もくじ
第0回おしゃべりの前に 2016-06-28-Tue
第1回配慮か衝動か 2016-06-28-Tue
第2回当事者の憂鬱 2016-06-28-Tue
第3回平等と寛容 2016-06-28-Tue
第4回関心の半径 2016-06-28-Tue
第5回後悔との再会 2016-06-28-Tue
第6回善意の摩擦 2016-06-28-Tue

熊本県出身。
市場調査会社でリサーチャーや営業を経験したあと、広告代理店でマーケティング、プロモーションをおこなう。その後スタートアップインキュベーターにてアクセラレーターをつとめ、現在はロボットベンチャーでPRやマーケティングなどを担当。

ふるさとを遠く離れて ー私たちの長い週末ー

第3回 平等と寛容

10代の時間を共有し、
ふるさと熊本から離れて暮らす同級生のダイアローグ。
2人目のお相手は、僧侶の本多清寛くん。
今は東京にいますが、将来は熊本に戻り、
実家のお寺を継ぐ予定です。

むらかみ
1か月ぶりだね。お時間もらってありがとう。
本多
熊本であったことをまとめたいと思っていたから、
ちょうどいいタイミングだったよ。
むらかみ
2か月経って、熊本のニュースも少なくなったね。
本多
そうだね。でも、もう少ししたら夏休みだから、
ボランティアとかで話題になるかなと思っているけど。


法話中の本多くん

むらかみ
ご実家はもう落ち着いた?
本多
幸い、被害も大きくなかったからね。お寺の方は本堂が
壊れたり、ご位牌やお墓が倒れたりしたけど。
むらかみ
ゴールデンウィークが終わるまで、
3週間ぐらい熊本にいたんだよね。
それに空港が復旧してからすぐに熊本に戻ったでしょう?
ご家族の反対はなかった?
本多
自身の時は子供が1歳半と2か月だったからね。
一応、奥さんから
「危ないよー」
とは言われたけど、
自分は決めたことは何言ってもやるってわかってるから。
地震と関係なく、自分の家庭は万一の備えもしているし、
今は奥さんの家族と同居しているから、その点も安心。
むらかみ
そうなんだ。
本ちゃんの前に、志水(※)に話を聞いたんだけど。
考え方が真逆で興味深かった。彼は、混乱している中で
熊本には帰るべきじゃないって意見だから。
(※:第1回・2回でお話を聞きました)
本多
そうだね。自分が帰る時にもそういう趣旨の
コメントをもらったから、
志水がどう感じているかはわかってたつもり。
「今帰ってもできること無いんじゃないの?」
という考えね。
むらかみ
うん。
たとえば医療や救助とか、
具体的に被災地で動けるプロじゃなければ、
現地入りは控えるべきという意見についてどう思う?
本多
自分の場合は具体的にやれることがあるから帰ったかな。
お坊さん同士のネットワークがあって、
福岡の寺に物資を集めて、運んでとか。
熊本に着いたらどう配ってまわるかもわかっていたし。
あと、一番は東日本大震災についての経験かな。
それが活かせると思ったし、逆に東北に行ってなければ、
熊本帰るのはもっと迷ったかなあ。
むらかみ
そうなの?
本多
実家とか友達のことだけを考えれば、被害の状況として
帰らなくても大丈夫かなという判断をした気がする。
むらかみ
東北ではどんなボランティアをしていたの?
本多
3月11日は永平寺での修行が終わって熊本にいたから、
被災直後を体験することはなかったんだよね。
その年の4月から東京に出て来て。
仮設住宅をまわって、傾聴っていう、被災者の方のお話を
聞いたりする活動とかを何度かやらせてもらったり。
今回、被災地に入ったタイミングは違うけど、
あの時の経験が背中を押したというか、
なかったら熊本には行けなかったと思う。
むらかみ
東北で経験したことがあったから、熊本に戻って、
こういうことをやりたい、というのが明確だった?


