3 「いいの?」でやってきた。


糸井 こんな時期に、
周防さんが、あの映画をつくったんです。
僕にとって救いがあったのは、
外国で観せたら
恥ずかしい気持ちになるものなんだって
ことなんですよ。
「外国では、もっと相対的に見られる」
ということはさ、
ここを突破できる可能性があんのかよ、
ということなんです。
周防 そうね、おかしなことやってんですよね。
糸井 海外からの視点のようなものは、
『シコふんじゃった。』
『ファンシイダンス』のときから
周防さんはずっと持っていらっしゃいます。
そのね、ずーっと、
テーマは同じなんでしょ?(笑)
周防 そうですね(笑)。
『シコふんじゃった。』は、
キリスト教系の大学の相撲道場に
神棚があって、それをみんなが
パンパンとやってるのを見た外国の人が
「一体ここはどういう大学なんだ」っていう(笑)。
でも、あれは
日本人にとって笑えないところだと思います。
糸井 立教で、ですよね。
周防 そう(笑)。
笑えない現実です。
あれは客観的に見ると
おかしなことをしてるんです。
糸井 『シコふんじゃった。』では、
ケツを出す問題でも
さんざんすったもんだしますよね。
あそこに痴漢や満員電車と
同じようなことが含まれてます。
「え、いいの? ケツ出して」
ってことですよね、外国からしたら。
周防 はい、そうですね。
糸井 それは、
「密着するようなところに人を詰め込んでいいの?」
ってことですよね。
周防 「いいの?」ということですよね。
日本的なるものに
僕はすごく興味があるんです。
糸井 うん。すごく強い興味を持ってる。
周防 極めて日本的な話ばかりをやってる。
糸井 ぼくはちょうどこのところ、
アジア的であることについて
興味を持ってるんですけど、
周防さんの久しぶりの映画には、
もう、何ていうの、
「金のくちばしが当たりました!」の
おもちゃ箱みたいに、
いろいろ入ってたんです。
セリフのひとつひとつから
うれしくなっちゃって。

周防 痴漢という犯罪は、
「アジアの数か国にしかない」
という言われ方をしてるんです。
しかも、もしかしたら韓国と日本だけの犯罪かも、
という感じだから、英訳するときに
「痴漢」にピッタリ来る言葉がないんですよ。
糸井 つまり痴漢って、限りなく
匿名なんですね、
西洋の人たちは、どちらかというと
「俺が触る権利があるんだ!」っていうところに
行きたいんじゃないかな?
周防 そうですか(笑)。
糸井 そんな気がする‥‥。
でも、日本の痴漢は
わからないようにするでしょう。
周防 痴漢を日々行なってる人たちは
ほんとうに上手に触るらしいです。
だから、捕まる人の多くに、常習者は少ない。
糸井 でしょうね。
公園でことにおよんでるアベックの
背後から近づいてって、
男が触ったのか自分が触ったのか
わからない状態に持っていくのが最高だ、
という覗きの人の話を
どこかで昔、聞いたことがあります。
周防 それは覗きを超えてますね(笑)。

糸井 手の甲でごまかしたり、紛れたり
よくわかんないようにして、
いったいどこが快感なのか
ほかの人にはさっぱりよくわかんない。
痴漢や覗きって、
もう、ものすごい不思議なことが
行なわれているんですよ。
それを裁判という、
ひじょうに西洋的な場所で
裁ききれるのかな、と思ったりします。
周防 裁判が裁いてるのは
そこじゃないですもんね。
言い分‥‥特に痴漢事件で特徴的なのは、
お互いの言い分しかないんです。
どっちの言い分がほんとうのことなんだ、
というふうになっちゃうんです。
でも、その言い分が
両方ともほんとうのこともあるんです。
糸井 ありますよね。
周防 だから不幸が起きてしまうわけです。
糸井 あの映画を、
主人公がほんとうにやったんだ、という気持ちで
もう1回観てみたいと思ってるんです。
やったかやってないか、わからないですよね。
周防 わかんないです。
糸井 裁判官の役をされた
小日向(文世)さんが
ほんっっっっとうに、憎らしい、というふうに
映画を観た人はきっと思うでしょうけど、
小日向さんは能面の役ですね。
光の当て方によって見え方が違ってくる。
周防 どっちにも見える。
糸井 あの高等技術はたまんなかったなぁ。

(対談は明日へつづきます。
 つづいておたよりのご紹介をお読みください。 )


いちばん腹のたつのは痴漢という行為をする人ですが
三人の息子を持つ主婦ですので
いつ夫や息子が冤罪に巻き込まれるか、
明日はわが身だなぁーと思いました。
裁判の流れは歯の治療と似てますね。
なかなか進まない。
それと裁判官も大変だな、とも思いました。
(主婦・41歳)

「それでもボクはやってない」を見ました。
陪審員制度のあるイギリスに住んでいます。
この映画を見るまで、
日本では陪審員制度の導入は
しなくていいと思っていました。

ですが、「やったかやらなかったか」の部分は、
今の制度では、裁判官でなく
陪審員が判断しなくては
裁判が本来の役割をはたせないところまで
きているのではないか、と思いました。

以来、ニュースなどで容疑者として
逮捕された方の写真が報道されても
本当にこの人がやったのかな、
と一瞬、心にストップをかけています。
(そらこ)

周防さんの
「そういう満員電車を選んで乗ってるあなたが悪い
 という話になるんじゃないかな」
で思ったのですが
日本という国はけっこう
「自業自得だから」で済まされることが
多い国ではないでしょうか。

争うぐらいなら、
まるくおさまるなら、声を荒げないでおこう。
謙虚さが美徳という日本人ならではの発想も
アメリカ人から見たら滑稽なのかもしれませんね。
映画まだ見てませんが、
つい先日初の裁判傍聴までして、見に行く準備万端です!
あ〜見に行く日が楽しみです。
(ずきん)



2007-02-16-FRI


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