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勉強サイド

勉強の夏、ゲームの夏。2017

nagata

話しても要領をえない子で‥‥。

2017/08/25 19:58

こんにちは!
小学五年生の息子の
文章力について相談です。
息子の話は、要領を得ないと言うか…
聞いていても何だったのか、
どうだったのかと言う事が
よく分かりません。
まずいきなり、自分が思った事を言うので、
何の話か分からない事が多いです。
作文を書いても、何を言いたいのか
分からないことが多いです。
あと字も汚くて、ものすごく読みづらいです。
書道にも通っていますが、
本人に綺麗に書こうと言う気持ちがないのです。
伝える力ってどうやったら伸びますか?

(ゆでこ)

おおお、わかる、とてもよくわかります。
ずばり、うちの子かと思いました。
古賀さん、いかがでしょう?

「これも、若いライターの人たちに
 講座で言うことなんですが、
 たとえば、駅から自分の家までの道を
 ことばでしゃべってもらいます。

 そうすると、本人には、当然なのに、
 聞いてる人にはわからない、
 ということの差に気づけたりします。

 たとえば、
 『駅から出たら銀行があるので‥‥』
 その駅は、どの出口から出たの?
 銀行は、何銀行なの? って、
 聞いてるほうはすぐに指摘できるんです。

 単に『あんたの言ってることはわからん』
 と返すのではなく、どこがわからないのか、
 きちんと言ってあげないと
 相手も気づけないんですよね。

 あと、ぼくは子どものころ、
 決して字はきれいではなかったですが、
 読書感想文などを書くときは、
 必ず辞書を横に置いて、
 漢字がつかえるところは
 できるだけ漢字で書くようにしてました。

 読むほうが感じるのって、
 『文字がきれいかどうか』よりも、
 書き手の取り組み方が丁寧かどうか
 というようなところなんですよね。

 たとえくせのある文字でも、
 漢字をつかって丁寧に書いてたら、
 その態度や姿勢はきちんと
 伝わるんじゃないかと思います」 
 
nagata

感想をきちんと書くには?

2017/08/25 18:27
それでは、読者の方からの
質問に応えていただきたいと思います。
古賀さんに選んでいただきました。
こちらの質問です。


感想文の相談です。
小5の女の子。
テレビドラマ化された小説で書くことにしました。
主人公がこうでああで‥‥と
内容を要約しては『すごいと思った。』
また違うシーンを要約しては
『面白いなと思った。』
と感想部分が少なすぎるできばえ。
どうすごいの? 自分だったらどうなると思う?
どのへんが面白いと思ったの?
それは笑える面白さ?
興味が出たっていう面白さ?
とこちらが掘り下げようとしても、
『うーーん、わかんない』
気楽に内容について
おしゃべりしているといろいろ出てくるのに、
いざそれを文にとなると書けなくなるみたいです。
文章を書くうえで、
普段からできることを教えてください。

(りえかえる)


あああ、よくありますね、こういう感想文。
というか、ふつう、こうなっちゃう。
古賀先生、どうすればいいんでしょうか?

「大人のライターの人でも
 こういうことってよくあります。
 ライター講座などで、
 ぼくはこんなふうに言ってます。

 感動でも、興奮でも、怒りでも、悲しみでも、
 こころが動いたら、感情をそのままにせず、
 『自分のこころ』を見つめる時間をつくる。
 よくないのは、すぐにそれを
 安易なことばに置き換えることです」

自分のこころを見つめる、というのは、
具体的にはどういうふうにすればいいのでしょう。

「本を読んで、こころが動いたら、
 その『感じ』が、
 自分が過去に経験した
 なにに似てるか考えてみましょう。

 自分が過去に見たり聞いたり
 感じたりしたことをしっかりと見つめ、
 いま感じたこころの動きが、
 それの何かと似ていないか、必死に考える。

 たとえばそれは、
 『予防接種を打つ前の
 列に並んでるときのドキドキ』に似てないか?
 『夕方の空が赤らみ、
 少しずつ暗くなっていくときのさみしさ』
 に似てないか?
 『ベッドに入ったのに、
 ちっとも眠れないときの怖さ』に似てないか?
 それをじっくりと考えます。

 そして、もしも似たものが見つかったら、
 本を読んだときのこころの動きと、
 過去の自分の体験に共通するものに、
 『名前をつけられないだろうか?』
 というふうに考えてみます。

