伊藤まさこさんと高知を訪ねました。
一泊二日の小さな旅のなかで、
いくつかあった目的のひとつが、
セブンデイズホテルのオーナーである
川上絹子さんのお話を聞くことでした。
セブンデイズホテルは、
料金でいえば、エコノミーホテルとか、
バジェットホテルと呼ばれる価格帯の、
いわゆるビジネスホテルなのですけれど、
なんとも気持ちの良い空気に満ちているんです。
部屋も、コンパクトで、居心地がいい。
国内誌で「世界100選」のホテルに
ビジネスホテルとしては唯一、
選ばれたこともあるほど!
その秘密は、インテリア? スタッフ? 
高知という土地柄? 
それとも、川上さん自身にあるのかな? 
伊藤まさこさんによるインタビューは、
アートのある空間のことからはじまり、
調度品のこと、経営のこと、住まいのこと、
川上さんのこと、これからのホテルの姿へとすすみます。
全7回、おたのしみください。

(写真=有賀 傑)

川上絹子さんのプロフィール

川上絹子 かわかみ・きぬこ

高知市・セブンデイズホテル/
セブンデイズホテルプラス オーナー。

創業50年のガソリンスタンドから
ホテル業へ転身。
創業時から、これまでのビジネスホテルの
「定番」的なあり方を改革、
快適なしつらい、アートのある空間づくり、
あたたかくフレンドリーなサービス、たのしい朝食と、
「まるで自分の部屋のように」くつろげるムードで
人気となっている。

■セブンデイズホテルのウェブサイト

その7
これからのホテル。

伊藤
元気でいても、すこしずつ老いはやって来ると
最近、実感した出来事があって。
母がある日、大きなル・クルーゼの鍋を
「あげるね」と、私に譲ってくれたんです。
それでずっといろいろな料理を作ってきたのに、
なぜ? って訊いたら、「重いから」って。
そうか、って‥‥。
年を重ねることによって、今までいいと思ってたものも、
使うことが難しくなることがある。
ありがたく私が使うことにして、
その代わりに母には
アルミの打ち出しの鍋をあげたんですけど、
そんなふうに、変わってくるんだと思って。
でも、それを悲しむのではなく、
たとえば、杖が必要な年齢になったら、
オシャレな杖が欲しくなるだろうし、
年齢によって欲しいものって変わっていく。
そういうものなんだなと思うと、
まだまだ仕事のやりがいがある!
そんなふうに考えることにしました。
川上
「杖っていうのはこういうものだ」と、
そういう考えで続いてきたものに、
あたらしい感性が入ったら、いいでしょうね。
セブンデイズホテルにも、
バリアフリーの部屋があるんですよ。
伊藤
2階の、広めのお部屋ですよね。
泊まったことがあります。
手すりがしっかりしていました。
川上
ホテルの条例で車椅子の方の対応の部屋を
1室だけはつくることになっているんですね。
それをつくるときに、‥‥もうわかるでしょう?
「じゃあ、いちばんいい部屋にする!」って(笑)。
もちろん限界はありますよ、
本当に普通のビジネスホテルと
同じ総事業費ですから、その中でどうするかって。
セブンデイズホテルを見た業界の方が
「趣味ですか」ってよく仰るんだけど、
「とんでもないです」って。
伊藤
今、Airbnb、民泊が流行っていますよね。
ホテルをつくりたいって気持ちは、
人をもてなしたいっていう気持ちは
みんな持ってるのかなという気がして。
川上
ホテルを経営しているからこそ思うのは、
民泊ができるって、偉いなあ、勇気があるなあと。
こうして、私は、
見た目みたいなことばっかり言いますが、
いちばんはセキュリティ。
そして絶対、法を守る。
いくらそれをきちんとしていると思っても、
どこか抜かりがあるかもしれないという
恐怖というものが常にある。
逆に言うと、常にそういうものを持ちながら
ホテルを運営しないとダメなんだと思うんです。
だから、すごいな、偉いなって思っちゃう。
──
使う側としては便利で面白いので、
海外ではよく使うんです。
すると2種類あって、
本当に自分の住んでいる家や部屋をそのまま貸す人と、
それ用に小っちゃいホテルとして作り込む人がいて、
その作り込む人はIKEAの家具やお皿、カトラリーで
統一している人が多いですね。
デザインがいいし、壊れたり、なくなったりしても、
安価に補充ができるからだと思うんですが。
でも本当に、「昨日まで住んでたでしょう?」という
家を貸してくれる人もいるんです。
そういう人は、なにもかもそのままで、
ほんとうにプライベートな部分は
鍵をかけて仕舞ってあるけれど、
ふだん自分たちが使っているものを、
そのままどうぞ、っていうかたちです。
川上
西洋には、そういう歴史があるんですよね。
もともとのメンタリティが違う。
すごくオープンというか。
伊藤
外国の人って家に行くと、
全部を見せてくれますね。
ハウスツアーと言って、
ここがバスルーム、ここが寝室、って。
川上
けれども、民泊は、
私たちビジネスホテル業界の脅威なんです。
フランスはそれでものすごく
プチホテルが消えていった、
というニュースを見ました。
費用をかけてリノベーションしても
なかなか追いつかないと。
ある意味プロがやったのとは違う、
アマチュアの方ならではの魅力というのが、
きっと、あるんですよね。
伊藤
高知、何度か来ているんですけど、
日曜市に行くと、食材がすばらしくて。
買って調理したいけれど、できなくて。
川上
そう! 日曜市に行くと、
料理がしたくなるんですよね。
伊藤
この高知の豊かさを実感するのって
料理じゃないかなと思うことがあります。
だから、高知に、
キッチンがついてるホテルがあったらいいな。
川上さん、そういうのつくってください!
川上
あら(笑)!
伊藤
それに、今日のお話を聞いて、
川上さんのプロデュースする、
広い部屋があったら、泊まってみたくなりました。
川上
本当に? 実は、考えたことがあるんです。
私たち夫婦は、子どもが巣立って2人なので、
広くてもったいないねって。
だから、セブンデイズホテルのゲストハウスにして、
もちろんキッチンつきで、
みんなつくって食べて、泊まれる部屋がつくれたら
楽しいかもしれないって。
伊藤
そしたら高知に滞在する日数が増える気がする!
日曜市に売っていないもの、
例えば鮮魚だとか精肉だとか、
お酒だとか、きっといいお店がありますよね。
川上
あるんですよ! いくらでもおすすめします。
伊藤
そういうところに行きたいんだけれど、
そうするとセブンデイズホテルに
泊まれなくなっちゃう。
やっぱりここを拠点に、
その体験ができたら最高だと思って。
すみません、わがまま言いました(笑)。
川上
いえ、頭の中に入れておきますよ。
伊藤
川上さん、今日はどうもありがとうございました。
いちどゆっくりお話を伺いたいって思ってたんです。
ますます、ファンになりました。
川上
こちらこそ、ありがとうございました。
また高知にいらしてくださいね。
(おわります)
2019-08-15-THU