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ほぼ日手帳

糸井重里

・ポテチって、だいたい、最初は、食べようかなと思っても
 「いや、いまはやめておこう」と一回見送る。
 そして、すぐに「いや、ちょっとだけ食べよう」と、
 ふくろを小さめに開いて、6分の1くらい出す。
 そのとき、ほんの一枚だけついでに食べる。
 「うまいじゃないか!」と、閉ざしていた心がひらく。
 もちろん、ふくろのほうは何度も折り曲げて、
 クリップのようなものでしっかり止める。
 主観的には(しばらくの間湿気ることないよう)密封する。
 お試し程度に器に入れたポテチを、一枚また一枚と食べる。
 「最初のうまさが持続している!」と感動している。
 次の一枚も、その次の一枚も、うまいままである。
 こんなはずじゃなかった、おい、もうなくなっちゃうぞ。
 「しょうがないな」と、密封したはずのふくろを開いて、
 残りの半分くらいを出すことにする。
 もう、これ以上は食べないので、再度密封するのだが、
 ふくろの中はもう最初の半分以下になっている。
 心を決めて外に出した分はさっさと食べよう。
 ぜんぜん飽きてない、まだ、ずっとうまい。
 これも、しだいに減っていって、やがてなくなってしまう。
 「ポテトチップって、うまいものだよなぁ」と、
 いまさらなにをというような感想を独り言う。
 もう、ここまで来たら、という気持ちになりかけている。
 ‥‥少し、休む。
 いつまでも、しみしみとこんなことを繰り返すのか? 
 未練がましいというか、ケチ臭いというか、
 あまりにも小物であるじぶんに嫌気がさしてくる。
 俺も男だマドロスだ、自らを鼓舞する。
 再々度、密封したつもりのふくろを開いて、
 なんだこのやろうとばかりに、半分ではなく! 
 「ぜんぶ出してやれ!ざまぁみやがれ」と雄叫びをあげる。
 もちろん、それは無音の雄叫びではある、静かである。
 ふくろは空っぽになり、ゴミ箱に捨てられる。
 クリップは引き出しにもどされる。
 なにもなかったような気さえしてくる。
 すべてのポテチは、我が口に入り、噛まれ、胃に下る。
 「また、こういうことになってしまったのか‥‥」と思う。
 いっそ文章に残して他人に読ませてやれ、と思い、記す。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
わたしは、じぶんを叱ることも笑うこともなく、天井を見る。

昨日のコラムを読み逃した方はこちら。

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