 共通する『この感じ』に名前がつけられたら、
 それが、自分なりに感じた作品のテーマです」

‥‥古賀先生、いや、古賀さん、すごい。
それは、すごい考え方です。
しかも、それ、自分でできる。

「はい、できると思うんです。
 で、自分なりに読み取ったテーマが発見できたら、
 もう一度、本をぱらぱらめくります。
 じっくり読むというよりは、
 印象深く感じたところを、ぱらぱら読み返す。
 そうすると、テーマがさらに肉付けされていきます。
 あとは、それを、丁寧に書いていくだけです」

はーーー、古賀さん、すごいです。
さすがだ、古賀さん。
nagata

古賀さんの原体験

2017/08/25 18:08
少々話が戻りますが、
読書感想文や作文で
たくさん賞をとったり
ほめられりしてきたという古賀さんが
いちばん印象深く憶えている場面は
どんなものでしょう?

「小学校6年生のときの担任の先生が
 すごくおもしろい人で、
 新学期の最初に、
 『好きなテーマで1年間かけて
  原稿用紙50枚くらいの
  卒業論文を書きましょう』
 というふうにおっしゃったんです」

へーーーーー!

「変わってますよね(笑)。
 で、そのとき、クラスのみんなは
 たとえば偉人についてとか、
 江戸時代の歴史についてとか、
 そういうテーマで書いたんですけど、
 ぼくは、小説を書いたんです」

おおお。ちなみに、どんな?

「SFなんですけど、
 まあ、言ってしまえば、
 当時好きだった、『猿の惑星』と
 『インディジョーンズ』と
 『ジェダイの復讐』を
 合わせたようなものです(笑)。

 ところが、その担任の先生は、
 ぼくの小説をぜんぶの卒論のなかで
 最優秀賞に選んでくれたんです。

 で、その最後の授業のときに、
 2時間分まるまるの時間をつかって、
 ぼくにそれの朗読をさせたんです。
 みんなが聴いているなかで
 ぼくはそれを読みました。
 そして、最後の一文を読み終わったとき、
 クラスの全員が‥‥
 立ち上がって拍手をしてくれました」

おおおーー!
スタンディング・オベーション!
なんかいま、ちょっと感動しました。

「それが、なんていうんでしょうね、
 ぼくの原体験です。書くことの」
nagata

読書感想文のコツ2

2017/08/25 17:57
古賀史健さんによる
読書感想文を書くときのポイント、
いきなりおもしろいです。
もっと教えてください。

「あと、先生の顔色を
 うかがいすぎるのはよくないです。
 それは、違う言い方をすると、
 『その読書感想文の読者は誰なのか?』
 ということです」

おおお、ライター講座みたいになってきた。

「いや、ぼくがライター講座で言うことも
 読書感想文の書き方について言うことも
 ほとんど変わらないです」

つまり、きちんと読書感想文が書ければ、
将来、いい記事が書けるかもしれない?

「そう思います」

なるほどーー。
お話をつづけてください。
その読書感想文の読者は誰なのか。

「はい。その読書感想文の読者が
 担任の先生だとすると、
 やはり『いいこと』を書きたくなります。
 優等生的なうそをついてしまう。
 やはり、うそで固められた文章は、
 どんなに上手でも読んでいておもしろくない。
 仮に、うそをつかずにうまく書けたとしても、
 同じような優等生がいっぱいいる、
 という中のひとりになってしまいます」

なるほど、なるほど。
それでは評価もされないですね。
となると、その読書感想文は、
誰を読者に想定すればいいんでしょう?

「ぼくは、読者を
 『その本を読む前の自分』と考えると
 いいのではないかと思います」

はーーー、なるほど!
「その本を読む前の自分」!

「その本を読む前の自分が
 たとえば『先週のオレ』が
 読書感想文を読んで、
 その本を読みたくなるように書く。
 
 そんなふうに考えると、
 優等生的なうそから
 逃れることができますし、
 自然と自分の視点も生まれます。」

おもしろいです、先生。
nagata

読書感想文のコツ1

2017/08/25 17:43
さっそくですが、
古賀さんは勉強のできる子でしたか?

「決してそうではないですね。
 あの、先生や親がのぞむ『頭のいい子』って、
 算数ができる子だったりするんですよね。
 ぼくは算数が苦手だったので、
 いわゆる先生とか親がいう、
 頭のいい子、勉強のできる子ではなかったですね」

算数以外、たとえば国語は?

