「weeksdays」の、
ことしのゴールデンウィークのスペシャルコンテンツは、
土切敬子さんと伊藤まさこさんの対談です。
取材の帰りに偶然のように訪ね、
ちいさな「琺瑯ライスカップ」を買ったのがきっかけで、
すっかり「だいどこ道具ツチキリ」の
ファンになった伊藤さん。
店主である土切敬子さんに、
お店のこと、暮らしのこと、生活道具のことを
たくさんお聞きしました。
さらには、来し方行く末のことまで、
話題がひろがりましたよ。
全7回、たっぷりおとどけします。

撮影=有賀傑

土切敬子さんのプロフィール

土切敬子 つちきり・けいこ

武蔵野美術大学大学院修了後、
テキスタイルデザイナーとして大手布団メーカーに勤務。
吉祥寺にあった紅茶専門店(メーカー)で
アートディレクターを務めたあと
2017年、自宅の一部を改装し
「だいどこ道具 ツチキリ」を開く。
自分で実際に使ってよかったもの、
気に入ったもののみを取り扱う。
店と続きになっている自宅のキッチンでは
使い方の提案をすることも。
著書に『おしゃべりな台所道具
~話し出すととまらなくなる、道具のおいしい話~』

がある。
「KITCHEN TOOL WONDERLAND 
だいどこ道具ツチキリ ほぼ日支店」
も好評。

だいどこ道具ツチキリ
181-0001 東京都三鷹市井の頭5丁目2-28
OPEN 11:00~18:00(火・水・木 定休)
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02
家をお店にすればいいんじゃない?

伊藤
紅茶メーカーに勤務した5年間を経て、
このお店をつくろうと思うに至ったのには、
どんな考えがあったんでしょう。
やっぱりふつふつとお店がやりたいなあって
思われていたんでしょうか
土切
その時、私は55歳で、
この先どうして生きていこうかなあっていうことを
なんとなく考えていたんです。
そして「人に使われるのではなく、自分で何かを」
というふうに思って。
伊藤
あぁ、すごいです!
土切
それで一番リスクのないやり方を考えたら、
自宅でお店、というのなら、できるかな? って。
伊藤
ご自宅を改築すればお店が作れる。
土切
そうです。家賃もかからないし。
伊藤
でもご主人や娘さんの意見は?
土切
まさしく彼らを説得するところからはじまりました。
「1階をお店にしちゃったら、
僕たちのリビングはどうなるんだー!」みたいな。
伊藤
土切さんは、突然お店を作ると言い出したんですか。
土切
突然じゃなかったんですよ。
伊藤
じわじわと?
土切
はい。夫からも、子どもを育ててる頃から、
「あなた何ももうしないの?」みたいなことを
言われていたんですよ。
彼はここが店になっちゃうとは思わないから、
外に出て働くでしょ、っていう感覚だったと思います。
でも、好きな台所道具をつくりたいと思っても、
今から企業に入ったところで、作りたいものは作れない。
だから、作る側からセレクトする側に行こう、と。
伊藤
台所道具に絞ったっていうのは?
土切
やっぱり、昔から好きだったからです。
伊藤
じゃあ例えば気に入っているおたまがないときは
せっせといろんなところに通っては、探して?
土切
まさしくそうです。
伊藤
そして「ここ(自宅)でお店をやる」と
家族に宣言したんですね‥‥。
土切
そうなんです。台所道具を、という前に、
「ここでお店を」が先でしたね。
夫は、近くに高校があるから、
小窓を作っておむすび屋を開けば、
通学で買ってくれるじゃないの、
とか言ってました。
伊藤
それもいいですね。
土切
でもたぶん、私を諦めさせるために
そういうことを言ったのかもしれません。
調べてみたら、その高校は買い食い禁止だから、
成り立たないなって思いましたけれど。
伊藤
「働けば?」とは言ったものの、
家が店になるっていうのは想定外で、
家族としてはすごく驚く出来事ですよね。
土切
そうですよ。いまお店になっている場所は
もともとリビングで、おっきいテレビがあって、
おっきいソファでくつろいでいた場所。
お店に改築したら、
夫はそこでサッカーを見るたのしみが
なくなっちゃうわけです。
伊藤
そうですよねえ。台所は残したと聞きました。
土切
そこはもう、最初から、
もう一番お金をかけて作ったので、
そのまま残しました。
家族の場所だからというよりも、
お店の一部としても活用できるって考えたんですが、
コロナ禍が始まって、それもできなくなって。
でも使っているものの経年変化を
見せることができたりするので、
この台所は役立っています。
最初っからそのことは考えていたんです。
お店で家で使うとどうなるかなと想像するより、
ここに置いてあるのを見れば
「こうなりますよ」ってわかる。
この素材はこういう感じだとか、
大きさは使ってみるとこれくらいだとか、
そういう説明がしやすいから。
伊藤
台所が小上がりになっていて、
お店で迷っている人にも、
ちょっと見てってくださいって
言える距離感ですよね。
土切
そう。あと小上がりは、
近所の人たちもさっと入って来て
ここでお茶飲んでちょっと世間話して、と、
そういうことができるような場所にするつもりで
作ったんですよ。
伊藤
一番最初に仕入れた商品は覚えていらっしゃいますか。
土切
はい。もうそれは、今でも一番人気の、
大根おろし器です。
伊藤
わたしも使ってます!
土切
わぁ、使ってくださってる? 
安いものなんですけど、
「これでじゅうぶん」というものですよね。
伊藤
ほんとに使いやすくて。
土切
世の中にはいろいろな大根おろしの道具があって、
たとえば「ふわっふわにできますよ」とか
さまざまな特徴をうたっているのだけれど、
手軽さ、サイズ感、使い勝手を考えると、
これがいいなって。
伊藤
水の切れ方が、ほどよいんですよね。
土切
そうなんですよ。
ちょっとだけ斜めになってて。
伊藤
え、そうなんですか。
全然気がつかなかった!
土切
力をかけておろしても、滑らないし。
最初に買い付けたのはそれ。
そして、しりしり器です。
伊藤
沖縄料理の、野菜の千切りをする道具。
土切
それはすごく、最初から、
絶対これを入れようって思っていたものでした。
伊藤
大根おろし器にも、しりしり器にも、
わたしはこれがすごい役に立って。
ステンレスの熊手みたいなの。
しょうがをすりおろした時はこれがないと。
土切
あ、それは大事ですよね。
台所に立つ人が
「こういうのが欲しかった」っていうものが
必ず見つかるお店にしたかったんです。
昔から竹製のものはありましたが、折れちゃうんですよね。
その点ステンレスは丈夫で、手入れがしやすい。
伊藤
そうなんです。
伊藤
あとわたし、ツチキリさんで5年前に買って、
今も使っているのが、
この、琺瑯ライスカップ
すりきりで、180ミリリットル、
お米1合が計量できる、琺瑯のカップです。
土切
黒をお求めでしたね。
伊藤
はい。いろんな人気商品があると思いますが、
ロングセラーというとどれでしょう。
土切
ひとり用の目玉焼き土鍋ですね。
ずっと人気があるんです。
伊藤
そうなんですね。
(つづきます)
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