‥
ある程度、覚悟はあったので。
めちゃくちゃショック
ということでもなかったですね。
糸井 あ、そういうものですか。
さそう 時代とか出版界の状況っていうことよりも、
打ち切りになるのは、
ぼくの問題なのかなと。
糸井 それは? 遅筆だとかそういうことですか。
さそう いや、あの、人気がないんです(笑)。
糸井 ‥‥え?
いや、そうですか。
ぼくは『神童』にしても
『マエストロ』にしても、
途中で読むのをやめるなんて
できなかったですよ。
ということは、もう、ぼくの目が狂ってる?
さそう いえ、そんな(笑)。
でも、時間が経つと、
だんだんと広がっていっくものもあって。
糸井 ああー。
長距離ランナーみたいな?
さそう そうなんでしょうか。
糸井 走り方が違うんですかね?
さそう そうですね。
ぼくの読者っていうのは
多分すごく遠い所にいて、
そこに届くのに時間がかかるんだと思います。
編集のかた さそう先生は、
遠くにボールを投げるような
作家だと思います。
さそう あ、そうですね。
川の向こうに投げないと(笑)。
糸井 なるほどぉ。
いまの部分は完全に自己分析ですね。
さそう ああ‥‥(笑)。
糸井 自己分析してる(笑)。
さそう そうでしたね(笑)。

(つづきます)
2010-04-19-MON
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