「国語はわりと得意でした」

なかでも読書感想文が得意だったとうかがって、
本日の先生役として来ていただいたんですが。

「そうですね。
 読書感想文に関しては、
 書けば何かの賞をもらったり、
 学校新聞に載ったりしてました。
 
 最初の賞ですか?
 小学校1年生です。
 で、2年生以降も、ずっと(笑)」

おお、すごい。
それはやっぱりコツというか、
自分なりのやり方みたいなものが
確立されていたんでしょうか。

「そうですね。あると思います。
 ただ、それは文章のうまいへたではないと思います。
 少なくとも小学生のときの感想文では
 文章の善し悪しはそれほど
 問われないんじゃないかなと。
 
 ポイントはやはり、
 その本に自分を引き寄せて書くこと。
 たとえばエジソンの伝記のなかに
 『エジソンは子どものころ算数が苦手だった。
  1+1がなぜ2になるか納得できなかったのだ」
 というエピソードがあったとすると、
 苦手だったのに努力してすごい、
 というふうにまとめるのではなくて、
 自分が子どものころ納得できなくて、
 親に何度も質問したようなことを書く。

 そうすると、自然に自分の切り取り方ができます。
 読書感想文はほかの勉強と違って、
 正しくてもみんなと同じ答えになっては意味がない。
 みんなと違う視点を持つことが重要です」

なるほど、なるほど。
もう、いきなり興味深いです。
nagata

古賀史健先生です。

2017/08/25 17:29
新しい先生をお招きしました。
古賀史健先生です。

ご存じ、シリーズ通算ダブルミリオンの
大ベストセラー、『嫌われる勇気』
『幸せになる勇気』の共著者にして、
さまざまなヒット作を生みだしている
現代を代表するライターさんです。

その古賀さんに、今日は、
「読書感想文」についてうかがいます。
なんとも贅沢な授業です。
どうぞよろしくお願いします!

「よろしくお願いします。」
okuno

文化人類学で「はたらく」を研究したい。

2017/08/25 16:45
こうしていま、山邊くんは、
筑波大学で、文化人類学を学んでいます。
Facebookなんかで見ていると、
本当に、たのしそうに、勉強しています。

大学の前にはたらいていたことで、
1万円稼ぐことの大変さを知っているし、
そのことから、「時間の大切さ」も、
身にしみてわかっているように思えます。

いまは夏休みですが、
毎日、寮で本と映画ざんまいだそうです。

卒論の研究テーマを決めるのは
これからだと思うけど、
文化人類学で、何を勉強したいんですか?

「はい、ぼくは、はたらくということは、
人間にとってどういうことなのか、
ということを研究したいです。
これは、靴磨き職人をやっていたときに、
いつも思っていたことなんです。
はたらくって、何なのか。
仕事のうれしさって、どこからくるのか」

それを、文化人類学的なアプローチで。

「はい、経済学的に見た場合の労働論、
社会学的な生きがいの話、
いろいんな切り口があると思いますが、
これは、大きな目標なんですが、
そういった既存の枠組みにとらわれない
『はたらく』の研究を、やりたいです。
『はたらく』を、丸ごと、理解したい」

わかりました。ありがとうございます。
研究の展開を、楽しみにしてますね。

今回は、ちょっと「変化球」ですけど
「山邊くんが、大学生として
いま、勉強を楽しんでいる姿」から
なにかヒントをもらえるかなと思って、
ご登場いただきました。

そしたら、佐世保の4人の先生のお話。
こんな話になるとは
お互いに、思ってなかったと思うけど、
とっても、おもしろかったです。

写真は、最近、読んでおもしろかった本。

どっぷり勉強して、研究論文が書けたら、
ぜひ読ませてくださいね。
ぜんぶ理解できるかは、わからないけど、
精いっぱい読ませていただきます。

「はい(笑)、がんばります。
11月、はじめてのフィールドワークを
石垣島でやるんです。
それが、とっても、楽しみなんです!」

ちなみにですが、
じつに余計なお世話ではありますが、
彼女はできましたか。

「‥‥‥なかなか、難しいものがあります」

そうですか。

恋愛というのも、文化人類学のテーマに
なりうるのでしょうか。

「ええ、まさにそんなことを
担当教官の先生に話したら怒られました」

怒られた?

