『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里
第6回 描きながら「ニヤッ」とするとき
糸井 なんだろうなぁ。
『さよなら群青』っていうのは、
絵とストーリーじゃないところでも
おもしろいんですよ。
さそう そうですか。
編集の
かた
もどかしさがたくさん詰まってますよね。
糸井 うん、もどかしいです。
編集の
かた
伝わらないことのもどかしさが
すごく感じられて。
で、たまに伝わるときの、
ワッていうのが楽しめると思います。
糸井 つまり、黙ってる部分が長いんですよね。
しゃべる人も出てくるけど、
その人もそれ以上のことは言わないとか。
編集の
かた
ええ。
糸井 このお話は、
どのくらいで完結するんですか?
さそう 一応、4巻で終わる予定です。
糸井 そうですか。
あの‥‥これはまた、
漫研の人みたいな発言なんですけど‥‥
「4巻を超えておもしろかったら本物」
っていう「俺説」があるんです。
さそう ああ、4巻で。
糸井 だいたい長いマンガって、
10巻であろうが20巻であろうが、
4巻までは本当におもしろいんですよ。
で、5巻からも本当におもしろいマンガは、
実をいうとあんまりないんです。
だからマンガというものはぜんぶ、
4巻まででやめてもいいという説が
ぼくにはあるんです。
漫画家の「これを描きたい」は、
4巻で終わります、だいたい。
そこで編集者から「すごい人気ですよ」とか、
読者から「どうなるんですか?」
とか言われるんで、
「うーん、考えればやれるかな?」
って、もう1回動機をふくらませて
続けることはできますけどね。
だけど「この漫画はなんだ?!」
と言わせられる力は4巻までですね、たいがい。
で、『大奥』が4巻なんですよ。
編集の
かた
‥‥やっぱり糸井さん、漫研です。
 
糸井 いや、あのね(笑)、まずいな。
さそう (笑)
糸井 プロの漫画家を前に
えらそうなこと言ってすみませんね。
いろいろ言ってますけど、
漫画はすごいですよ。
ひとりで世界観をぜんぶ表現するっていうのは、
いまの時代では漫画家が
いちばんだと思ってたんです。
映画になると、
他人の力がぜったいに必要になりますから。
さそう そうですね。
映画は映画で手がかかりそうですが。
糸井 かかりますよね。
大勢でやるかひとりでやるかは別にして、
とんでもない手がかかってます。
表現は、みんなそうなんですよ。
手のかかったそれをお客さんが楽しむわけで。
手品師が時間をかけて仕掛けをつくっておいて
「はい」ってハトを出すように、
もう、細心の注意で
いろんなことを仕掛けておくわけでしょう?
さそう うーん‥‥
でも漫画家の場合は仕掛けるという意識より、
やっぱり無意識だと思うんですよ。
とくに絵柄的なことに関しては。
糸井 そうか、無意識ということを
さっき話しましたよね。
なるほど。
じゃあ、「読者はこう感じるんじゃないかな」
みたいなことは、想像もしないですか?
さそう うーん、
それは程度によりけりですかね。
糸井 たとえば自分のことで考えると、
「イケる!」と思ったとき、
「おれがやりたいからやる」
っていうこと以外に、
「向こう側がよろこぶ姿もみえる」
という珍しいケースがたまにあるんですよ。
そのときはもう、どっちでもいいんです。
「ウケるから書いてる」でも、
「おれ、書けちゃったんだよ」っていうのも、
もうわかんないんですよ。
まあ、いつもそうじゃだめなんでしょうけど、
たまにあるんです、そういうことが。
さそう そうですか。
糸井 『さよなら群青』をみてると、
「これを描いているときは快感だろうなあ」
っていう絵がありますよ。
読者からの拍手を信じているような。
さそう ああ‥‥それはちょっと、あるかもしれません。
糸井 いま、たまたま開いたページなんですけど、
主人公の男の子が、木の枝から
屋根を伝わっていくシーンがありますよね。
この忍者みたいな動きなんかは、
こう描くと決めるまでは
どこにも無かったものじゃないですか。
さそう ええ。
糸井 それを「こう描く!」って思いついたときには、
「ニヤッ」とならないですかね?
さそう そうですね。
まぁ、「ニヤッ」は始終してると思いますよ。
糸井 よかった(笑)。
さそう (笑)
糸井 「ぜんぶが無意識です」って言われたら、
ちょっと困っちゃうかもって思ってました。
さそう そういうことではないです。
糸井 無意識に、それが描けていることもある
ということですよね。
さそう ええ、そうです。
糸井 それはそれで伝わったことが快感で。
さそう はい。
糸井 じゃあ逆に、絵を描いていて、
伝わるかどうかで不安になることはありますか。
さそう それはたいていの漫画家にあると思います。
糸井 伝えたくて、描き込みすぎちゃったり?
さそう はい、そういうことも。
その点では、ギャグの人はすごいですよ。
吉田戦車さんとか。
あれがわからないんですよ、ぼくには。
あの絵を10年、20年と維持していることが。
ストーリーを描いてる漫画家は、
「背景をもっと描き込んだほうがいいかも?」
みたいなことがついつい気になるんです。
ギャグの人は、
そこがわかっちゃってると思うんですよ。
糸井 わかっちゃってますよね。
さそう ええ。
糸井 たぶん、小説書きと俳句詠みとは
ぜんぜん違うじゃないですか。
さそう ああ〜。
糸井 「五七五のまんまでいいよ」って言いながら、
俳句の人は生きてるわけじゃないですか。
戦車さんとかを見てると、
やっぱりなにかが
「わかっちゃった」っていうふうに思いますね。
さそう そうですか。
糸井 「これをおもしろいと感じる俺」と、
「読者だっておもしろく感じるだろうな」
っていう、そのバランスみたいなものの、
名人になっちゃうんじゃないですかねぇ。

(つづきます)
2010-04-26-MON
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