「weeksdays」の、
ことしのゴールデンウィークのスペシャルコンテンツは、
土切敬子さんと伊藤まさこさんの対談です。
取材の帰りに偶然のように訪ね、
ちいさな「琺瑯ライスカップ」を買ったのがきっかけで、
すっかり「だいどこ道具ツチキリ」の
ファンになった伊藤さん。
店主である土切敬子さんに、
お店のこと、暮らしのこと、生活道具のことを
たくさんお聞きしました。
さらには、来し方行く末のことまで、
話題がひろがりましたよ。
全7回、たっぷりおとどけします。

撮影=有賀傑

土切敬子さんのプロフィール

土切敬子 つちきり・けいこ

武蔵野美術大学大学院修了後、
テキスタイルデザイナーとして大手布団メーカーに勤務。
吉祥寺にあった紅茶専門店(メーカー)で
アートディレクターを務めたあと
2017年、自宅の一部を改装し
「だいどこ道具 ツチキリ」を開く。
自分で実際に使ってよかったもの、
気に入ったもののみを取り扱う。
店と続きになっている自宅のキッチンでは
使い方の提案をすることも。
著書に『おしゃべりな台所道具
~話し出すととまらなくなる、道具のおいしい話~』

がある。
「KITCHEN TOOL WONDERLAND 
だいどこ道具ツチキリ ほぼ日支店」
も好評。

だいどこ道具ツチキリ
181-0001 東京都三鷹市井の頭5丁目2-28
OPEN 11:00~18:00(火・水・木 定休)
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07
ひとりの場所がほしいなあ

