12無実じゃなくて嘘つき。


糸井 僕らの世代は、どう自分が間違ったか、
自分が尊敬できないものに
どういうふうについていったか、
そういう負の記録は覚えていようというところで
今の自分があるわけです。
だから、その意味ではね、
こんな世代に触れちゃった奴らはかなわんな、
って気持ちはあるんですけど、
でも、こんなふうに描けてる人が
ちゃんと現れてきたんで、
な〜んか、うれしかったんですよ。
それをちゃんと役者の人たちが
理解してるじゃないですか。
周防 はい。役者さん、すごくよかったです。
現場にいるときは
それぞれ必死でやってるんで、
そんなに引いて見られなかったんですけど、
初のラッシュを観たときに、
「うわっ、キャスティングうまくいったんだな!」
と、ほんとうに思いました。
糸井 でしょう。
おそらく、資料を読み込んだり
取材してる分量で比べたら、
監督と役者って100対1ぐらい
違うかもしれないけど、
そこを役者さんたちは、
一気に掴み取ってくれたんじゃないでしょうか。
周防 今回の脚本は、セリフが多すぎて、
ただでさえ台本が分厚いので、
ト書きをほとんど書いてないんですよ。
これでト書きを書いたら、
「監督こんなに厚いです」なんて
文句言われちゃうといやだから、
もうト書きオミット!(笑)
ですから、シナリオはほとんどセリフだけなんです。
その部分をきちんと肉体化してくれているのは、
役者さんの力なんです。
糸井 たいしたもんです。
水槽に薬入れないことを信じたいって気持ちと
同じですね。
周防 でもね、法律談義しましたよ。
シーンに関係ないところでいっぱいやりました。
なんでそういうふうになってるのかとか、
こういうこともあるんですよとか。
演技についての話はあまり
してないんですよ。
糸井 なるほど。つまり、
演技者として答えを出すのは君の仕事だけど、
その前提になる世界はこうですよ、
という世界観ですね。
周防 そうです。どうしてこういう場なのかを
いっぱい話しました。
糸井 留置場は見学に行かれたりしたんですか。
周防 使用していない留置場を見ました。
新しくできた留置場を取材した映像を
見たりもしましたが、とてもきれいでしたね。
これから使うとこだから
なおさらなんでしょうけど。
映画に出てくるのは、
最新式ではないけれども古くはない、
今いちばん多く見られる
スタンダードタイプにしてあります。
糸井 捕まって「こんなはずじゃない」と思った
主人公の子も、
「こんな汚いところに押し込められて」
という悲しみは訴えてなかったですね。
周防 はい。でも、検察庁の地下にあって
検察官の取調べを待つ
「同行室」という部屋のことは、
映画の取材をしているときに、
みなさんおっしゃっていました。
小部屋から、
大物政治家が待つような
特別室みたいなところまで
あるらしいですけど、
背もたれが直角の木の椅子で
私語も禁止で動いちゃダメで、
取り調べに呼ばれるまで待つんです。
「お茶をひく」という言い方があるんですけど、
取り調べもしないのに呼ばれて、
1日そのままで帰されるとか、
そういう意地悪もされるという部屋だそうです。

糸井 意地悪というか、
当然だと思ってますよね、
呼ぶ側は。
周防 はい。拷問に近いものがあるそうです。
みなさん、とにかくあそこがいちばん
つらかったとおっしゃっていました。
その場所がどういうものであるかは
裁判官も知らないようです。
あそこは検察庁の地下にあっても
検察庁の管轄じゃなくて、
警察の管轄なんですって。警察に貸してるんです。
だから、原則的に検察官も知らないって言います。
糸井 そうですか(笑)。
明らかに環境の暴力を加えてますね。
そういうところでの
ジャブみたいな拷問は、効きます。
「みんな自白してるのに君だけだね」的な
嘘もさんざんつきますよ。
ギターの速弾きみたいに
テクのひとつだと思ってんじゃないかな。
周防 そうみたいですね。
「いま家族を調べてる。
 ほんとうはおまえの弟が怪しいんだ」
と言われて、
弟なのかなと思って、かばうつもりで
自分のほうに捜査の目を向けるために
自白に近いようなことを言ってしまうとか。
そういう脅しはテクニックとしてあると言われます。
糸井 それはフルにあるでしょうね、きっと。
周防 警察は日々罪人とつきあってるわけです。
だから、悪いやつは嘘をつく、と思います。
自白しないのは、
悪いやつが悪いことをやってんだけど
嘘つきだから自白しないだけだという
発想ですね。
だから、いくらでも責められるんでしょうね。
糸井 練習しちゃって
うまくなりやがって!って
思ったりするかもしれないですね。

(つづきます)

2007-02-25-SUN


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