「恋愛を人類学の研究に‥‥だなんて、
けしからん! 
学問に逃げ込むな! 
ちゃんと生活しろ!」って怒られました。

おお、すごい。すばらしい。
「ちゃんと生活しろ」ってつまり、
「ちゃんと恋愛しろ」ってことですよね。

O先生の
「芸術を自己表現の道具に使うな!」
の教えに、どこか、通じる気もしますね。

佐世保の4人の先生がた、ご安心ください。
山邊くん、筑波大学で、
5人目の先生に、出会っているようですよ。
okuno

勝負の学校推薦と、T先生の登場。

2017/08/25 16:40
不合格通知を受けとり、
しばし「真っ白になった」ものの、
気持ちを切り替えて、
1ヶ月後の「学校推薦」の試験に
挑戦しようと決めた山邊くん。

学校は、推薦してくれることに
なったのですが‥‥
大きな問題は「小論文」対策でした。

なにしろ山邊くん、
ふつうの受験勉強をやっていません。
毎日、靴を磨いています。

当然、小論文も書いたことがない。
途方に暮れていると、
ふだんなんだかボーンヤリしていて、
あまり話したこともなかった
古文の先生が
「山邊なら、ぼくが、教えますよ」
と言ってくれたそうなんです。

その人こそ、4人目の先生、T先生。

それまで、何だか眠狂四郎みたいで、
変な人だなあと思っていて、
むしろ近づかないようにしていた
山邊くんでしたが‥‥。

「1ヶ月後の小論文試験を前にして、
途方にくれている僕に、
T先生は、
俺が見てやるから大丈夫だ、って。
じつは先生は、
筑波大学の人文出身だったんです。
『筑波でしょ? 人文でしょ? 
大丈夫、間に合う』って言ってくれた。
じつは先生は、
数年前に大病をわずらって、
毎日の勤務が、
むずかしい健康状態だったのですが、
病気の前は、たくさんの高校生を、
大学へ合格させてきた先生だったんです」

おお、頼りにならなそうで、
むちゃくちゃ頼りになるキャラ登場!
マンガみたい‥‥。

「その日から、
T先生の出してくださる問題に対して、
ぼくが小論文を書き、
それを先生が丁寧に添削してくださる‥‥
という毎日が続きました。
1ヶ月間、毎日です。
先生は、身体のことがあったので、
毎日の勤務が、
難しかったんですけど‥‥。
これが、そのときの、小論文です。
こんなふうに、先生は、
びっしり赤字をいれてくださった」

すごい‥‥なんだか泣けてくる。

「先生のモットーは、
受験勉強とは、質と量の両立である、
ということでした。
質の高い問題を、大量にこなせ、と。
質の部分は俺が担保してやる、
だからお前は、ひたすら量をこなせと」

こうして山邊くんは、
T先生という素晴らしい伴走者を得て、
見事1ヶ月後の小論文試験を乗り越え、
晴れて筑波大学に入学したのです。

みんな、よろこんでくれたでしょうね。

「F先生、O先生、N先生、T先生、
4人の先生をはじめ、
みんな、よろこんでくださいました。
大学の掲示板で合格をたしかめて、
電話で両親に電話して、
受かりました、
ありがとうございましたと言ったら
母は、電話口で、泣いていました」

そうでしょう、それはね。いろいろね。

「でも、こころのなかでは、
ありがとうございます、というより、
これまで
心配をかけてしまって、すみません、
という気持ちでした」
okuno

筑波大学の自己推薦に落ちる。

2017/08/25 16:35
こうしてF先生・O先生・N先生など、
佐世保の大人たちに囲まれながら、
日々、靴を磨きながら、
通信制高校に通っていた山邊くんは、
「テストの学力を問われる一般入試では
合格できない」と思ったそうです。

そこで「自己推薦」という制度を使い、
O先生とN先生に、
推薦状を書いてもらったのですが‥‥。

「文化人類学を学びたくて志望した
筑波大学の自己推薦に、落ちてしまいました。
提出する考査書類に、
これまでの自分の人生のことを、
つらつらと
書いてしまったのですが‥‥
もっと、文化人類学の
研究計画書のようなものが、
求められていたんだと思います」

佐世保の山邊くんの靴磨きのお店には
いろんなお客さんが来るし、
仕事をうまくやっていくには
町の事情だとか人間模様なんかにも
詳しい必要があるだろうし、
あれはあれで、
山邊くんは、靴磨きの椅子に座って
佐世保のフィールドワークやってるんだなと
思ったんですけど‥‥。