お寺にも被害が。位牌を整理

本多
うーん、やりたい、とは違うかな。
やれると思ったことをやる、というスタンスだね。
炊き出しとか、何かしらお手伝いとか。
私設避難所っていう、正式には避難所じゃないけど、
人が集まっている場所があるの。
実質的に避難所の役割を担っているんだけど、
公式に避難所として登録されてないから、自治体の
支援対象に入らずに物資が届かなかったりするの。
そういうところにバイクで回って、物資を届けるとか。
とはいえ、かなり余ったんだけどね。
むらかみ
余ったの?地震から数日しか経ってないのに?
本多
そう。 正確には物資が無くて困っている人はいるんだけど
そういう人は避難所に来れない事情があったりして。
物資が余っている、という状況と、
なくて困っている人がいるという状況が両立しちゃう。
避難所に来れる人の分は足りているから、
余って見えちゃうということなんだけどね。
むらかみ
特定の避難所に物資が集中したってニュースもあったね。
本多
その問題もあるね。
目に見える範囲に困っている人がいないと、
足りてるということになっちゃうんだよね。
むらかみ
物資については足りる足りない以外にも議論があるよね。
地震が起きる前から、暮らしが大変な人もいるでしょう?
本多
いるね。うん。
むらかみ
物資を貰いに行ったら、
「もうお店営業しているんだから、買えばいいのに」
って言われて傷ついたっていう話を聞いて、
違和感を感じたの。
震災がなかったとしても食べ物や日用品は必要でしょ。
それを支援して欲しいって過剰な気がして。
本多
そうだね。家が崩れて財産を失ったような人と、
元からギリギリの生活をしている人へのサポートは
分けて考えるべきだね。
ただ個人的には、2、3週間ぐらいは、
「足りてるじゃん」
って言わなくてもいいんじゃないかな、と思ってる。
むらかみ
欲しい人がいて、物資があればあげると。
本多
そうだね。それがよかったか悪かったかは、
充分あげたあとの議論でいいかなと。
足りてるからいいでしょ、ではなくて、
欲しいと思っている人にはあげる。
むらかみ
なるほど。


配達する支援物資

本多
地域や人によっても事情はまったく違うから、
足りている人とそうでない人を外から判断できないという
難しさもあるしね。
益城は入った?
むらかみ
行ってない。かなりひどいんでしょう?
本多
被害はひどかったね。別世界。
むらかみ
うちは益城に墓があるけど、写真を見たら
積み木が崩れたみたいになってた。
本多
元からの経済状況とか、家族構成でも、
被災した時の大変さって違うと思うんだよ。
だからベストな支援も変わって当然で。
自分がボランティアをしたエリアは比較的、
落ち着いていたから、
一番難しいな、と感じたのは、
与え過ぎとか貰い過ぎとかではなく、
物資をあげたくてもあげられなかったことなんだよね。
むらかみ
配る量がないからではなくて?
本多
そう。たとえば1週間分の食料をあげようとすると、
「これで足りるからいいです」
って言われたりするの。
絶対に数日後には困ることがわかってるけど、
いいですって言われたらあげられない。
それは行政では顕著に出ていて、
「欲しいです」
って申し出がないとあげられないんだよね。
避難所に物資が余っているのに足りないという人がいる、
というのも根っこはそこだと思うんだよね。
届けることができないから、だぶつくという。
自分がやったみたいに、民間の組織が動く必要性は
そこにあるかなと思う。
むらかみ
でも、拒否されると困っちゃうよね。
本多
今々を考えれば確かに足りているんだよ、
今夜のごはんとか、明日のお水とか。
でもこちらは避難が長期化することを想定して、
一週間分貰っておいてよ、と思うんだよね。
だけど、押し付けることはできないし。
この人がすぐにまた困ることがわかっているのに
助けられない、みたいな歯がゆさはあったよね。
むらかみ
それは遠慮しているのかな?
本多
遠慮が大きいのかなあ。
「他の人にまわしてください」
というのはよく言われたかな。
むらかみ
なんだか、自己主張する人が得するというのも
もやもやするけど。
本多
だから、欲しい人がいる限り与えるっていうのは、
一番平等かなと思うんだよね。
もちろんそのためにも、声をあげやすくしたり、
拾ってあげる仕組みや工夫が同時に必要だけどね。

(つづきます)

第4回 関心の半径