ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2011/02/22

【31】「顔」が見えてきた


■着実に進んでます

報告が滞って、前回の記事から
1年以上が経ってしまいました(スミマセン)。
2006年春に始まった蟻鱒鳶ルの工事は、
いまだ完成に至っていません。

当初の計画では、もうとっくに
出来上がっているはずでした。
岡さんは頭をかきかき、告白します。

「まずは自分の家をせいぜい3年間ぐらいで完成させて、
 その後は同じやり方で、
 頼まれた家をたくさんつくっていきたいと
 思ってました。
 ビジネスとしてやっていけるだろうと
 目論んでいたんです。でも5年になろうというのに、
 まだまだ自分の家ができあがらない。
 これじゃ誰も頼んでくれないですよね。
 これがスタートのはずだったのに、
 これが最後になってしまうかも‥‥」

そんな若干の弱気を見せつつも、
岡さんは焦る様子はありません。
なぜなら工事は着実に進んでいるからです。


▲前面道路から見た蟻鱒鳶ルの工事現場。

■ファサードができた

工事現場の目立った変化を挙げると、
1階のファサードが姿を現しました。
ファサードとは、道路に面した建物正面のことです。

まちの中に建っているたいがいのビルは、
つるりとした面でファサードがつくられています。
一方、蟻鱒鳶ルのファサードは、
丸い石が飛び出していたり、
三角形の穴が開いていたりと、
独特の表情をもっています。
壁の一部には縦長の大きな亀裂が走っていて、
そこは建物の入り口となる予定です。


▲一部が出来上がったファサードの前に立つ岡さん。

ファサードの細かなデザインは、
岡さんが自分で鉄筋コンクリートを打ちながら、
その時のノリでデザインを考えていきました。
壁面をよく見ると、カタカナで
「アリマストンビル」の名前が
浮かび上がっているところがあります。
表札の役割を果たすのかなと思いましたが、
「ス」と「ル」の字は見えません。

「文字をくりぬいた型枠でつくったんだけど、
 ちょっとミスってしまって‥‥」

で、その失敗箇所を
後からコンクリートの出っ張りで隠したのが、
現在の状態です。


▲ファサードに浮かび上がった「アリマ○トンビ○」の文字。

■ビルに「こんにちは」

ファサードとは、もともと「顔」という意味です。
顔はその人の心や人生を映し出す鏡のようなもの。
顔がないのっぺらぼうは、
いろいろな怪談話に出てきますが、不気味なものです。
私たちも電話で話していて、
顔がわからない同士だとなかなか話が進みません。
会ったことがなくても、
顔がわかると途端に話やすくなるものです。

蟻鱒鳶ルも、顔が見えてきたことで、
親しみやすさがぐんと増したような気がします。
ここでどんな建物が建てられようとしているのかが
伝わって、
工事現場の前を歩く人の認知度も高まることでしょう。

そんなことを思いながら、工事現場にたたずんでいると、
いきなりかわいい声がしました。

「こんにちはー!」

前の道路を、幼稚園児たちが先生に連れられ、
通り過ぎるところでした。
子供たちは、現場で働いている
岡さんに向かってというよりも、
工事中のビルに向かって
挨拶しているようにも感じられました。


▲冬の現場には欠かせない練炭コンロ。
壊れそうになったのでコンクリートで補強した。

 
 
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