『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里
第8回 「教える」「教えられる」の効果
糸井 大学の先生をやられていることについて
ちょっとうかがいたいのですが、
どのくらいお続けになっているんですか?
さそう ええと、2006年からなので、
4年になりますね。
糸井 そのことは、マンガを描くことの
邪魔にはならないんでしょうか。
具体的には、忙しくなりますよね?
さそう ええ、でも、やってみたら
ぼくはなんだか教えることが
けっこう好きなんだと思いました。
糸井 そうでしたか。
さそう 方法論みたいなものを
いろいろ考えるのが好きなんですよ。
糸井 はい、はい。
さそう 経験を教えるというよりは、
「こうやればもっとうまくなるかも」
ということを伝えてみるというか‥‥
エラそうなんですが(笑)。
まあでも、そうやってると、
「自分もやらなきゃ」と思えてくるんです。
学生の進歩だけじゃなくて、
自分も上に進めるんじゃないかと。
糸井 いや、それはもしかしたら、
だれでもそういうところがあるんですよ。
どういうことかというと、
さっきまでぼくは家にいたんですね。
テレビをみてたら『徹子の部屋』に
市川染五郎さんが出てたんです。
さそう あ、そうですか。
うちの嫁さんがすごいファンなんです。
糸井 へえー(笑)。
さそう 追っかけみたいなことをやるくらいのファンで。
糸井 すばらしいじゃないですか(笑)。
いや、かっこいい人ですからね。
で、その『徹子の部屋』をみてたんですけど、
染五郎さんという人もけっこう、
自己分析をするところがあるんです。
さそう そうなんですか。
糸井 とても冷静に、方法論としてこう、
腑分けをするように自分を分析して、
「どこを取ってどこを捨てる」
みたいなことを絶えず考えてるかたなんですよ。
さそうさんの自己分析と同じように。
さそう そんな(笑)。
糸井 以前、染五郎さんにお会いしたときに、
「そうか、この人は
 先生だらけの中に生きてるんだ」
と思ったんです。
ひとつの芝居をやるにあたって、
それを得意としている先生に聞きにいくとか。
つまり歌舞伎の世界って、
先生だらけなんですよ。
さそう なるほど、そうなんでしょうね。
糸井 さっきテレビをみながらそれを思い出して、
「先生だらけの世界にいる人は伸びがすごいな」
ってつぶやいたら、
近くにいたうちの妻が、
「しかも教えるしね」って言うんです。
さそう ああー、はい。
糸井 「役者同士でそんなことはない」
って言うんですよ。
教えて教えられて
若い人を育てていくのは、
歌舞伎がやっぱりすごいですよね。
「伝えたり教えたり」は、
その人を伸ばすなぁって。
さそう はい。
それはほんとうに、そうですねぇ。
糸井 うん。
さそう ぼく自身、大学で先生をやる前は
ずっとひとりでやってきたので
まったく伸びませんでした(笑)。
糸井 実感としてあるんですね(笑)、いいなぁ。
さそう 大学に行ったら、
とうぜんですが先生がたくさんいらして。
みなさんの方法論に触れることができますから
学ぶことは多いですね。
歌舞伎界ほどではないにしても、
ぼくにとってはそれこそ、
先生だらけみたいな状態です。
糸井 おもしろい先生がいっぱいいらして。
さそう ええ、これまで思ってもみなかった人と
会うことが多くなりました。
糸井 いいですねぇ。
さそう だからもう、
この4年のぼくの伸びしろというのは(笑)。
糸井 すごいぞ(笑)。
さそう と思うんですが(笑)。
糸井 生徒さんからも刺激を受けますか。
さそう それもありますね。
学生が毎年70人くらい入ってくるんですけど、
それなりの競争率を勝ちあがってくるので
みんな絵がめちゃくちゃうまいんですよ。
で、そういう生徒たちは、
だいたいみんな発想も絵からなんです。
糸井 あ〜、そうか。
さそう 自分とぜんぜんちがう発想で
描いてるのがわかって、
それだけでもすごくおもしろいですね。
糸井 どっちもありですもんね。
さそう ええ。
糸井 先生として「どっちもあり」だ
っていうことを教えるわけでしょう?
さそう そうですね。
その上で、やっぱりみんな
お話作りがすごくネックになってしまうので、
ぼくとしては
反対の道筋を教えられるのかな、と。
糸井 ストーリーからつくる方法を。
さそう ええ、どうやって組み立てていくか、
みたいなことを。
まあ、なかなかむずかしいのですが。
糸井 じゃあ先生をやっていることは
邪魔になってるどころか、
自分の役に立ってるっていう感じなんですね?
さそう もう、はい。
完全にそうですね。
糸井 そうかぁ‥‥。
さそうさんの無意識に、
『さよなら群青』というものをやらせた何か
というものの中に、
「先生」ということも混ざってるんでしょうね。
さそう おそらくは。
糸井 いや、ちょっと横道にそれましたけど、
このお話はうかがっておいてよかったです。

(つづきます)
2010-04-28-WED
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