もくじ
第1回忘れてくれた漫画。 2017-11-07-Tue
第2回野球を観に行こう。 2017-11-07-Tue
第3回鈴木一朗という人。 2017-11-07-Tue
第4回ぼくも「ゆずっこ」。 2017-11-07-Tue
第5回言葉をさがして。 2017-11-07-Tue
第6回大好きなものに囲まれて。 2017-11-07-Tue

ふだんは、銀行で営業をしてます。人に道を聞かれることが多くて、シャッターを頼まれることも多いです。「はい、チーズ!」というのが、ちょっとはずかしいです。

ぼくのおじさん。

ぼくのおじさん。

担当・中村 駿作

第6回 大好きなものに囲まれて。

 
「こち亀 200巻のメモリアルで連載終了」

「広島カープ 25年ぶりの優勝」

「イチロー 安打数世界記録保持者に」

すべて、らーちゃんが遠くへ行ってしまった、
2016年に起きた出来事です。
世界は誰かひとりを中心にまわっているわけじゃないけど、
でもぼくは、これは奇跡だと思っています。

らーちゃんは最後まで、
大好きなものを持つことが、
すばらしいことだと教えてくれました。
 
 

 
お別れの時、
らーちゃんは等身大に作られた場所に寝ていました。
葬儀をお世話してくれた人は、
若菜と旅人とおなじくらいの子どもがいると言ってました。
その人は、式では決して涙を見せませんでしたが、
家族だけになったときに、
「がんばらないとあかんよ」とふたりに言いながら、
目が潤んでいて、ぼくも泣いてしまいました。

なにか最後に届けたいものを、
箱の中に入れてあげてと言われたとき、
ぼくは1冊の本を買いにコンビニへ走りました。

『こち亀』です。

借りっぱなしにしていたやつとは違うけど、
でも、1冊でも返さなきゃって思ったんです。

「紙類はあんまり入れると、怒られちゃうんやけど‥‥」
と葬儀屋さんは苦笑いしながらも、
そっとらーちゃんの横においてくれました。
体の周りにはたくさんの大好きなものがありました。
野球のグッズもあったなぁ。カープのタオルがあった。

それからしばらく一緒にいて、
らーちゃんは行ってしまいました。
大好きだったものに、たくさん囲まれて。

「これ、ぼくが貸したやつとちがう」

らーちゃんが、いつものように肩をゆらし、
メガネの奥でニヤリと笑っているような気がしました。

それから2回目の10月のはじめ、
ぼくは長いメールをねぇねぇに送りました。

「ほぼ日の塾っていう場があって、
 好きなものについて書く機会があって、
 ぼくは、どうしても、らーちゃんについて書きたいねんけど」

この実践編に挑戦させてもらえることが決まって、
「好きなもの」について書くことができることを知って、
いろんな好きなものを考えるたびに、
らーちゃんの顔が出てくることにぼくは気づいたんです。

だから、悲しいことは書かないことを約束に、
エッセイを書くことを許してもらいました。
たくさんの好きだったものを、
写真に撮らせてもらって。
思い出話なんかをしたりして。

らーちゃんがいなくなって、もうすぐ2年がたちます。
誰かがいなくなると、とても悲しいけど、
でも前を向いて進んでいかないといけない。
「好きなもの」について書くこと、
らーちゃんとの話を書いてくことで、
ぼくはすこしだけ前に進めているような気がします。

写真を撮ったり、話をするために、
うちの家に来たとき。
旅人が何かを見つけて、眺めていました。
それは、ぼくが大好きで集めている、
星野源さんのCDとDVDでした。


「貸してあげよっか?」

ぼくは、すんなりと声をかけることができました。
あの時、ぼくに『こち亀』を貸したらーちゃんも、
きっとこんな感じだったんだろうなぁ。
自分が好きなものを、誰かが好きなことは、
やっぱりうれしいなぁ。

でも‥‥、
かっこわるいけど言ってしまおう。
そのCDとDVDは初回限定版で、
結構今は貴重なやつだから、
ぼくが言うのもなんやけど。
貸すだけ。貸すだけだから・・・・(笑)
 
 

ほぼ日の塾についてぼくが説明をしたとき、
ねぇねぇたちは、どういうものか調べようとして、
家でパソコンを開いたそうです。
そこには、らーちゃんがまだ元気だったころ、
よく見ていたものがそのままのこっていて。
 

そこには、調べるまでもなく、
「ほぼ日刊イトイ新聞」があったそうです。

あぁ、やっぱりそうだ。

好きなものを教えてくれたのは、
らーちゃんなんだなぁと、
ぼくはメガネの奥でニヤリと笑いました。

(長くなってしまいましたが、これで終わりです。
 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。)