その7
吉川修一さんの

STAMP AND DIARYは、ことし。

「白いシャツをめぐる旅。」で知りあった
旅のなかま、吉川修一さん。

「ほぼ日」では「タンピコ」のバッグ
そして「生活のたのしみ展」でも活躍していただきました。

その吉川さんがプロデューサーをつとめるブランド
STAMP AND DIARY(スタンプアンドダイアリー)。

3年目の旅となることしは、
たいへん好評だった1年目、2年目からくらべ、
ぐんと数をふやしての登場です。

じつはSTAMP AND DIARYは、
会社ができて4年という若いアパレルですが、
ことし、ふたつめの直営店を神戸に出したばかりで、
とても活気づいているんです。

そして「昨年、買ったものがよかったので、ことしも」
というお客様が、着実に増えているとのこと。

「春・夏、秋・冬と、
年4回新作を発表してきたわけなんですけれど、
ここのところ、お客さまの気持ちの変化を
すこしだけ感じます。

それは『安心感』ということばになるのかな、
尖ったデザインによる新作の提案よりも、
『去年のあれが良かったから、今年もやってほしい』
という声が増えてきました。

新しいものをどんどん求めた風潮から、
もうちょっと安定感というか、
いいものはやっぱりいいんだという確信のなかで、
それを着続けるスタイルのかたが増えたというか。

気に入ったら同じものを2枚買いしたり、
色違いで買われる方もいらっしゃいます。

他人からの評価というよりも、
自分の納得感を優先する方が増えたんじゃないかな」

そんな時代の流れと、
それでも「あたらしい挑戦」をしたいという
つくり手としての思いの交差する部分での
ひとつの答えが「素材」だと吉川さんは言います。

もちろんデザインの「ブラッシュアップ」や
「これまでにない提案」は必要。

そのうえでやっぱりたいせつなのは素材である、
というところに、いま、吉川さんたちは立っています。

そして吉川さん自身もそうですが、チームのなかには
「博士級」に素材に詳しいメンバーもいて、
徹底した素材えらびの姿勢での服づくりが、
また新しいファンをよびこむ──。

いまのSTAMP AND DIARYには、
そんないい循環がうまれているようです。

今回「白いシャツをめぐる旅。」にならぶのは、
6枚のシャツ。そうなんです、6枚も!
じつはこれでも候補のなかから、
かなり絞り込んでのラインナップ。

◎バックタックブラウス白と紺

◎くるみボタンのビッグブラウス

◎丸襟ブラウス

◎ピンタックブラウス

◎バックタックドレス

ちなみに「ブラウス」と「シャツ」はべつものか?
というと、明確な区別はないようなんです。

男性もののシャツを「ブラウス」と呼ぶ
メーカーやショップもありますし、
「台襟がついたマニッシュなものはシャツ、
そうじゃない女性的なものはブラウス」と
使い分けているところもあります。

ここではSTAMP AND DIARYさんの表記にしたがい
「ブラウス」という名前のままいくことにしました。

さてこのなかの「バックタックブラウス」と
「丸襟ブラウス」に使ったのが、
「スイスコットン」という
ちょっととくべつなコットン生地です。

「精密機械に優れた国だからでしょうか、
スイスの紡績技術というのは
たいへん優れたものなんです。

綿100%なんですけれども、
まるでシルクのような風合いで、
これを特にこの夏に提案したい素材の1つだと考えました。

日本の夏はとにかく湿気が多くって
ちょっとベトベトするので、
できるだけふんわりしてるほうが清涼感もありますし、
実際に涼しい。この素材は、
それが綿でできるものなんですね。

あとは、すごく繊細な糸なので、表情が上品です。

本当に、着た時に、上品さが前にでる綿ですよ。

細い糸で、生地には透け感があるんですが、
それが逆に女性らしさ、夏らしさを演出します」

スイスで紡がれた糸を日本にはこび、織っているのですが、
この「白」を出すために、
琵琶湖周辺の良質な水を使っているそう。

そうではないと「白さ」が安定しないのだそうです。

ちなみにインナーは、キャミソールだと
ちょっと透け感が出過ぎてしまうので、
タンクトップがおすすめ、とのこと。

「バックタックブラウス」のかたちは、
1枚でサラッと着るだけで、
ちょっとファッショナブルにもなれるし、
すごくらくちんでもあるというもの。

前身ごろが1枚布で、
このデザインのヒントは、吉川さんがパリに行った時、
よく通ったというビストロのスタッフが着ていた
制服なんだそうです。

といっても、着たとき受ける印象は、
かっちりしたものではなく、ドレッシー。

前身ごろの裾の斜めになっている感じや、
肩甲骨のあたりにつくったタックで
裾にいくにしたがってきれいにひろがるデザインは、
とても女性らしい雰囲気があります。

歩くとふんわり空気が入って、とてもきれい。

袖はフレンチスリーブ。

ノースリーブはすこし抵抗がある、というかたでも、
着ていただけるんじゃないかなと思います。

そして前回も「白いシャツ」と対照的な
「黒いシャツ」を1枚扱いましたが、
今回は「紺のシャツ」がありますよ。

同じデザイン、同じ素材なのに、
ずいぶんと印象が異なるのが面白いところです。

紺のほうが生地の光沢が出ますから、
より絹のような上質感があるんですね。

どちらも、ボトムの選び方で、着こなしが自由。

デニムにも合わせられますし、
ちゃんとしたスカート・パンツでも。

アクセサリーの種類でも表情が変わりますよ。

この「丸襟ブラウス」もスイスコットンを使ったもの。

STAMP AND DIARYの歴代のシャツのなかで
いちばん大きな丸襟なんだそうです。

「よりクラシックで、女性らしい服を」と、
吉川さんたちが考えてデザインしたものです。

ある年代のかたは「あっ!」と感じるかもしれませんが、
吉川さんが長年住んでいる横浜発信の流行、
「ハマトラ」の印象にインスパイアされての
「郷愁感」が、ほんのちょっぴり、
エッセンスとして加わっているそうです。

