──

若木さんとつくったカレンダーの月の数字、
版画の時点でも素敵だったんですが、
ぼくは、
こうして実物のカレンダーになってからが、
さらにいいなあと思いました。

若木

わあ、本当ですか。

▲ほぼ日ホワイトボードカレンダー/フルサイズ

▲ほぼ日ホワイトボードカレンダー/ミディアム

▲ほぼ日ホワイトボードカレンダー/ファイルポケット付き

──

外に出たくなるようなカレンダーだなって、
思いましたし。

若木

うれしいなぁ。ありがとうございます。

ほぼ日さん的に、わたしのような
キワモノにお願いすることへの恐れは
なかったんですか。

──

岡本太郎美術館で作品を見た瞬間には、
キワモノとはわからなかったので。

若木

あと、圧倒的に無名じゃないですか。

──

ぼくは美術については素人ですから、
版画界では当然有名だけど、
単に知らないだけだろうなと思ってました。

でも、それ以上に、
出会いのドキドキがやっぱり重要ですしね。
若木さんの版画の作品、
見たらみんなが好きになると思ったんです。

若木

うれしいです。

──

数字を彫ってみて、どうでしたか。

これまでは、難しかったという人もいれば、
楽しかったという人もいて、
作家さんによって、それぞれなんですけど。

若木

わたしは、楽しかったです。

そもそもかたちが決まっているものなので、
「どう遊ぼう？」って考えるのが。
あと、こうしてお願いしていただいて、
わたしは絵を描くことが好きなんだなって、
あらためてわかりましたし。

──

なるほど。

若木

それに、わたし木版を信頼しているんです。

──

信頼？

若木

「木版にすりゃあ、よくなる」ってことが、
もうわかってるから。

──

おおお‥‥素敵だ。

ご自身のやってらっしゃる技法のことを、
そんなふうにいえるのって、素敵だなあ。

若木

やっぱり版画というものも、
技法によって、だいぶ表情がちがうので。

何て言ったらいいのかな、
木版って、
アホっぽいじゃないですか、正直（笑）。

──

わはは、なんてことを（笑）。

もちろん、褒め言葉なわけですけれども、
でも、なんとなくわかります。
素朴な感じっていうか。

若木

そう、のびのびしてるっていうのかな。

その点、銅版なんかは
金属をひっかいて傷をつけるぶん……
わたしの個人的な考えですけど、
けっこう「痛み」とか「内省」とか、
シリアスな表現に向いている気がする。

──

そう言われてみれば、たしかに。

若木

一方で木版は、もともとの木目もあるし、
「自然の力をお借りしてやってます」
みたいなところが、
他の技法よりも強く出るように思ってて。

そういうところが好きだし、
わたしに合ってるのかなあとも思います。
なんかいま、
版画が、どんどん楽しくなってるんです。

──

すばらしい。

後頭部人面長距離マラソンを10年以上、
それから版画だから、
言うなれば、
新しくはじめたことなわけですもんね。

若木

そうなんですよ。ワクワクしてます。

──

ってことは夢もあるんでしょうし。

若木

夢？

──

目標っていうのか。やりたいこと。

若木

すぐに飽きちゃうたちなので、
飽きないための一手として、
「富嶽三百六十景」というアイディアを
いま、あたためているんです。

世界各国の山、
三百六十景をシリーズ化したいなあって。

──

すごい。北斎の10倍だ。

若木

それなら生涯をかけて取り組めますから。
マラソンが得意だったのは、
たぶん「ゴールがあるから」なんです。

──

なるほど。はるか彼方のゴールがね。

若木

飽きないための、いや飽きないというか、
やめないためのプロジェクトを
ひとつ持っていたいなと思っています。

すぐ新しいアイディアに引っ張られるし、
「アイディアが出ないとつくれない」
みたいになっちゃうので、
「三百六十景」構想を１本持っといたら。

──

いいじゃないですか。楽しみにしてます。

ホワイトボードカレンダーとか、
そのときどきで新しいことをやりながら、
長いスパンで、
「世界の富嶽」を描き続けるわけですね。

若木

できたらいいなと思ってます。

──

でもそれって具体的には、どんな山‥‥
つまり
世界各地の有名な山360座を見繕って？

若木

アイディアとしては、
どっちかっていうと「360度」ですね。

世界地図とか地球儀で
日本を中心に、線を「360度」の方向へ
放射状に伸ばした先にある‥‥。

──

山を描く？
それは、でも、山と限らなくてもいい？

若木

いや、山と限る。でも、そうすると、
「山がひとつもなくて、
海しかないようなところはどうするの？」
ってことになりますよね。

──

うん。どうするんですか。

若木

どうしたらいいと思いますか（笑）。

──

いや、わかんないけど（笑）、
でも、ある方向に直線を伸ばしたときに、
たとえば北米のデナリって山にぶつかる、
そこでデナリの絵を描く。

またはヒマラヤのエベレストにぶつかる、
そこでエベレストの絵を描く。
そのことはできるし、おもしろいですね。

若木

360度ぶんできないかなあ。

──

名もなき山でもいいならできるのかな。
地球は丸いし‥‥よくわからないけど。

若木

いや、そうですね。そのとおりです。
名もなき山でも、
公園の砂場の山とかでもいいのかも。
伸ばした線の先にあるのなら。

──

そんな山でも「富嶽」って言っちゃうのが、
なんだかいいなあ。

若木さんらしい感じがして。

若木

とにかくそういう長いプロジェクトを、
いつかやってみたいなと思っているんです。

──

いやあ、今日はおもしろい取材でした。

美大で版画コースに通っていたところから
マラソンの道へ入っていって、
一時はすごいところまで行っちゃってねえ。

若木

そうですね。
毎日、山で５時間練習してましたから。

──

山で？　５時間！？

若木

山がいちばん効率的に追い込めるから。
心肺を。

──

わはは、版画家の発言とは思えない（笑）。

‥‥えっ、台湾の333キロマラソンで優勝！？
いまネットで出てきたんですけど。

若木

そうなんですよ。
ギリシャの大会では日本人女子で１位とか。

──

ひええ、本当〜にすごい人だったんですね。
そりゃあ本気になっちゃいますね。

若木

本気でしたよ、当時は。

でも、うすうす
「向いてないことをがんばってるなあ」
とは思ってました。

第34回スパルタスロン（246km）で日本人女子１位・世界女子９位に輝いたときの若木さん。

──

え、そうなんですか。

若木

でも、あのような活動をしてて、
お客さんもやっぱり応援してくださって、
にぎやかしとしての役割は果たせたし、
こうして
ほぼ日さんにも見つけてもらったわけで、
結果やってよかったと思います。

でも、いまは断然、美術だと思ってます。

──

おお。

若木

美術でがんばっていきたいと思ってます。
いまは版画が、たいへん楽しいです。

──

じゃ、しばらくは版画で走っていく。

若木

はい。いまはもう、
生涯かけて極めたいなと思ってます。

北斎を目指します！

──

500キロマラソン界の北斎ではなく‥‥。

若木

はい、あの、いちおう版画で（笑）。