もくじ
第1回忘れてくれた漫画。 2017-11-07-Tue
第2回野球を観に行こう。 2017-11-07-Tue
第3回鈴木一朗という人。 2017-11-07-Tue
第4回ぼくも「ゆずっこ」。 2017-11-07-Tue
第5回言葉をさがして。 2017-11-07-Tue
第6回大好きなものに囲まれて。 2017-11-07-Tue

ふだんは、銀行で営業をしてます。人に道を聞かれることが多くて、シャッターを頼まれることも多いです。「はい、チーズ!」というのが、ちょっとはずかしいです。

ぼくのおじさん。

ぼくのおじさん。

担当・中村 駿作

第4回 ぼくも「ゆずっこ」。

なにからなにまで
おじさんがきっかけだなぁと思われてしまうけど、
そうじゃないこともいっぱいあります。
父にも母にもちゃんと、
たくさん楽しいことを教えてもらっています。
でもまぁ、今回の主役はらーちゃんなので、
そこは譲ってもらうことにしちゃいます。
 

ぼくが、はじめて生の音楽に触れたのは、
らーちゃんとねぇねぇに連れてってもらった、
『ゆず』のコンサートでした。

ふたりはゆずの大ファンで、
毎年コンサートに参加していて、
ぼくにその1席を分けてくれたんです。
会場へ行くと、
みんなそれぞれのタオルを首に巻いて、
いろんなTシャツやグッズに身をつつんでいました。
ゆずのファンは、
みんな「ゆずっこ」と呼ばれているのですが。
たくさんの「ゆずっこ」がドキドキしてる中、
ぼくはどうしたらいいか分からなくて、
ずっとソワソワしていました。

大阪城ドームで行われた、
そのライブの名前は『1~one~』。
おおきなおおきな舞台で、ゆずのふたりは、
しっとりした弾き語りや、
お決まりの『夏色』を歌っていました。

いちばん鮮明に覚えているのは、
ゆずのリーダー北川悠仁が、
歌いながら会場を走っていて、
飲んだペットボトルを客席に投げ入れたんです。
会場はすっごく盛り上がっていて。

「えっ、ちょっと汚くない?」

とかぼくは、思ったりしていました。
たぶん、まだその時ぼくは、
「ゆずっこ」じゃなかったんだと思います。
すこしだけ、みんなとは遠いところで、
その光景を観ている自分がいて。

だけど、そんな冷静さは、長く続かず。

はじめて聴く心地いい歌が聴こえてきて。
大画面にうつる、ふたりの笑顔がかっこよくて。
ゆずが作る巻き戻せない時間を過ごすにつれ、
ぼくは自然に体がゆれてきて、
気がつくと、ステージにずっと手をふっていました。

最後の曲は、ぼくも知っていた『栄光の架橋』。
アテネオリンピックのテーマ曲となったものです。
水泳をやっていたぼくにとっても、
あの曲は特別なものでした。

真っ暗な舞台で、ふたりが歌う。
照明は、ゆずだけを照らしていて、
サビになった瞬間、どっと光が広がる。
アンコールが終わった頃、
ぼくは立派な「ゆずっこ」でした。
 
 

 

あのライブから、もう13年。
ぼくはそれなりに生きて、社会人になりました。
いろんな音楽に触れて、
いろんな人生経験をしてきたけど、
やっぱり、ゆずが大好きです。

今回、この話をするために、
あらためて、そのライブのDVDを観たんですが、
画面から流れてくるのは、ぼくが大好きな曲ばっかり。
あの頃、まったく口ずさむことができなかった歌詞も、
いまではしぜんにこぼれてくる。
ぼくは、3人目のメンバーになった気分で、
画面の前で「ゆず」をしていました。

らーちゃんは、
ゆずのどんなところが好きだったのだろう。
ぼんやりと、「やっぱり、ゆずはいいねぇ」と
言った瞬間があったそうで。
 

ある日、いつものようにラジオを聴いていた時、
ゆずの歌が流れてきて。
それは、『恋の歌謡日』という曲だったそうです。
ムーディーな音楽にあわせて、
来るはずのない彼を待つ女性の気持ちを歌った曲。

