「weeksdays」の、
ことしのゴールデンウィークのスペシャルコンテンツは、
土切敬子さんと伊藤まさこさんの対談です。
取材の帰りに偶然のように訪ね、
ちいさな「琺瑯ライスカップ」を買ったのがきっかけで、
すっかり「だいどこ道具ツチキリ」の
ファンになった伊藤さん。
店主である土切敬子さんに、
お店のこと、暮らしのこと、生活道具のことを
たくさんお聞きしました。
さらには、来し方行く末のことまで、
話題がひろがりましたよ。
全7回、たっぷりおとどけします。

撮影=有賀傑

土切敬子さんのプロフィール

土切敬子 つちきり・けいこ

武蔵野美術大学大学院修了後、
テキスタイルデザイナーとして大手布団メーカーに勤務。
吉祥寺にあった紅茶専門店(メーカー)で
アートディレクターを務めたあと
2017年、自宅の一部を改装し
「だいどこ道具 ツチキリ」を開く。
自分で実際に使ってよかったもの、
気に入ったもののみを取り扱う。
店と続きになっている自宅のキッチンでは
使い方の提案をすることも。
著書に『おしゃべりな台所道具
~話し出すととまらなくなる、道具のおいしい話~』

がある。
「KITCHEN TOOL WONDERLAND 
だいどこ道具ツチキリ ほぼ日支店」
も好評。

だいどこ道具ツチキリ
181-0001 東京都三鷹市井の頭5丁目2-28
OPEN 11:00~18:00(火・水・木 定休)
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03
重さを感じる私たち

伊藤
この対談に土切さんを
お誘いしようと思ったきっかけがあって、
それが「味わい鍋」中尾アルミ製作所の片手鍋
どちらもすごくよくて、
weeksdaysで売りたいって言ったら、
すでに「だいどこ道具ツチキリ ほぼ日支店」
売ってますって言われて。
きっと同じことを考えていらっしゃると思い、
その話ができたらなあと思ったんです。
土切
アルミ鍋も、たとえば京都の名店で打ち出しの行平を、
というのもいいけれど、
そこまでいかなくてもみんなが買えるぐらいのものを
扱いたいなって思うんです。
伊藤
うんうん。そして、わたしはもうとにかく
軽量化なんですよ、今。
土切
軽量化。
伊藤
もう、いろいろなものが、重く感じて。
土切
そうですよね。
伊藤
たっぷり食材の入った鋳鉄琺瑯鍋の重いこと! 
それで今残っているのが
中尾アルミの軽いタイプの片手鍋と「味わい鍋」です。
母からもらった大きいル・クルーゼ(鋳鉄琺瑯鍋)は
たまに煮込みをするとき用にとってありますが、
けっこうそれで回していて。
「これでいいんだ!」って思いました。
うち、鍋、50個ぐらいあったんですよ。
土切
それもすごいですね。
たしかに、伊藤さんの食卓は、
ル・クルーゼのブルーっていうイメージがありました。
伊藤
どうしても思い入れがあって好きなものは、
山の家で薪の焚き付け用の道具を入れたりと、
そういう工夫をしてなるべく
使えるようにはしたいなあと思っていますが、
多くは友人に譲りました。
土切
「味わい鍋」も使ってくださっているんですね。
私の今イチオシの鍋なんですよ。
伊藤さんはどこで出会われたんですか。
伊藤
ニーチェアの取材で
制作・販売を担当なさっている
藤栄(ふじえい)さんのショールームに
伺ったとき、知ったんです。
この大きさ(片手/20cm)です、
わたしが使っているのは。
土切
無水鍋で片手鍋っていうのがいいんですよね。
伊藤
炒め物も少量だったらこれでしちゃうし。
土切
フライパンとして使えますよね。
伊藤
目玉焼きも。
土切
目玉焼きもこれで? 素晴らしい。
伊藤
フライパンより深いから取り出しにくいかな、
と思うと、全然、つるんって食材が滑るから、
目玉焼きも大丈夫なんです。
わたし、ご飯を炊くのも、
もうずっとこれです。3合炊けるんですよ。
土切
えーっ。
伊藤
ちゃんと玄米もカニ穴ができますよ。
以前は土鍋でしたが、
10年ぐらい前に割れちゃったのを機に、
金属の鍋で炊くことにして、
そして今は、これがあれば大丈夫。
土切
今、土鍋が市場に不足しているんですよね。
原材料のペタライトが不足・高騰して作れなくなって。
だからうちでも土鍋の扱いがないんです。
伊藤
もちろん土鍋を使うよさはあるんですが、
土鍋を使わなくなって、
乾かす手間が減ったのはよかったかも。
若い頃はそういう道具を使っている自分も好きだし、
その手間も楽しんでいたんです。
きっと、そこまでの余裕があったんですよね。
今は、軽さを求める気持ちとともに、
楽っていうほうを選びがち。
土切
そう思います。だから私も
「味わい鍋」を選んだんです。
そうはいっても「味わい鍋」って
デザインがいいんですよね。
伊藤
ね、そうなんです。
ちょっと昭和っぽくもあってかわいい。
土切
これ36年前に作られたんですよ。
実は、このデザイン、
私の大学の先生なんです。
伊藤
そうなんですね!
土切
藤栄の担当者さんが遊びに来たときに、
教えてくださった。
島崎信先生とおっしゃるんです。
学校では「島やん」と呼ばれていたので、
「えっ! 島やんなの?!」って。
伊藤
島崎さんのお名前、
ニーチェアの取材の時に伺いました。
土切
ニーチェアも島崎先生が関わっているんですよね。
伊藤
そうなんです。
その島やんからは
土切さんは影響を受けたんですか。
土切
それが、全然影響を受けていないんです。
私はなにしろファインアートに進んでしまったから。
でも、これもご縁ですから、
「この鍋を押さなきゃ!」と思ったんです。
やっぱり「味わい鍋」は最近のヒットですね。
伊藤
今って、セレクトする人の時代っていうか。
なんて言うんだろう、ここに行けば安心、
この人がすすめてくれるんだったら大丈夫、
みたいなところがあって、
そこで台所道具だとツチキリさん、
っていうのが多くの人に
ちゃんと認知されていますよね。
土切
ありがたいことです。
ここに置いてあるものをすでにお持ちのかたも、
よかった、正解だったんだ、とおっしゃることがあって。
いや、正解はわからないですよ、って言うんです。
使いづらくても好きとか、そういうこともあるから。
伊藤
そうなんですよね。
確かに使い勝手ばっかりではない。
土切
たとえば最近の推しが
ドイツ製のエッグカッター。
ゆで玉子をワイヤーで6つに切る道具です。
ウイーンって食材にワイヤーが入っていく、
その感覚がすごく気持ちいいんですよ。
でも輸入ものですごく高い(4,790円)。
ゆで玉子を切るだけに、こんなに高い道具は
必要ないだろうと思って、
1回取り扱いをやめたんですけど、
やっぱりこの気持ちよさを
みんなに知ってもらいたいと思って、
扱っています。そういう商品もあります。
伊藤
今はなるべく道具を減らしたいけれど、
「欲しくなっちゃう」種類のものですよね。
ん? それはなんですか。
土切
これ、骨抜きトングです。
伊藤
三角に穴が空いてるのはなぜ?
土切
穴があるから中が見えて、
目詰まりしないんです。
これ、最初は「鉄の爪」っていう名前で
穴が空いてなかったんですよ。
4回ぐらいリニューアルして、
3回目から穴が空くようになって。
伊藤
なるほど。
(つづきます)
2025-05-04-SUN