もくじ
第0回おしゃべりの前に 2016-06-28-Tue
第1回配慮か衝動か 2016-06-28-Tue
第2回当事者の憂鬱 2016-06-28-Tue
第3回平等と寛容 2016-06-28-Tue
第4回関心の半径 2016-06-28-Tue
第5回後悔との再会 2016-06-28-Tue
第6回善意の摩擦 2016-06-28-Tue

熊本県出身。
市場調査会社でリサーチャーや営業を経験したあと、広告代理店でマーケティング、プロモーションをおこなう。その後スタートアップインキュベーターにてアクセラレーターをつとめ、現在はロボットベンチャーでPRやマーケティングなどを担当。

ふるさとを遠く離れて ー私たちの長い週末ー

第2回 当事者の憂鬱

ふるさとを離れ、東京に自分の軸がある私たちは、
地震の当事者にも傍観者にもなりにくい。
そんな気持ちを志水くんと共有します。

むらかみ
最初に地震が起こったあと、東京でニュースを見ていて、
そわそわしたんだよね。
心配よりも、これからどうなるんだろうという不安が
大きかった気がする。
私、東日本大震災のとき何もしなかったんだよね。
できないというより、しなかったかな。
だから、そんな私をみんなが心配してくれるのが
申し訳ないなと思って、居心地悪かったなあ。
ありがたいんだけど。
人間一人では生きていけないってわかったけど、
改めて、負荷をかける立場になるって肩身狭いなと。
志水
そうか。地震の後の週末は、俺は地元で手助けできないから
義務感みたいなものが出てきて。
さっきも言ったけど、SNSとかで情報拡散したり。
焦ってたのもあるけど、振り返ってみると、
混乱させてしまったかなって反省もあるかな。
現地にいる側としてどうだった?
そういえばtwitterとかで情報を集めるより足で稼いだ方が
いいって言ってたよね。
むらかみ
そうなの。
同じ情報が何度も流れてくるとか、少しズレてるな、
というのは、受け流せばいいからまだいいんだけど。
たとえば、ここにお水がありましたとか、どこどこの
お店が営業してますって言うでしょう?
でも、そこには物資が無限にあるわけじゃないんだよね。
志水
人が殺到したら、無くなってしまうよね。
志水
そう。無くなるの。
貴重なガソリン使って、渋滞の中を辿り着いて、
体も心も疲れているところに、
欲しい物が無かったらがっかりするなって。
情報は嘘じゃなくても、嘘になっちゃうことがあるから、
ちゃんと扱わないといけないって思った。


あちこちに降り注ぐ瓦礫

志水
よかれと思ってやっているから余計に難しいね。
むらかみ
それに地域によっても、家族単位でも、
被害が全く違うわけなんだよ。
そうなると、欲しい物も情報も変わるし。
うちはプロパンガスだったからガスは使えたし、
停電もしなくて。
水だけは丸一日止まってすごく不便だったけど。
インフラが全部ダメになったり、
家に住めなくなったり、怪我した友達もたくさんいて。
志水
被害は本当に違うよね。
俺もニュースを見て覚悟していた分、
想像していた最悪の状況まではなかったなという感想。
でも大丈夫じゃないところもたくさんあるんだよね。
家が半壊した友達から写真を見せてもらったけど、
ひどいな、こんなになっちゃうんだって。
むらかみ
私も家の周りを歩いたんだけど、パッと見、不思議なほど
普段と変わらないんだよね。
ちゃんと見たらブロック塀が倒れたりガラスが割れたり、
壁が崩れているんだけど。
そのせいでテレビで見る景色にすごく違和感があったの。
益城の方は本当にひどいみたいなんだけど、
数キロの距離でこんなに違うんだなって。
志水
地震の直後は特に、
会う人会う人、
「ご両親大丈夫だった?」
からはじまるんだよね。
心配してくれるのはありがたいんだけど、
同時に、「熊本代表」みたいに扱われるのも、
少し居心地が悪いんだよね。
むらかみ
その地域の代表者みたいに扱われるんだよね(笑)
志水
そう! それはある。
むらかみ
それって、温度差があるんだよね。私と、世界の(笑)
志水
そうそう。俺そこまで背負い込めないなーって思った。
それに、熊本のことを知っている前提で聞いてこない?
むらかみ
わかる。
志水
毎日熊本自身のニュース記事チェックしてるんでしょう?
っていう勢いなんだけど、いやー、そこまではって。
熊本城の様子どうですかって聞かれてもねえ、
いやーわからないですね、って。