ゆずはずっと、
汗を流して青春を歌う印象がつよく、
とにかく、爽やかさのど真ん中にいるデュオでした。
その二人が、ちょっとふざけた曲を、
全力で取り組んでリリースした。
まっすぐなことをやっているふたりが、
ぜんぜんちがうことに挑戦して、
全力で遊んでいる姿に、らーちゃんは感心したそうです。

『恋の歌謡日』のミュージックビデオを、
もしどこかで見れる機会があったら、
ちょっとだけ視線をやってみてください。
ぶあつい化粧をして、ステージガールの女装をして、
一生懸命に恋を歌っている姿は、
思わず笑ってしまいます。
 
 

 

高校生になって、
ぼくはすこしだけ頑張れない時期がありました。
学校に行くのもしんどくて、
家を出てそのままUターンしたり。
学校へ行っても、勝手に早退をくり返したり。
夏休みが、みんなより1週間長かったり。

明確に学校へ行きたくない理由は、ありませんでした。
クラスメイトは、みんな優しかったし、
いまもかけがえのない友達です。
でも、何故か、学校に行かないで
ひとりでテレビを観ていたかった。

受験なんて、どうでもよくて。
みんなと一緒に大きな山を登れなくて、
せっかく通わせてもらっていた進学塾も勝手にやめて。
たくさん両親に迷惑をかけてしまいました。

「なんで学校に行かないの?」と聞かれても、
ちゃんとした答えは出てきませんでした。
その答えは、ぼくには無かったから。

ぼくはいったい、何がしたいんやろう。

そんなことを、ぼんやりと考えつづけ、
学校はとても遠い場所になっていきました。

その頃、ぼくは何を求めてか、
らーちゃんの家に数日泊まりにくことにしたんです。

国立大学出身のらーちゃんは、
教員免許も持っていました。
ぼくは苦手な数学を教えてもらうという理由で、
らーちゃんの家に逃げ込んだんです。
一応、問題集をもって。念のため、参考書をもって。

で、なんとか机に向かって、
数学の公式を教えてもらっていたのですが、
やっぱりどうしても理解が追い付かない。
勉強が苦手で、特に数学が‥‥。

それでも、家庭教師よりもっと近いところで、
らーちゃんは一緒に頭を悩ましてくれました。

勉強がおわったら、一緒に野球を観て。
バラエティ番組に、
いつものようボソっと面白いことをつっこんで。
そんな時間を数日過ごしました。

その間、らーちゃんはぼくに、
「学校へ行け」と説教をすることはありませんでした。
ただただ、目の前にある問題を解いて、
テレビのタレントの発言に小言を放つ。
あたらしい漫画を教えてくれたり、
音楽を聴かせてくれたりする。

それは、とてもぼくの心を軽くしてくれました。

たぶん、ぼくは息抜きがしたくて、
らーちゃんのもとへ行ったのだと思います。
どうすればいいか分からなくて、
自分のことが嫌いになっていって、
とにかくもがいていた。
そのことを、らーちゃんはきっと察していた。

その年ぼくは、
はじめて数学の赤点を逃れることができました。
よろこんで報告をしに行ったのを覚えています。

‥‥まぁ、調子に乗りやすい正確なので、
翌年のテストは2点という驚きの点数をたたきだし、
先生に呆れられることになるんですが。

それでも何とか立ち直って学校に通い始め、
ギリギリで大学へ進学して、
就職して自分で好きなものを買えるようになりました。

きっとあのときの、息抜きがあったからだと思います。
力を抜いて、もっと気楽に進めばいいんやと、
ぼくは、らーちゃんから学びました。

『青』という大好きなゆずの曲があります。
歌いだしはこうです。
 


 

‥‥だめだ。

この曲に言葉をかりて、
らーちゃんに、あの時の感謝の思いを、
言葉にしようと思ったんですが。

どうしましょう。
なんどパソコンに向き合っても、
ちょっと涙が出そうになってきて。
これ以上続けられないぼくがいます。

もし、どんな歌なのか知りたい人がいらっしゃったら、
ごめんなさい。
レンタルショップに走ってくれたらうれしいです。
とっても、とっても良い歌なので、聴いてください。

(つづきます。)

第5回 言葉をさがして。