襟は、台をつけずに、ぺたんこで、
後ろもからだのラインに沿うかたち。

(なで肩のひとも、きっとかわいい!)
肩はちょっとドロップさせて、
「いま」の印象を強めにしています。
後ろ身ごろは大きなボックスタック、
裾はスクエアです。

身幅を広くとりましたが、小柄なかたでも、
生地ぜんたいがすとんと落ちるので違和感はないはず。

袖は8分、カフスの部分が短いのが、またかわいい。

たっぷりしたゆとりがあるので、
腕を細く見せる効果もあるんですよ。

‥‥と書いていて感じましたが、
このシャツ、今回のラインナップのなかで
いちばん「女性らしい」シャツかもしれません。

さてここからはリネンです。

このリネンも、琵琶湖周辺の水をつかって
「白」を出している素材。

織機にも人がきちんと付いて、
霧吹きをしながら織り進めるのだといいます。

通常の1.5倍の糸を打ち込み、
そのために目が詰まって硬くなるところを、
仕上げの段階で叩いて柔らかくするという
手のこんだつくりなんです。

だからこんなふうに最初から、
麻ならではのくったり感とハリ感の
微妙なバランスがあるんですね。なるほどなるほど。

「あんまり苦労話をするのはよくないんですが、
この生地、つくるのに1年がかりなんです」

すごい! そんな貴重な生地を、
「ビッグブラウス」ではとてもたくさん使っています。

専門用語で言えば「用尺がたっぷり」。

拡げると、びっくりするくらいの大きさになります。

この大きさと、素材の効果で、
このシャツは着た時の「落ち感」がうつくしい。
大柄なかたも、小柄なかたも、
いかようにもサマになるというのが特長です。

「これに関しては、フェミニン感というよりも、
シャツ的というのかな、合わせもメンズスタイルで、
ちょっとユニセックス感が強いものなので、
こういうふうにくるみボタンを使うことで、
女性らしさを表現しています」

「白いシャツをめぐる旅。」の第一回に出て、
たいへんな人気だったピンタックブラウスの、
フレンチスリーブ版です。

「真夏になると特にシャツ=アウターになるので、
1枚で着た時にデザインが前にでるものとして、
女性らしさを考えてのデザインです。

前身ごろのピンタックが、ウエストまであり、
その下がドレープみたいになっているんです」

そのひろがりが、かわいい金魚みたい
(‥‥という表現で、いいのかな? と思いつつ)。

大人っぽさとガーリーさが共存したデザインです。

後ろはうんとシンプルですが、
前のピンタックのおかげで、
ウエストがキュッとなった印象が出ています。

もうひとつ! これは新作ではないのですが、
今回は短い袖が多いので、
昨年取り扱ったバックタックドレスも
いっしょに並べることにしました。

ワンピースには短いけれど、とても丈が長い、
Aラインのロングシャツです。

この生地は「タイプライタークロス」。

高品質なエジプト綿であるギザコットンを、
高密度で織ったもので、
高級なマット感があり、ハリもあって、
光に当たった時の陰影がきれいなんですよ。

着方としては、ボタンを全部締めてもいいですし、
ふわっと羽織る感じの着方もよさそう。

前の表情と後ろの表情、さらに横の表情が違うので、
角度によって見え方が変わります。

自分で着る楽しさと、
見られる側としての楽しさもあるシャツです。

さてさて、今回、STAMP AND DIARYの
アトリエで取材をしたのですが、
「着こなしサンプル」を見せていただくときに、
何度も登場したカーディガンがありました。

これが、羽織る着方もかわいいし、
前後ろを逆にしてプルオーバーにもなるし、
身幅がたっぷりしていて着やすそうだし、
とってもよかったのです。

短い袖が多いSTAMP AND DIARYなので、
このカーディガンも、いっしょに置こう、
ということになりました。

次回6/18の更新で、くわしくお伝えします!

2017-06-17-SAT

<いままでの更新>

▶︎その1 ことしの旅がはじまります。

(2017-06-09-FRI)

▶︎その2 いまほしいのはこんなシャツなんです、HITOYOSHIさん。

(2017-06-12-MON)

▶︎その3 シャツ工場のひみつ[1]

(2017-06-13-TUE)

▶︎その4 シャツ工場のひみつ[2]

(2017-06-14-WED)

▶︎その5 イタリア・アルビニ社のリネンをつかおう。

(2017-06-15-THU)

▶︎その6 Ataraxiaという、あたらしいブランドと成田加世子さんのこと。

(2017-06-16-FRI)

▶︎その7 吉川修一さんのSTAMP AND DIARYは、ことし。

(2017-06-17-SAT)

▶︎その8 シャツにあわせるカーディガンのこと。

(2017-06-18-SUN)

▶︎その9 あのすごい肌着を、ふたたび。ma.to.wa.の恵谷太香子さん。

(2017-06-19-MON)

▶︎その10 旅とシャツ。HITOYOSHIシャツ吉國武さん。

(2017-06-20-TUE)