熊本城の長塀も傾く

むらかみ
どうでもいいわけじゃないのに、答え方次第で
地元に関心がない人みたいになっちゃうよね。
みんなに「大丈夫だった?」って聞かれたでしょう?
ありがたいけど、自分の被害について、
言ってもどうしようもないと思ってしまう。
あまりに個別的というか、小さい話になっちゃうから。
志水
何かできないですか、って聞かれたら、
熊本に募金してください、って言うことにしてる。
むらかみ
ついでに、私、すぐに帰ったでしょう?
そのせいで、
「すごいね」
って言われることもあるの。
元々実家に頻繁に帰っているわけでもないし。
大丈夫だってわかっていたから、突き詰めると、気が向いただけなんだよね。それに金曜日だった、っていうだけ。
志水
すごいなって思う気持ちはわかるな、でもみんなが感じる「すごい」が、その行動を起こした動機じゃないんだね。
むらかみ
そうなの。はっきり言うと、駆けつけるって一番簡単で、
わかりやすいことだよね。
簡単なのに地元のためにやってる感がすごくある。
そこに居心地の悪さを感じる。
私何もすごいことしてないし。被災してるし。
周りの人から怒られたし。
自分の気持ちについて、アウトプットを見て定型的な
評価をされるのが、ちょっと居心地わるいなって。
志水
相手の想像しているテンションと
自分の気持ちが違うってあるよね。
むらかみ
ただ、現地にいたから感じたこともあって。
個人的にね、ああいう状況で、地震から1日2日で、
「野菜が食べたい」
とか、違うかなっていたの。
志水
そうだね、極論を言えば数日食べなくても死なないしね。
むらかみ
私もそういう考えだった。
でも2日目かな。日曜日の夕方ぐらい。
私たちぐらいの女の人と、お母さんか、おばあちゃんか。
60歳ぐらいの人が、お箸がないことをすごく怒ってたの。
怒り狂うって言うよりは、
「お箸ないんですか」
って繰り返す感じで。
店員さんも疲れていてさ。
「在庫がなくなってしまったので」
って、言外に、状況を考えろって言っているでしょう。
なのに、おばさんは
「フォークもないの?」
って。そうしたら一緒に娘が怒って、
「こんな状況でお箸とか言ってどうするの、
 ごはん買えたんだからいいでしょ」
って。
だけど、おばさんはぼうっとしてて、
「でもお箸がないの」
って何度もつぶやいて帰ろうとしないの。
最後は引っ張って連れて行かれたんだけど。
両方気持ちがわかるなって思っちゃったんだよね。
私もしょうもないことでイライラしたし、
親もイライラして喧嘩したもん。
志水
些細な事が癇に障っちゃうのかな。
いつもできることができないからなのかな。
むらかみ
みんな条件は同じでしょう?
冷静に考えればわかるはずなの。
「そんな状態じゃない」
って。でも、AだからB、みたいな割り切りには
心ができないのかなって。
あのとき地震の狂気を一番感じたかもしれない。
お箸がないことが、これは日常じゃないってストレスに
繋がるのかなって。
日常と違うことがもうストレスなんだね。
箸がないから困るんじゃなくて、箸がない、日常と違う、
それだけでストレスなんだ、これが積み重なったら
どうなるんだろうって。


3世代で通ったスーパーも倒壊

志水
最初の数日しのげれば、物資もインフラも回復していくと
思っているけど、現地にいたら簡単に割切れないかもね。
自分はもう熊本に住んでいないから、外にいる側として、
これからどう関わっていくか選択肢はあるけど、
現地と自分の状況を見ながら決めていくことになるかな。
むらかみ
その時どうするかも迷うけど、その後も何ができるか、
すべきかはもっと難しい問題だと思う。
自分で考えて判断しなきゃいね。

またお話しできればいいなと思います。
ありがとうございました。

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第3回 平等と寛容