『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里
第3回 プロになっちゃいけないんじゃないか?
糸井 ちょっとまた、
絵のタッチが変わる話に戻るんですが。
さそう はい。
糸井 絵が変わるというのは
「文体が変わる」みたいなことだから、
ほんとうはエライ騒ぎになることですよね。
さそう ええ、そうですね(笑)。
糸井 さそうさんは「自分で飽きるから」
という理由でそれを変化させてきた、と。
さそう あの‥‥たとえばものすごく
売れているマンガを描いている人は、
そう簡単に絵柄を変えられないと思うんです。
糸井 うん、そうなんでしょうね。
さそう ぼくはだれにも文句を言われなかったんですよ。
糸井 はぁ〜。
読者から「絵が変わって違和感があります」
みたいな感想がくるようなことも
なかったんですか。
さそう みなさんやさしい人なので、
あまりそういうことを言わないんです。
‥‥あ、でも、たまーにあったかも。
「昔のほうがよかった」って、
ボソッと言われたことはあります(笑)。
糸井 なるほど、そうですかぁ。
ということはつまり、
いまのお話の流れでわかったんですけど、
漫画家というのは基本的に
絵をコロコロ変えないほうがいいわけですね?
さそう ええ。
糸井 作家性を通すために。
さそう パッと見て、だれの作品っていうのが
わかったほうがいいですから。
糸井 言い方をかえれば、
「プロは絵を変えない」わけですね。
さそう そう、そうなんですよ。
糸井 じゃあ‥‥さそうさんはアマチュア?(笑)
さそう そういうことになります(笑)。
糸井 また失礼なことを、ごめんなさい。
でも「アマチュア」っていうのは今、
ぼくにとってキーワードになってるんです。
「プロになっちゃいけないんじゃないか?」
っていうことを
最近さかんに思っているんですよ。
さそう といいますと?
糸井 プロっていうのは
商品をつくるときの名前で、
作品をつくるときはプロではないですよね。
ピカソはプロの画家ではないでしょう。
「商品性」と「作品性」っていうのは
やっぱりちがうと思うんで。
さそう なるほど。
糸井 アマチュアとして
いいものを次々につくるしんどさと、
プロとして信頼を獲得し続けるっていうことは、
どっちもありなんですよ。
その上でぼくは、最近よく考えているんです。
「アマチュアとして生き続ける
 図々しい道を選べないものだろうか」
さそう うーん‥‥。
糸井 さそうさんのように(笑)。
さそう いや、そんな(笑)。
糸井 絵をどんどん変えることが
できているということは、
編集の人が了解してるわけですよね。
じゃあ、さそうさんは
編集者にも怒られないんですか?
さそう ええと‥‥怒られないですね。
編集の
かた
とくべつです。
糸井 とくべつ(笑)。
編集の
かた
とくべつです、
さそうさんはとくべつなんです。
糸井 はぁ〜。
さそう でも‥‥じつは自分では、
そんなに急に変えたつもりはないんですよ。
糸井 そうか、すこしずつ。
さそう ええ。
ちょっとずつなんだと思います。
『神童』のときと比べると
いまはぜんぜん変わってますけど、
それはすこしずつの自然な変化というか。
糸井 なるほど、段階的に。
『神童』から『マエストロ』で、
ちょっとこう、1段階あるでしょ。
より男性的な文体っていうか、
ゴツゴツッとした絵柄になりましたよね?
さそう そうですね。
糸井 で、そのあと、
『さよなら群青』では、
たおやかというか、しなやかな段階に。
ここでもう、3種類の絵がありますよね?
さそう はい。
糸井 ‥‥なんだかおれ、
評論家みたいになってきた(笑)。
すみません、ファン心理のようなものなんです。
さそう いや、とんでもないです(笑)。
おっしゃるように変わっているんです。
でも自分の中ではちょっとずつなので、
あまり意識をしてないのかもしれません。
糸井 マンガって絵であり記号ですからね。
その記号の選び方によって、
「大きい声を出してるときはこれですよ」
っていう読者との了解があるじゃないですか、
言語が。
で、そこのところで、
目の表情をどう描くとか、
口の開け方はどうだとかっていうのを、
そのマンガによって決めているんですよね。
無意識な変化というか。
きっとそれは多かれ少なかれ、
どの漫画家さんもそうなんでしょうね。
さそう はい、そうなんだと思います。
──絵柄って、すごく難しくて。
読者のみなさんは、パラパラッとこう、
新しい雑誌をパラパラッとめくって、
すぐに自分好みのマンガを見つけるんです。
それくらい、絵っていうのは、
生理的なところで選ばれているんですよ。
糸井 やっぱり文体に近いですねぇ。
さそう ええ。
ちょっと線の感じがちがうっていうだけで、
もう読まなかったりする。
糸井 「つまんなそうだな」とか、
平気で言いますよね。
さそう はい。
糸井 恐ろしいことですね。
さそう 恐ろしいです。
でも事実なんです。
  (つづきます)
2010-04-21-WED
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