古典を学ぶ場「ほぼ日の学校」の学校長の河野通和は、
もともとは編集者、そして大の本好き。
あらゆるジャンルの本を読み尽くしてきました。
その、学校長がコツコツ口説いてきた本屋さん、
この場限りでオープンする本屋さんなど
「おもしろい本屋さん」8店舗が、
2月22日〜24日の3日間だけこの場にあつまります。
しかも、日替わりママの「バー・X」も開店。

このイベントの詳細と、
「おもしろい本屋さん」の1軒ずつを、
これまた本屋好きの作家の
浅生鴨さんとご紹介していきます。
紹介の順番は取材の順番です。

前へ目次ページへ次へ

no.8 十二国記屋

秘密サークルの扉を開ける!

世田谷のミシマ社のお次は、
神楽坂に向かいます。
神楽坂といえば、紀の善ですが。私は。あなたは何?
ペコちゃん焼きかしら。
でもそれらのお店は、坂のふもとにあります。
私達の向かう先は、逆側の新潮社さんです。
鴨さんは、ちょっとまえに新潮社さんとお仕事をし、
『二・二六―HUMAN LOST 人間失格―』
出版しています。
「ぼくは新潮社さんの著者でもあるので
今日は、胸をはっていきます。」
えっへん気味の発言をする作家・浅生鴨でありました。

今回のお店は「十二国記屋」です。
「十二国記」といわれてもという方も
いらっしゃるでしょう。

鴨さん、ちょっといいですか?
そこのでっかいポスターの前に来てポーズを。

どでかいポスターが貼ってありました。どんなプリンターで出すんだろう‥‥。見てみたい。どでかいポスターが貼ってありました。どんなプリンターで出すんだろう‥‥。見てみたい。

こちらのポスターの絵、
去年の夏頃から目にしていませんか?
書店にも、地下通路の柱にも、彼はいました。
いまも、います。
先日お伺いした、根津の往来堂書店の店頭にも
ポスターが貼ってありました。

ほら、鴨さんのあの後ろにある、あれは「十二国記」だ。ほら、鴨さんのあの後ろにある、あれは「十二国記」だ。

こちらが、「十二国記(じゅうにこくき)」の
最新刊のポスターです。
小野不由美さんが1991年から書き続けている
ファンタジー小説のシリーズで、
新作が発売される前までで11冊、
そして、2019年の10月〜11月に18年ぶりに
新作4冊が発売されました。

「学校チーム」にもこの18年ぶりの新作を、
待ちに待っていたという人物がいました。
ワクシマです。
ちょっと話を聞くと、
「もう、出ないかとおもってたから、
本当にうれしくて」とか
「新刊を読む前にちょっとだけ、
と思って既刊を手にとったら、
面白くて止まらなくて、
結局全巻通読してしまった」とか、
いろいろなことが口からほとばしります。

そして、にわかにファンになったのが、草生。
長年小説の存在は知っていたけど、
「私にはあわないな」とおもって
読まずにいたそうなのですが、
さすがに「18年ぶり」と聞いて手をのばしてみたら、
おもしろくて、どんどん読み進んで、
結局、あっというまに全巻読破してしまったとか。

折しも、発売日に近いころに、
今回のイベントの企画がたちあがりましたので、
学校長&草生の古巣でもある、
新潮社さんにご相談をさせてもらって、
「十二国記屋」が実現したという具合です。

さて、鴨さん、いきましょう。
今日は、打ち合わせではなく取材です。

===========
「十二国記」について、
新潮社の鈴木さんにお話をお伺いしにいきました。
===========

この度は、ありがとうございます!
鈴木
こちらこそ。
お読みになりました?
はい。全巻ではないのですが、読みました。
実は、僕はこの新作がでるまで、
「十二国記」はほとんど存じ上げなかったんです。
去年、新作が発売されるときに、
書店がわーっと盛り上がっていて、
なにごとかと思ったんです。
だって、ポスターもたくさん貼ってあるし、
POPの数も尋常じゃなかったですから。
それで、仲良しの本屋さんにきいて、
まずこれをよむべき、というところから読み始めました。

ずらああああああ。全巻が収まりませんでした。すみません。 ずらああああああ。全巻が収まりませんでした。すみません。

鈴木
新作ではなく、ですよね。
はい。
鈴木
よかった。
なぜ「よかった」のかは、
詳しくはあとでご説明しますね。
ご興味はもたれましたか?
はい。もちろんです。
それにしても、この本のシリーズを
自分が長く知らなかったことに驚きました。
18年間熱狂的に待っていたという人たちがこんなにいて、
この世界をたのしんでいたのかと!
なんだか、秘密のサークルの蓋をあけて
覗いてしまった気分になりました。
鈴木
なるほど、なるほど。
実は、このシリーズは1991年の『魔性の子』は
新潮社から出版されましたが、
1992年『月の影 影の海』からは
講談社さんの比較的若い女性をターゲットにしたレーベルとして
出版されていたんです。
その後、2012年からは全作が新潮文庫<完全版>となった経緯があります。
比較的若い女性をターゲットにしたシリーズから
出版されていたんです。
僕、いま何歳だ?
そうか、1991年に最初の本が出ているから、
そのとき僕は大学生か。
当時から本を読むほうだったのですが、
ちょっと、そういうジャンルからは
遠かったんでしょうね。
でも、いまおじさんの僕が読んでも
おもしろかったんですよ!

