ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
手づくりビルができるまで。

「都内に小さな土地を買い、地下1階地上4階の家を
2〜3年かけてセルフビルドで作ります。
鉄筋コンクリート造で、完成形は決定しておらず
現場で即興的にデザインしてゆきます。
岡啓輔39歳、セルフビルダー、一級建築士」
そんなメールが「ほぼ日」に届いたのは2005年のことでした。
「SDレビュー」という建築のコンテストで
“藤森照信賞”を受賞したこのとんでもない計画、
ほんとうに、本人の労力と、
たまに来てくれるともだちの手伝いだけを頼りに、
「自分でビルを建ててしまおう」というものなんだそうです。
建築の世界でも注目されているというこの冒険を、
竣工予定の2009年まで、
「ほぼ日」で追いかけてゆくことにしました。
なお、レポート担当は、建築ジャーナリストの
磯達雄(いそ・たつお)さんです。
なにが起こるかわからないけど、がんばれ岡さん!
最新の記事 2012/01/13

【34】宙に浮かぶ石の庭?


■装飾が付いた外壁

工事は2階の床がもうじき完成という段階です。
できあがった床板を1階から見上げると、
コンクリート打放しの天井面には、
蜘蛛の巣が描かれていました。


▲愛用のインパクトドライバーを手にした岡さん

2012年になりました。
岡さんが取り組む蟻鱒鳶ルの工事は、
足掛け7年目になりますが現在も進行中。
外から見ると、2階の高さまでほぼ壁ができています。

壁といっても、ただ平らな面が
建ち上がっているわけではありません。
装飾的なものがいろいろくっついてます。
建物をつくるとき、普通はまず、
建物を構造として成り立たせている躯体をつくり、
その後に装飾的な要素を加えていくというように
段階を踏みます。
しかし、蟻鱒鳶ルでは、
躯体と装飾が同時にできていきます。

「まわりにあるビルやマンションみたいに、
 短かい期間に建てなければいけないとなれば、
 装飾なんてできないでしょうけど、
 この建物のようにゆっくりつくっていれば、
 装飾は自然につくられていくものです」と岡さん。

壁の一部には、分厚い大谷石もくっついていました。
これは一体、何でしょう?

「地下を工事しているときに出てきた石です。
 以前、ここにあった建物の基礎だったのでしょう。
 この出っ張りに土が付いて、
 どこからかタネが飛んできて、
 雑草が生えたらいいなと思ってます」

なんとこの建物では、完成のはるか以前から、
壁面の緑化が始まろうとしているのでした。


▲2階の高さまで建ち上がった外壁。
 庇状の出っ張りや大谷石などが付いている

■「部屋」が出きている!

中をのぞいてみましょう。
前の道路側から壁の間をすり抜けると、
そこには「部屋」ができています!

壁と床と天井に囲まれた内部空間です。
床の一部が地下に抜けていたり、
斜めに伸びる柱の向こうに空が見えたりと、
普通の住宅の室内とは違いますが、
ここは明らかに、建物の中に居ると感じられます。

「お客さんが訪ねてきたら、ちょっと座ってもらって
 話をする。そんな場所にするつもりです」

と岡さん。家の外と内の間にあって、
そのクッションとなるような空間になるようです。
伝統的な町家のつくり方になぞらえれば、
「みせ」の間でしょうか。

床には既に仮設の木の板が貼られていました。
これで寒い冬でも大丈夫そうです。
真ん中には卓球台にも見える
低いテーブルも置かれています。
これは以前、「岡画郎」にあったもの。
卓球の玉を打ち合いながら勝ち負けを決めず
世間話をするだけという映画「ビンボン」を
制作したときにつくったものとのことです。

ちなみに「岡画郎」は岡さんがかつて
高円寺で運営していたアートスペース。
「画郎」は誤字ではなくて、
ただのアパートの部屋で「画廊」の看板を出したら
大家さんに怒られたので、
自分の名前が「岡画郎」なんです、
と言い張ったところから、この書き方になりました。

工事はまだまだ続きますが、
この空間は人が集まる場所として、
今年の初めからでも使われることになりそう。
完成を待たずして、蟻鱒鳶ルは早くも機能し始めます。


▲入り口を入ってすぐに広がる内部空間。
 中央には「ビンボン」のテーブルが置かれている

 

■掘り出した石を宙に浮かべる

この空間でひときわ目立っているものがあります。
それは大きな丸石です。
宙に浮かんでいるように見えますが、
地下から伸びてきた柱に支えられています。
石の上面には小さな四角いくぼみがあります。

「これも現場で土を掘っていたときに出てきた礎石です。
 重さは300sくらいあるんじゃないかな」

この石をここまで運んできた先人の苦労は、
並大抵ではなかったことでしょう。
だからこそ、建物のここぞというところで使いたい。
岡さんはそう考えて、いったん掘り出した石を
埋め戻して保管していました。
それをいよいよこの場所に設置したというわけです。

「お客さんにとって、ここは庭なんです。
 そこに石を置いて、眺めてもらおうと思いました」

隣に眼をやると、梁の上にも小さな石がありました。
ふと思い出したのは京都の龍安寺。
枯山水の庭園は、敷き詰められた白い砂利の上に
平面的に石が配置されているだけですが、
ここにつくられようとしているのは、
それぞれの高さに石が浮かぶ
3次元的な石庭なのかもしれません。
果たしてどんな庭ができあがるのでしょうか、
今からとても楽しみです。


▲地下から伸びる柱の上に据えられた丸石。
 左脇の梁の上にも小さな石が載っている

 


岡さんのプロフィール
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