もくじ
第1回忘れてくれた漫画。 2017-11-07-Tue
第2回野球を観に行こう。 2017-11-07-Tue
第3回鈴木一朗という人。 2017-11-07-Tue
第4回ぼくも「ゆずっこ」。 2017-11-07-Tue
第5回言葉をさがして。 2017-11-07-Tue
第6回大好きなものに囲まれて。 2017-11-07-Tue

ふだんは、銀行で営業をしてます。人に道を聞かれることが多くて、シャッターを頼まれることも多いです。「はい、チーズ!」というのが、ちょっとはずかしいです。

ぼくのおじさん。

ぼくのおじさん。

担当・中村 駿作

第3回 鈴木一朗という人。

おじさんのことを、「らーちゃん」と呼んでいるのに、
おばさんのことを、おばさんと書くのも申し訳ないので、
いつも通りの呼び方で、「ねぇねぇ」と呼ぶことにします。

もしぐちゃっとして、関係図が分からない人がいたら、
読みづらいので、ちょっと図にしておきますね。

分かりやすくなったか、微妙ですかねぇ。
どうでしょう。ふにゃふにゃの字で、ごめんなさい。
仕事でいつも、家系図を書いてるんだけどなぁ。
 

で、鈴木選手の話をします。
らーちゃんと、ねぇねぇはその人の大ファンでした。
オリックスの二軍の球場へ何度も足を運んで、
あの選手はきっとすばらしい選手になると、
二人でいつも言ってたそうです。

のちに彼は、世界でいちばん有名な日本の野球選手、
イチローになるんです。

だから、おじさんのコレクションの中には、
鈴木一朗のサインと、
イチローのサインが並んでいます。
それは、二人がたくさん球場へ通って、
彼の背中を応援してきた証です。

時には、二軍の試合に出て、
そこから一軍に合流するイチローを観に、
球場をハジゴすることもあったそうです。
試合に出なかったときは、
「今日は出なかったなぁ」と残念がったりして。
追っかけに近いものですが、
それぐらい、ほれ込んでいたってことですよね。
 

 

好きなものを、原石の状態から見つけるのって、
すごく難しい。
才能のある人や、魅力のある物は、
何かのきっかけで多くの人に知れ渡るからです。
だから、0から好きなものを見つけることよりも、
誰かから教えてもらったり、
テレビやネットで観たりして、
世間に認められたものを好きになることのほうが、
やっぱりどうしても多くなる。

それでもたまに、
あんまりみんなに知られていないものを、
「すごくいい」って思ったりすることがあって。
それは、ちょっと嬉しかったりしますよね。

たくさんの人に知れ渡った瞬間。
ぼくだけが知っていたものは、
みんなのものになっていく。
それをもどかしいと思うかどうかですが、
やっぱり人間は見栄っぱりなので、
「いやいや、ぼくはずっと前から好きやったし」とか、
「あの歌手は、売れる前のほうが良かったわ」とか、
言ってしまうもんで。
なんだか、それって好きなものを追っていくのに、
ちょっと邪魔ちゃうかなぁと思うことがあります。

前から知っていようと、最近知ったものであろうと、
自分が「好き!」って思ったことなんだから、
堂々と好きと言い続けたらいいんじゃないかって。
もしそれが、みんなが知る前から
応援していたものだったなら、
それはそれで、胸をはって応援できるし、
これからファンになっていくのも、
それもすごく楽しいですよね。

「ずーっと応援してたからうれしい」

イチローのことをみんなに自慢したとき、ふたりは、
「本当は、イチローになってから知ったんでしょ?」
と言われたみたいです。

それはちょっと寂しくて。

前から知っている人が、
あたらしく好きになった人を排除したり。
あたらしく好きになった人が、
前から知っているフリをしたり。
そんなことは本当はどうでもよくて。

あなたの「好き」と、ぼくの「好き」が、
きっかけは違うかったとしても、
おなじ琴線にふれたんだね、それはすごくうれしいよね。

そう言えることは、とても楽しいことだとぼくは思います。

鈴木一朗が、イチローに名前を変えて、
日本一、いや、世界一の野球選手になっても、
その人がずっと「好き」なんだからそれでいい。
らーちゃんと、ねぇねぇは、
これからもずっと鈴木一朗のファンなのだろうなぁ。

 

 

好きなものを、ずっと応援することって、
ときどき奇跡を起こすんです。
それは、ぼくが生まれる前の話なのですが。

らーちゃんと、ねぇねぇの結婚式。
お色直しの時間、
司会の人が祝電を読み上げていました。
会社関係の人、昔からの友人。
親しい名前が続いていくなかに、
ずっと知っているけど、
ここで聞こえるはずのない名前が、
とつぜん現れたそうです。
 

「このたびは、ご結婚おめでとうございます! 
 オリックスブルーウェーブ 鈴木一朗」

 

オリックスの人と知り合いになったらーちゃんが、
結婚報告をしたところ、
その人がイチローに伝えてくれたというのです。
鈴木一朗の頃から、
ずーっとファンだったふたりが結婚するということを。
そして、イチローはふたりに祝電を贈ってくれた。
 

好きなものを好きであること、応援することは、
とても素敵なことだと教えてくれてる気がして、
ぼくはこの話が大好きです。
 
 

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おまけのような話をさせてください。
祝電の話に比べたらすごく小さい奇跡なんですが。
いま、この原稿を書いているのは2017年10月22日。
エッセイを書くにあたって、
あらためて、イチロー選手のことを調べていたんです。

「1973年10月22日生」

まるで漫画のように目が飛び出るかと思ったのですが、
今日はイチロー選手の44歳の誕生日だったみたいです。
ただの偶然なのかもしれませんが、
いま、ぼくはすごいドキドキしています。

これはきっと、この場を使って、
らーちゃんが言えって伝えているんだと思うので。

「イチロー選手、
 44歳のお誕生日おめでとうございます! ファン一同」

‥‥代表してしまいました。

(つづきます)

第4回 ぼくも「ゆずっこ」。