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宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」

 

darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の第6回目です。
制作のディープな部分にどんどん入っています。
そのお話をきくにつれ、darlingは、自分との共通点を
宮本さんのなかにたくさん見いだした模様。
そんな現場から、お届けです。

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宮本 ぼく、このゲームをどんなふうに
遊んで欲しいですかと言われたときに、
よく言っていたのが、
花札を一生懸命やってると、
お風呂に入っていても、
短冊が湯船に浮かんでるような
気になりますよね、っていうこと(笑)。
熱中したりすると、ね?
糸井 (笑)。
宮本 そういうふうにして、
ピクミンが見えなあかん、と思ったんですよ。
お風呂に入ったらピクミンが浮かんでるし、
庭歩いてたら足下にピクミンがいる。
わかりやすく言えば
「このゲームをやったあと、
 歩いていたら足下にピクミンがいて、
 踏みそうになる」
ふうになるものをつくろう、と。
……スタッフには、そういう
精神論が多かったかな(笑)。
糸井 いや、でも、それ、わかる。
宮本 そうなってほしいし、
30日遊んだところで終わりじゃなくて、
もう一度遊ぼうと思うように
つくったつもりやし、
何回も遊んでいるうちに
味が出てくるようにしたつもりなんです。
それがユーザーにも、
もっと伝わると思っていたんですが、
意外と……
「えっ、30日で、終わっちゃうんですか?」って。
糸井 ああああ。
宮本 「え? もうおしまい?」とか
「コースが少ないですね……」
とか言う人がけっこういて、
……どれくらいいるかはわからないんですが、
そのことがけっこう意外でしたね。
ゲームの発売を待っているときはそう思っても、
実際に遊んでもらうとそうじゃない、
ということを期待していたんですけれど、
わりとそうじゃないお客さんも
けっこういたみたいですね。
糸井 隠しナントカ、みたいのは、少ないんですか?

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宮本 少ないけど、さっき言ったように、
普通に遊んでいるだけでも
いっぱい見落としているものがあるはずです。
単純に、自分の戦略ゆえに、
見落とすものがけっこうあるので。
そういう意味では、隠してあるもの、
いくつかありますよ。
蜜が出るところがあったり、
温泉が出るところがあったり。
攻略ルートにも、
「よく考えればわかる」というルートが
イッパイあるんですけれど、
でも、……やっぱり、あまり隠してないな。
糸井 いちばん大きな課題は?

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宮本 ピクミンを一匹も殺さずにクリアできるか?
というものです。
糸井 それって、やれている人がいるんですか?
宮本 いますよ! でも、僕はできないんで(笑)
マリオクラブに頼んだんですけれど、
できるというのが証明されてます。
最近は、「そんなに上手じゃないけれど、
できましたよ」っていう人も出てきました。
糸井 はああ~!
一匹も殺さずにクリア!? すごい!

宮本 でもまあ、バーチャルですから、
少しくらい死んでもいいですよ、
それが遊びなんだから、って。
けど、殺したくないな、という気持ちが
湧いてくるようにつくれたのは、嬉しいな。
糸井 自分がゲームをさわらなくなって、
……どれくらいだろう? 
ほんとにさわらなくなって、
ピクミンで、久しぶりにさわったんですけれど、
「おんなじだ!」って思ったんです。
見たいものが、宮本さんと僕、
ずっと同じだったんだって。
ピクミンのコンセプトと、
自分が、重なる部分がいっぱいあって、
たとえば、MOTHERのときに
「フライングマン」というやつがいて。
宮本 ええ、ええ。そうですね!
糸井 あなたの意思で便利に使えるけれども、
殺すのもあなたですよ、という。
死んでしまったら墓を立てましたけれどね。
「フライングマンは不平を言わずに、
 勇敢に眠った」って、書いてある。
仕掛けをせずに、プリミティブな使い方で、
フライングマンを、完全に
「あなたのために生きる人」
にしたというところで、みんな、泣いたんですよ。
宮本 そうか……僕、パクってますね! それ!

