『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里
第4回 取材に3年?!
糸井 『さよなら群青』の舞台は島ですよね。
これはどこの島なんでしょう?
さそう 答志島(とうしじま)という
伊勢志摩の沖合にある島まで
海女さんの取材に行ったのですが、
ほかにもいろいろ行ってますので、
まあ、場所としてははっきり決めてないんです。
糸井 海女さんの取材に。
編集の
かた
志摩に「海女センター」
のようなところがありまして、
そこでちょっといっしょに、
海女舟に乗せていただいたりもしました。
糸井 ほぉ〜。
じゃあ、取材は結構しつこくなさったんですね。
さそう そうですね。
なのでちょっと、はじまるまでが長かったです。
編集の
かた
長かった。
ほんとうに長かったです。
糸井 強くおっしゃってますねぇ(笑)。
どのくらいですか?
その、取材から連載開始までの期間は。
さそう いや、大学の先生もはじめちゃったし、
なかなかはじめる勇気もなくて‥‥。
糸井 どのくらいでしょう(笑)。
さそう ええと‥‥。
編集の
かた
‥‥3年。
糸井 さ‥‥ほんとか!!(笑)
さそう そうです‥‥ね(笑)。
なんだか、取材ばっかりさせてもらって。
糸井 はぁ〜〜、3年かぁ〜。
編集の
かた
2006年の10月くらいに答志島に初めて行って。
そこでいろいろ話を聞いてた中で、
さそう先生は海女さんに興味を持たれて、
そこから今度は海女さんについての
取材を重ねまして‥‥。
糸井 じゃあ、海女さんの話にするっていうのは、
決めてたわけじゃなかったんですか。
さそう そうですね。
最初は、なんかもっと短編のつもりでした。
糸井 短編のつもりだったんだ‥‥。
おもしろい(笑)。
さそう 少年と少女が出会って、
手をつなぐくらいのところまで行って、終わる。
そういう短い話をやろう
っていうところから始まったんです。
糸井 はぁ〜。
さらっと短い話になるはずだった。
さそう ええ。
でも、あんなに時間をたっぷり取って、
何度も取材に行かせてもらってると‥‥。
糸井 短編では申し訳ない(笑)。
さそう はい。
あ、いや(笑)、
もちろん理由はそれだけじゃないですよ?
取材を重ねていろいろ考えるうちに、
「グン」という主人公を
すごく描きたくなってきたんです。
それで、こういう物語になっていきました。
糸井 思春期の男の子の物語に。
さそう ええ。
編集の
かた
いちばん最初は、その答志島の
寝屋子(ねやこ)の制度でしたよね。
さそう ああ、はい、
きっかけはそれだと思います。
糸井 ネヤコ?
編集の
かた
一定の年齢に達した男の子たちが、
共同生活をする制度なんです。
糸井 答志島にはそういうのがあるんですね。
編集の
かた
食事は実家で食べて、仕事もして、
夕方になると集まって一緒に過ごすという。
糸井 へぇ〜。
さそう その制度に参加するのが、
中学校を卒業した男の子なんです。
糸井 15歳。
うん、まさしくその年齢の男の子だ。
さそう ええ。
ですからそのあたりのことから
構想に入っていった感じでした。
糸井 そうかぁ−。
でも『さよなら群青』は、
女の子の話でもありますよね?
さそう うーん‥‥
そうですね、そうでもあります。
糸井 岬という女の子は、
島の人たちにすごく守られていて。
さそう 守られています。
糸井 それは助かりますよね。
守ってくれる人がいっぱい出てくる。
だから女の子の話にも、男の子の話にも、
どちらにも今は読めるじゃないですか。
さそう うーん‥‥。
どっちに比重っていうのはないんですけど‥‥。
いや、でもやっぱり、
男の子かもしれません。
「彼から見た世界」
という話ではあると思います。
糸井 なるほど、そうか‥‥そうですね。
いわば、『さよなら群青』の
いちばん観念的な部分は、
この「グン」という男の子ですもんね。
さそう ええ。
糸井 無垢なるもののシンボルとして
男の子はつねに動き回っていて。
その無邪気が巻き起こす物語でしょう。
さそう そうですね、無邪気さが。
糸井 好きになった女の子のことを
「とにかく見に行く」ところとかさ、
たまんないですよ。
さそう (笑)
糸井 描いてる人の、
「リアルに読ませる」という自信が
すごいものだなぁと思いました。
「こんなもんかな」
では終わらせない意気込みで、
物語を描いてらっしゃいますよね。
さそう なんだかもう‥‥
ありがとうございます。
糸井 好きな女の子を見に行った主人公は、
ずーっと女の子を見張ってるじゃないですか。
ああいうのを、
嫌われないでなおかつリアルに描くって、
たいへんなことですよね。
いや、ほんと、すごいなぁ‥‥。
  (つづきます)
2010-04-22-THU
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