「はい、ぼくも、自分の状況が、
まあ、めずらしいことを知っていて、
そのことを書けば‥‥
という甘えがあったんだと思います。
きちっとした
研究計画から逃げてしまったんです。
せっかく推薦状を書いてもらったのに、
あれじゃあ、落ちて当たり前でした」

なるほど。

「このとき、F先生から教わったことを、
痛感したんです。
つまり、ものごとには、やりかたがある。
そのことを、忘れていたんです。
せっかく学んだのに。
靴磨き職人をしていたことは、
ぼくにとって、
本当にプラスになってると思うんですが、
唯一の弊害があるとすれば、
人と違うことこそ、みんな喜んでくれる、
と思いすぎてしまったことです。
受験には、美術部でF先生から教わった
賞レースでの勝ち方や戦い方、
『傾向と対策』こそ、必要だったんです」

合否の発表は封書で、学校に届きました。

同級生も、先生たちも、
山邊くんがきっと受かると思ってたのか、
開封するときに、
まわりに、山のように集まったそうです。

が、結果は、失敗。不合格。

「みんな、音もなく、サササーッ‥‥と、
ぼくから離れていきました(笑)」

じゃあ、それで‥‥どうしたの? 

「落ちたのは、自己推薦の試験。
1ヶ月後に、面接と小論文が試験科目の
学校推薦の試験があったんです」
okuno

喫茶店のマスター、N先生。

2017/08/25 16:30
これは
21世紀の「仕事!」論。靴磨き職人 篇
にも出てくる話ですが、
進学校を辞めて
靴磨きの店をやっていたとき、
山邊くんは通信制の高校に通っていました。

入学以来、勉強しろ、受験に受かれ‥‥と
言われ続ける進学校は、
そもそも
「やれと言われたら、やりたくなくなる」
山邊くんには、合わなかったようです。

そこへ体調の不良が重なり、長期休学。
その後、退学。そういうことでした。

こうして学校を辞めた山邊くんは
靴磨き店をはじめ、
通信制高校に通い出すのですが、
同時に、
もうひとつの「学校」ともいうべき場所に、
通っていたのです。

それが、佐世保市内の、とある喫茶店。

映画や小説などにくわしく、
テレビが大好きで、
ご自身で演劇活動もやっているという
博覧強記のマスターNさんと、
そこに集まってくる大人たちに囲まれ、
山邊くんは、
学校では教わらないことを学んでいきます。

「たとえば、池波正太郎の『剣客商売』が
おもしろかったって言うと、
どんなところが、おもしろかったんだと。
そうですね、文章の歯切れがよくて‥‥
とか何とかゴニョゴニョ言ってると、
それはな、池波正太郎って人は、
もともと劇作家だからセリフで書いてる。
だから歯切れがいいんだ。
その点、
池波正太郎と双璧をなす藤沢周平は‥‥
とか、ぜんぜん知らない話や、
おもしろい作品を、教えてもらいました」

まさに、喫茶店学校のN先生ですね。

「大学でこっちへ来るとき、
お金が足りなくて
部屋にテレビが買えないって言ったら、
なにを貧乏ぶってる、と(笑)。
テレビを見てなかったら
テレビに対する感受性が死ぬぞ、って。
で、テレビを見てないと、
たしかに、そんな感じがするんですよ」

でも、そうやって、ただ単に、
おもしろいものを教えてもらっただけでは
なかったと、山邊くんは言います。

「Nさんに教わったのは
自分の視点を持て、と言うことだったと
思います。
いくら知識があったって、駄目なんだと。
知識なんて、
勉強すればいくらでも仕入れられるし、
自分の視点もないのに、
ウィキペディアみたいな奴になったって
なんにもおもしろくない。
自分の視点を確立し、
それを中心に据えて、
そのまわりに知識を組み合わせることが
大切なんだと。
もっと言えば、知識なんかなくったって、
視点がおもしろけりゃ、そっちのほうがいい。
知識なんて屁でもない、って」

それ、博覧強記のN先生が言うからこそ、
という感じがしますね。

そして画塾のO先生と同様、
N先生も、
筑波大学への進学を応援してくれ、
推薦状を書いてくれたそうです。

が、その推薦入試に、
山邊くんは、落ちてしまうのです。

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