伊藤
さいごに、台所を見せていただいてもいいですか。
土切
どうぞ、ぞうぞ。
最近全然掃除をしてなかったのに
1週間前に雑誌の取材があって、
ちょっときれいになってるんです。
伊藤
よかった。
これ、これ。この棚の奥行きが絶妙なんですよ。
土切
段によって幅や奥行きを変えているんです。
伊藤
以前『あっちこっち食器棚めぐり』
取材でうかがったときに、とても印象的だったんです。
これはお店に改築する前からずっと?
土切
そうですね。
ここを改築してくれた人が、
薄い棚にするといろいろ入るよと作ってくれたんです。
ちょうどトイレットペーパーが入る奥行きなんですよ。
伊藤
あとシンク下が開いてるのも気持ちいい。
土切
下は何も置きたくないのだけれど、
やっぱりちょっと置いちゃうの。
最低限ですけど、必要なものがあって。
いや、もっと減らせるはずなんですよね! 
まだまだ全然だめ。
伊藤
お鍋、いっぱいありますね~。
土切
どれも使ってるからなんですよね。
伊藤
食材はどこに?
土切
食材はこの奥です。
伊藤
あ、なるほど。
けっこうストックが入るんですね。
そう言えば、わが家には
食器がいっぱいあったんですけど、
いまは半分以下になりました。
たぶんもうすぐ、食器棚を使わず、
台所の収納に全部入るくらいになります。
土切
台所に全部? すごい。
伊藤
以前は食器棚6個分ぐらいあったんですけど。
土切
そりゃそうですよね、プロだから。
伊藤
でも、生活にはそんなにたくさん、いらないなって。
それで知人のフリマに出品させてもらったり、
山の家に運んだりして。
土切
わたしもフリマに出したいものいっぱいあります。
伊藤
え、やりましょうよ! 
こんどお誘いします。
土切
わあ、うれしい。
伊藤
そうやって減らしていっている最中です。
台所の収納は、高いところは手が届かず、
ふだん使わないから、そこにはぎっしり詰めて、
ストックルームのように使うことにしました。
全部、収納するのに、あと一息なんです。
整理するのって、すっごく気持ちいいですよ。
土切
あたらしい器を買った時は‥‥?
伊藤
使わない器は友人にゆずったり、
時にはフリマに出して、一定の量を保つんです。
「いつか捨てるだろう、いつか使うだろう」
ととっておくものがあっても、
その「いつか」っていうのは、
わたしの経験上、来ないんですよね。
土切
うん、その通りですよね。
伊藤
だから、惜しいなと思っても、えいや! って。
「いつか」のために「今」を我慢することはないんだと。
土切
そうですよね。私もそういうものがいっぱいあるなあ。
以前は紅茶の会社だったから、
撮影に使うミルクティーのカップを買って、今も持ってる。
全然使わない大きなカップがいくつもあります。
伊藤
アートを志していた昔の作品はどうされてるんですか。
土切
それも捨てられなくてね、部屋にあるんですよ。
すっごく大きいのに、どうやって入っているのか‥‥。
板張りの布作品は板から剝がして、畳んではあるんですが、
もうどうなってるかわからないくらい。
もう何十年も屋根裏にあるけど、
絶対かびてると思います。
伊藤
捨てられないものが、屋根裏に。
土切
それも奥の方にギューッて。
私、一時期、スヌーピーファンで、集めてたんですよ。
子どもを育てているときに、
ストレスがそっち行っちゃって。
そんなヴィンテージのスヌーピーのグッズが、
いっぱいあるんですよ。
ほんとに困っちゃうの。
伊藤
そういうのは時々見て懐かしんだり?
土切
それが、時々見れるような場所にはないんです。
いちいち箱を開けなきゃならないし。
──
「ある」ということが心の平安に。
土切
そうですよね。
伊藤
あ、そっか。なるほど。
土切
でも、反省しているんです。
それもだめだって。
だって、死んじゃったら、誰が片づけるの? 
って、なるじゃないですか。
だから伊藤さんを見習わなきゃ、
っていつも思うんだけど。
伊藤
いや、もうわたしは極端ですから。
「全部いらなーい!」って、時々、なっちゃうんです。
土切
それがすごい。
伊藤
着物、本、
今は著書のストックもいらないなあと。
それは、誰かの家にあればいい。
土切
この頃は、自分の買い物は減ったんですよ。
ツチキリでいっぱい仕入れるじゃないですか。
そしてお金をたくさん払う。
それで自分の物欲も満足しているのかもしれなくて。
伊藤
わかります! 以前、北欧に買い付けに行ったときに、
販売するためのものをいっぱい買っていると、
「自分はいらないかも」という気持ちになりました。
土切
そうなりますよね。
伊藤
物欲ってなんだろう? 
自分の裁量でお金を使うと、
自分のものにしなくても満足するんだなぁ、と。
あるいは、さしあげたりいただいたりして、
ものが行き来することで、満足をするのかな? とか。
土切
ものが行き来する、その中にいることで
満足できちゃう。
もう自分のものはいらない、
みたいな感じになってきちゃうんでしょうね。
伊藤
土切さんはご自身がこれから変わる予感はしますか。
さらに軽いものを求めるようになるだろう、とか?
土切
どうなんでしょうね、
このあとどっちの方に向かっていくんでしょう。
もっと軽いものとか使いやすいもの、
後始末が簡単なものに行くのかな?
伊藤
あと何個も持っていたアイテムだけど、
これ1個にしました、とか、
そういうものも出て来るかもしれないですよ。
土切
そうですね。そうなんですよね。
お店はお店、でも私は私、となるかもしれないし。
私ね、ここで死にたいかっていうと、
そういうことじゃないんですよ。
伊藤
え、そうなんだ。
土切
このごちゃごちゃした空間でね、
夫は発送作業をし、ベッドがあり発送道具があり、
洋服もありって、「ここでは死にたくないな」って。
だから私、死に場所が欲しいなって思うんです。
実際は病院で死ぬかもしれないけども、
なんかもっとすっきりした場所が欲しい。
伊藤
死ぬためにすっきりさせたいんじゃなくて、
新たに場所が欲しい。
土切
そうなんです。
伊藤
いいじゃないですか! 
もしこの住居兼ショップが広くなっても、
土切さんはものが増えるタイプでしょうから、
別の場所を持つのがいいと思うんです。
土切
そうなんです。だから犬と私で、
ここから歩いて帰れる距離に部屋が欲しくて。
すごく、あったかくて、すっきりした空間。
つまり、寝るための部屋ですね。
伊藤
それ、すっごく興味があります。
土切
じっさいに探してるんです。
そんなに素敵なところは無理かもしれないけど、
もう少しすっきりしたところで
夜だけ過ごしたいと思ったんです。
犬と一緒に帰ってね。夫や娘には
「たまに来てもいいよ」みたいな感じの。
伊藤
あ、すでに!
土切
探した結果、住まいではなく、
新しい店になっちゃったんですけれど。
自分が帰る安らぎの空間を探し始めたのに、
先にお店ができちゃった。
とはいえあたらしいお店のことも考えてはいたから、
あとさきになったと思えばいいんですけど。
伊藤
土切さんは暮らす道具を扱うお仕事で、
仕事が暮らし、暮らしが仕事みたいになってるけれど、
そういう空間があれば、そこから離れられて、
気分転換になるかもしれないですね。
土切
そう思うんですよ。
そして私にとって本当に必要なものが
その空間には集まると思うんですよね。
住んでみないとわからないですけれど。
伊藤
その「本当に必要なもの」のリストが見たい。
土切
マンションのちっちゃい部屋がいいんですが、
改築をしたいから、
それが出来るところを、と考えると、
賃貸じゃ難しいんですよね。
手を入れてもいいところって、
退去時に原状復帰が必要になるから。
伊藤
どこをどう直したいんですか。
土切
まずはキッチンですね。
そしてここにリビングがなくなっちゃったから、
リビング的な空間が欲しいです。
伊藤
そこが完成したら、ぜひ取材をさせてください。
とっても興味があります。
ひとりで住みたいんですよね。
土切
そう! ふふふ。
伊藤
それ大事ですよね。
ひとりの場所がほしいっていう、その気持ち。
土切
考えているだけでも楽しいですよね。
伊藤
引っ越しって、持ち物を見直したりと、
すごくいろんなきっかけになりますし。
土切
うんうん、そうですよね。
伊藤
土切さん、今日はありがとうございました。
とっても楽しかったです。
‥‥それじゃ、お買い物タイム!
土切
あはは、お買い物タイム。
どうぞ、どうぞ。
ありがとうございました。
(おわります)
2025-05-08-THU