周防正行監督が、
『Shall we ダンス?』から11年ぶりの映画
『それでもボクはやってない』を撮りました。
今回、周防監督が選んだ題材は「裁判」でした。
公開初日に映画を見て、「これは!」‥‥。
すぐに、周防監督に連絡をとりました。





1 笑われる映画。   9 これでしっくり来る。
  2 ルールは人が作る。 10 周防さん、やったんだなぁ。
  3 「いいの?」でやってきた。   11 ていねいにやってるから泣いたんだ。
  4 犯人を誰も知らない。   12 無実じゃなくて嘘つき。
  5 真犯人を逃すことが怖い。   13 そんな暇はない。
  6 無罪が金で買えるとは?   14 弱いって、簡単じゃない。
  7 ルールを使う恐ろしさ。   15 目の前の人にだまされたくない。
  8 なぜ「裁判」を撮ったのか。 16 周防さんの、動機。




15 目の前の人にだまされたくない。


糸井 マナーのいい人なり会社なりが、
とっても上手にうまくいきましたという物語が
必要になるんでしょうね。
周防 うん、規範が必要なんでしょう、きっと。
糸井 ある時代には
ジャンヌ・ダルクが必要だったように、
「あいつらだって、
 それをやってこんなにうまくいったじゃないか」
みたいなことが必要なんでしょう。
でも、そんなの邪魔だろうね、
そうじゃない人たちからしたら。
今周防さんがやってることを
邪魔だと思ってる人は‥‥
周防 いますよね。
糸井 いるだろうなあ。
「そんなことに俺は時間使ってらんないんだよ」
って考えは、ありますよねぇ。
ああ、でも、こりゃ、周防さん、
この先の先まで
仕事の予約しちゃったようなとこ、ありますね。
周防 うん、そうですね。
糸井 でも、法律だけの問題じゃなくて、
「現実とそれを取り囲む幻想との関係を描く」
という意味では、
周防さんは、ずーっと一環して、
やってきたことは同じだったですね。
周防 そうですね。
人ってそんなにね、変わらない(笑)。
テーマはきっと1個なんですよね。

糸井 ‥‥なんだか今日は
忙しい人を引き止めた意識で、
けっこうまじめにしゃべっちゃったな。
周防 映画もド直球ですし(笑)。
糸井 それは覚悟ですよね。
周防 この映画は最初、
「監督の講演つきで
 公民館回るしかないテーマだと思います」
と言われてスタートしました。
だから、企画書を映画会社に
持っていくことはしてないんです。
うちのプロダクションでシナリオを作って、
十稿目のシナリオを、
はじめて東宝とフジテレビに
持っていきました。
その段階でプロデューサーは、
「そこまで来たら一応映画会社に
 聞くだけ聞いてみましょう。
 もしかしたら乗るかもしれません」
と言った、そういう映画なんです。
ですから、この映画は、企画書がないんです。
いきなりシナリオからスタート。
糸井 そのリスクは
大きいですよね。
周防 はい。でもまあ、最後は
僕の講演つきの公民館回りで
自主制作しましょうね、と
覚悟してはじめたんです。
糸井 いや、でもね、なまじテクニックで
「すっごい主題歌だけが大流行」とか
「やりかたがド派手」とか、
よけいなことがあると
この映画の邪魔になる気もします。
これはほんと、観たお客さんも
手伝いたい映画だと思う。
周防 役所広司さんが舞台挨拶で、
「『それでもボク、はやってない』
 にならないように」
と言われて、ガクッと(笑)。
糸井 そういうように、
軽口を叩かれるフレーズはいいんですよ。
しかし、「やってない」って、
「やっていない」に
間違われやすいなあ。
周防 そうなんですよ。
今度こそ間違えられないタイトルに
しようと思ったのに、
また間違えられるタイトルになって、
俺って間違えられやすいタイトルしか
つけられないのか!(笑)
アナウンサーや書き手の人でも、
きちんとした人ほど
「やっていない」になるんです(笑)。
でも、普通叫ぶときは
「やってない!」でしょう。
糸井 そうですよね、口語ですからね。
そうでないと「ボク」をカタカナにした意味も
なくなっちゃいますもんね。
上映してる映画館の、数は多いですね。
周防 全国200スクリーンでやります。
ほんとうはもっと少なかったんですけど、
増えたんですよ。
「まだやってんのか」と言われるような
作品になればいいな、と思っています。
糸井 僕も及ばずながら、応援したいです。
初日から飛んでった映画は
ちょっとないですから。
よっぽど何か
動機のある映画だったんだと思ったんで。
周防 ありがとうございます。
今日はお話するのを楽しみにしていましたし、
お話しできて、ほんとうによかった。
糸井 ありがとうございました。


これで、周防正行監督と糸井重里の対談はおしまいです。
ご愛読いただき、ありがとうございました。
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2007-03-01-THU



それでもボクはやってない

全国東宝系大ヒット上映中
監督・脚本:周防正行
出演:加瀬亮、瀬戸朝香、役所広司ほか
2007年1月20日(土)より全国東宝系で全国公開中
痴漢冤罪事件を通して、
日本の刑事裁判制度が孕む問題をテーマにした作品
オフィシャルホームページはこちら


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