鈴木
そういえば、おじさんと言いますとね、
『図南の翼』が出たときに、
評論家の北上次郎さんが『週刊現代』さんで
書評を書いてくださったんです。
というのも、当時シリーズが出ていた講談社の方から、
「ちょっとおもしろいから」といわれ手にしてくださり
読んでみたら、あまりにもおもしろくて
当時の既刊本も次々に読破していかれたそうなんです。
それで、どうしてもこの本について書いて、
紹介がしたいということで、
ご自身で書ける雑誌をさがしてくださって
書評が実現したと聞いています。
ご存知のように、『週刊現代』という雑誌は、
ファンタジーとは縁遠い読者さんがおられるところでして‥‥。
そうですよね。
おじさんたちがたくさん読んでいる雑誌だ。
鈴木
でも、その書評が世に出てから、おじさまのみならず、
多くの世代に広がっていった感じがあります。
おじさんたちが、異世界に吸い込まれていく(笑)。
まさに「十二国記」!
僕もそうですけれど。
鈴木
本当ですね。
他のメディアの取材でも、
どうして「十二国記」は、いろいろな世代、性別をこえて
たのしんでくださる方がいるんでしょうか?
と聞かれることが多くあります。
そのときに、こういうふうにお答えしているんですよ。
たとえば、主人公が17歳の女の子で、
今の自分からかけ離れたキャラクターだったとしても、
その彼女が持っている悩みや葛藤かもしれないし、
主人公をとりまく人物の誰かもしれないですが、
物語のどこかに自分と共通する部分があって、
思いを重ねて読むことが
できるからじゃないでしょうか、と。

書店さんが自主的に作ってくれたというチラシなども
みせていただきました。書店員さんたちの情熱もすごかったんだそうです。 書店さんが自主的に作ってくれたというチラシなども みせていただきました。書店員さんたちの情熱もすごかったんだそうです。

ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、
登場人物が全員、困っていますよね。
鈴木
そうなんです。たいがい困っている。
困っているけど、あきらめない人たちが出てきます。
あきらめないということを健気だともおもわずに、
当たり前に向きあっている人たちです。
この物語には、スーパーマンが出てきて
物事を解決してくれるわけでも無いですし、
主人公が天下をとって、
それがゴールというわけでもありません。
ある意味、僕らそのものですよね。
この本は、たまたまファンタジーという
枠組みの中にあるけれど、
本当はいつも読んでいる物語と同じです。
ファンタジーに慣れていない人の
入口になるとおもしろいですよね。
最初の先入観なく最初の一口を食べたら、
あとはもうノンストップでおもしろく読んでいける。
鈴木
そうなんです。
だれでも楽しめる小説だと思っています。
だからこそ、「十二国記」の世界に
すっと入っていっていただきたいんですが、
そのためには、読む順番があるんです。
浅生さんが最初にお読みになったという『月の影 影の海』2冊、
ぜひ、ここからお読みになっていただきたいんです。
こちらに、物語の世界観、その世界の仕組みなどが
よく説明されているんです。
すこし解説をしますと、
「十二国記」は去年新刊がでるまでに、
11冊のシリーズが刊行されていました。
そこに、18年ぶりの新作の4冊が続きます。
いきなり書店さんで話題になっているからといって
新作をお手にとられても、
すでに長い長いお話があって、
しかも新刊の物語の直前にあたる作品で、
お話が途切れておわっていますので、
なかなか物語の中に入っていくのは難しいかと思います。

これが1991年刊行の1冊目だが、最初に読むのはこれでもない! これが1991年刊行の1冊目だが、最初に読むのはこれでもない!

ああ、よかった。
僕の読み方、あってますね!
書店員さんにおしえてもらておいてよかった。
鈴木
そうですね。
今回PARCOでも、ほぼ日のワクシマさんと草生さんの
どちらが必ずお店で店員さんになってくださるということで、
その道筋をご紹介いただけますから安心しています。

読み方をあらためておしえてもらっている鴨さん。 読み方をあらためておしえてもらっている鴨さん。

その他にも、なにか困っていることはありませんか?
と、お客さんにお聞きして、
「それだったら、この巻!」という
おすすめもできそうですね。
なにせ、主人公が困っていますから。
鈴木
草生さんも、それぞれの方に合った作品を
オススメすることを考えているみたいでしたよ。
いいですね。
あ! そうだ。
カバー画の複製原画の販売もしてくださると
お聞きしています。
鈴木
はい。ご覧になりますか?
こちら、ジークレーと申しまして、
山田章博さんの原画を忠実に複製したものです。
もう一つが、キャンバスアートです。
こちらはもっと手に取りやすい価格で、
カジュアルにおたのしみいただく感じです。

これが、ジークレー。額装をしての販売となります。 これが、ジークレー。額装をしての販売となります。

すごい迫力だ。
鈴木
グッズもすこし取り扱いをしてくださるそうで、
このイベントで先行発売する商品もあります。
なるほど。そちらの詳細は、
当日のおたのしみということにしておきますね。
今日はどうもありがとうございました!
読み進まなくては、ですね。
鈴木
「十二国記」の世界をたのしんでくださいね。
ありがとうございました。

情報量にぼーっとしてきていませんでしょうか? 情報量にぼーっとしてきていませんでしょうか?

そのあと、鴨さんは、
新潮社の担当編集者さんと話し込んでおられました。
それにしても、新潮社の会議室って、素敵だ!
なんか調印したくなりそうな部屋でした。
それにしても、一回はまったら、
15冊分の世界がまっているということですよね‥‥。
それは、だいぶすごい!

では、次が最後、
われらが「河野書店」です。

(つづく。次回は「河野書店」。取材はフジーの机後ろで!)

2020-02-14-FRI

前へ目次ページへ次へ