ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2009/06/08
 

【27】工事開始から3年半。



▲工事現場に立つ岡さん

岡さんが、住んでいたマンションを追い出されました。
といっても、お金に困って夜逃げしたわけではなくて、
予定されていたマンションの建て替えが
いよいよ始まるのです。
この時期に引っ越さなくてはならないことは、
あらかじめ決まっていました。
「今ごろは新しい家が
 できているはずだったんだけど‥‥」と岡さん。
工事が始まって3年半が経っています。
当初のもくろみでは、セルフビルドとはいえ、
それぐらいの期間があれば、工事も完了する予定でした。
しかし現在の進捗状況はというと、
1階の壁と床がほぼできたという段階。
2階へと上がる階段を現在、つくっているところです。
完成はまだまだ先のことでしょう。


▲2階への上るための階段を工事中

工事期間が延びてしまったのは、
本来なら大型機械を使って
一気に進めてしまうはずのところを手作業に変えたり、
外注に出そうとしていたことを自分でやることにしたり、
そんな理由からです。
地下を掘る工事も、
もともとはパワーショベルを使って掘るつもりでした。

「できあがってしまえば、
 どうやって掘ったかはわからないので、
 機械を使えるところは使おうと思ってました。
 でも自分の手で掘り出してみたら、
 これが楽しかったんですよ」

土の特性というものを理解できたし、
土の中から出てくるムカデやヒルといった生物から、
東京にも実は大自然が残っていることも
実感できたと言います。

■思いもよらない発見

どんな建築をつくるか、
それを考えているという意味では、
岡さんも建築家のひとりでしょう。
でも、そのスタンスは大きく違っています。
建築家という職種は、
建物に関して何から何までデザインしようとします。
間取りや外観はもちろん、
窓周りや階段の手すりといったディテールまで、
図面をきっちりと描いて設計します。
壁に付けるコンセントの位置だって、
細かく気にするぐらいです。
だからこそ、例えば自分が設計した空間に、
意に沿わない家具が置かれていたら怒ったりもします。

「矛盾がない、整然とした
 コスモスをつくろうとしている。
 建築家は神様みたいな存在」

と岡さんは言います。
でも岡さんが今、やっていることは、
そうした建築家像とまったくかけ離れています。
少しつくってみては、
「うまくいかなかったな」と反省する。
つくり直すわけにもいかないので、
「しかたがない、次をつくるときになんとかしよう」
と挽回策を練る。その繰り返しです。

「自分がやっているにもかかわらず、
 ちっともコントロールできない」

でも時には、思った以上の出来になることもあります。
岡さん自身は失敗だったと思った開口部の箇所が、
現場を訪れた人から「ココはいいね」と褒められました。
見直してみると、形は確かに格好悪いけど、
そこから見える景色はなかなかに面白い。
「ナルホドなあ」とほくそ笑んだそうです。
何から何まで自分でつくっているにもかかわらず、
そこには思いもよらない発見が常に待ち構えている。
それが岡さんのセルフビルドなのです。


▲階段の裏側には奇怪な造形が現れている

■お小遣いは減額

ちなみに岡さん、現在は工事現場に近い場所に
別のマンションを借りて住んでいます。
そしてその家賃の分だけ、
お小遣いを減らされてしまいました。

「『新居の完成が延びたのは、アンタの都合でしょ』
 とカミさんから突っ込まれました。
 反論できませんでした‥‥」

ちょっとだけ、トホホな気分の岡さんなのでした。


▲木っ端を型枠にしてつくったトイレ部の壁

 
 
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