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糸井 いや、パクってないですよ!
あの気持ちっていうのは、
おんなじ、だと思うんですよ。
あれを、そのあと、誰も、
触ってくれなかったんです。
あんなに面白いのに!
そういうところとか、
マリオのなかにはいっぱいあるけれど、
ドロップに数字が書いてあるっていうのも、
僕と同じセンスなんですよ。
そうしたほうが、楽しいから。
整合性はいらないからそっちにしよう、
というところとか、
MOTHER2のなかで
「地底世界」っていうので、
見えないくらいちっちゃいやつを動かして
敵をやっつけるとかってね。

宮本 うん、うん。
糸井 人が楽しみにしていることって、
世代の問題なのかどうかわからないけれども、
宮本さんと俺と、同じ体質の部分が、
にじみ出ているんだなって。
宮本 そうですよね。けっこう、
みんな持ってる部分なんですよね。
糸井 みんな持ってるんです。
なんやかんや言って、
どんな物語もギリシア神話のなかに
みんなあるよ、みたいな。
シェイクスピアはひととおり
カタログをつくっちゃったよ、みたいなことを、
ピクミンを見て思って、嬉しかった。
そうじゃない、ある一ジャンルのところだけを
延ばしていくっていうことを
ゲームの人はついやっちゃうものだから、
そこのところで、ジャマになっていたんだなって。
みんながみんな、ゲームの世界の人が
「こうでしょう?」って思っていたことって、
ちっとも「みんな」じゃなくって、
ある一部分のファッションなんですよね。

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宮本 そうですよね、ほんとうに。
糸井 単純化して遊びをつくろうとしたときには、
いろんな要素がね、俺でもやったなあ、
って思うことがいっぱいあって。
マリオのときやゼルダのときとぜんぜん違うのは、
今回、僕、ぜんぶ、フィットしたってことなんです。
マリオなんかだと、どうしても、
服装なんかに物語性が入るから、
どっかの資料だろうな、
どっかのところでこう決めたんだろうな、
っていうのがあるんだけれど、
ピクミンってぜんぶ素っ裸じゃないですか。
宮本 これ、ないですよ、なにも。(笑)
糸井 参考資料が作れないよね。
宮本 でもね、僕自身は、そうなんですよ、いつも。

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糸井 はあ~~~! そうなんですか!?
宮本 僕自身が描くものというのは、
年賀状描くときに動物の写真を見るくらいで、
あまり、資料を見ないんです。
ちょっと上手に書きたいときに見るくらいで。
オニヨンなんかでも、ラクな絵を描いて……
インディアンのテントのようなのを描いて、
骨組みがあって、この構造がいいからって、
その通りつくってもらったら、
ちょっと何か足りない。
テカテカしていったら、
古代の壺みたいになったんで、
最後のほうに足を曲げてもらって。
そういうふうに、
けっこう雑な作りをしているんですよ。
糸井 そうか……「パート2」は考えていますか?

宮本 ええ。
糸井 いいや、って捨ててしまったところを
ぜんぶかき集めると「2」ができるんですよね。
宮本 いちおう、「2」を想定しての伏線や
設定はあるんですよ。
舞台が●●だというのも、その一つです。
オリマーは3センチか4センチほどの人なんで、
こいつは人間じゃなくて、ここは●●や、って。
糸井 それ、……言っちゃ、だめですよね?

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宮本 ん、でも、ま、みんな感じるかなと思って。
だからラムネの瓶とかもありますし。
そういういろいろ布石を打っていて、
2、3をどうつくろうかなと言うものあるけれど、
ストーリーはあとの問題でね、
仕掛けだけはしているんです。
ピクミンを次にどういう形にしていくか、が、
この商品のイノチで、
周辺のグッズをつくるよりも、
ゲームの本体をどう展開していくか。
それを、3年ではなくて、
1年か2年の範囲でやりたい。
糸井 これも、すっごい短かったんですか、製作期間は。

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宮本 原実験は、長かったんですけれど、
これをつくったのは一年、くらいですね。
糸井 ……すばらしいねえ!
宮本 この次も、一年以内でつくれる自信は
けっこうあります。
糸井 いま、つくる・つくらないの判断は、
自分でしていいんでしょう?

宮本 そうですね、もともとそうなんで。
あとは現場とかみあうか、が、
いちばん大きなところ。
糸井 あ、もともと、そうなんですか! 
それはたしかにそうなんだけど、忘れていた!
宮本 よっぽど「やめとけ!」言われない限りはね。
「あかんと思うけど、ま、やったら」と言って貰える。
糸井 そのことが、ものすごく重要でしたね。
宮本さんにさらに決済をする人が必要だったら、
過労死してたね!
宮本 そうですね。僕自身が、現場に対して
これをキャンセルしかけたこともあるくらいの
階層でやってるんで、もう一個上にいたら、
諦めていたかもしれないですね。
糸井 (笑)。

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まだもうちょっと、続きますよ~!
2002-06-21-FRI