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宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」

 

darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の第三回目です。
宮本茂さんがピクミンを作るにあたって
スタッフに課した「制約」とは?
制作現場のことを、darlingが詳しく訊いてきましたよ!

糸井 ピクミンの話を聞いていて、ぼくが去年つくった
ディズニーDVDプレイヤーのことを思い出しました。
ミッキーの形をしたリモコンのついた、
「かんたんかわいい」というコンセプトのものなんですが
これ、最初、誰も売れないと言ったんです。
大きな小売店が、10台ずつしか仕入れないと言うほどに。
ところがモックアップ(実物大模型)ができて、
それを見せて営業してくうちに、
注文が増えていきました。
さらに日産自動車がプレミアムとして使ってくれた。
この話、ピクミンと一緒だなと思ったんです。
最初に、絶対にいいに決まっている、
というものを作ると、
周りの人はまず反対する。
そして、成功したあとに、
何もかかわっていなかった人たちが
「これは私が作らせました」
と言いだしたりするんです(笑)。
宮本 (笑)そういうのは多いほうがいいんですよ。

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糸井 アメリカ人が、
「日本を実験市場にして、私がやらせた」って(笑)。
最終的にどうなるかわからないけれど、
僕はそれがゲームだと思ってるんです。
コントローラーを動かさずに、
体当たりで動いていったほうが、
ゲームとしてはフクザツですよね。
そんなふうに宮本さんも
ピクミンをつくっていたわけですね。
「閉じていないゲーム」というのかな、
まあ、30日という時間は、
閉じているといえば閉じているんだけれど、
そこから先の「人間を動かす」ことを考ているかぎり、
閉じていないということなんですよ。
宮本 ええ。

糸井 「いいものをつくったら、売れる」
というけれども、いいものを作ったときに、
じかにコンシューマーや、
隣のおねえちゃんの気持ちはわかっても、
間に入っている問屋さんがどう動くのかとか
いろんな人がいいとか悪いとか言っているとか
そういうことを総合して「売れる」という現象が起こる。
ほかの人たちは何を考えているのか、
っていうのをまとめる「総合力」が必要なんです。
宮本 でもね、プレビューで、雑誌社に集まってもらったとき
ゲーム評価の点数が厳しいんですね。
育ったときに勇気をもって「俺は10点つけたよ」
って言うチャンスなのに、
マスコミがもっと動かなあかんよね(笑)。

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糸井 宮本さん、そこは僕の方が大人です(笑)。
息とめて10点つけるやつがいると
かえってめんどくさくなるんです。
何年か後に、ピクミンが違う市場を広げていたら、
「俺だけなんだよ、最初に10点をつけたのは」
って、そのとき10点なんかつけなかった人が
みんな、言いますよ。
だからね、そこは、最初からは、ムリなんです。
血盟団じゃないんだから(笑)。
宮本 なるほど、そうですね。
糸井 宮崎さんが「千と千尋」の初号が上がったとき
はじめて「できた」と思ったっていう話があります。
いままでの作品はその段階でも自信がなかったけれど、
今回はじめて、初号が上がった段階で自信がついた、
と言うんです。
宮本さんの「ピクミン」にも
それに近いような匂いを感じるんですが。

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宮本 これ、作り方が、珍しかったんです。
作っている途中で仕様書を変える、
ということは、よくあることなんですけれど、
いつもはできあがってくるまでわからないものなのに、
ピクミンは、仕様書ができあがってきて、
その内容をいくつか
プログラム組んだ段階で、
──その期間が二ヶ月くらいなんですけれど──
そこでけっこう「できた!」と思ったんです。
ゼルダとかは全く逆で、
「どうも、できてるはずなんやけど」ってやってきた。
ところがピクミンは、
大きく外れないという確信があったんです。
その段階では、すごく良くなるかどうかはわからないですよ。
ただ、「心に直接響く」ものが多いので、
まとまりが悪かったらそれはバランスが悪いだけや、
なんとかなるやろう、って。
30日で星を脱出する、とかっていうのは
ほんとうにテクニックの部分で、
そうじゃなくてもいいんですが、
そのほうが作りやすかろう、
というような作り方をしてきたんです。
糸井 一日のリアル時間の長さを決めるとか、ね。

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宮本 それも後で調整すればいい。
「できるな」と思ったのは、こういう瞬間でした。
ピクミンを投げますよね? これは、
投げたピクミンが敵にダメージを与えたり、
そのまま当たって下に落ちる、というのでは、
「ただの弾」なんですね。たしかに、
仕様としては「ピクミンを投げたら敵を攻撃する」
という一言で済むんですけれど、
そのままだと、これが、
どう見てもピクミンに見えへん、
というのが僕にすごくあったんです。ただの弾。
生きものなんだから、やっぱり
「投げつけられた、おまえ、食いつくだろう?」
というので、仕様を変えたんです。
プログラム的にはたいへんなんですよ、
背中に食いつく、というのは。
今までのゲームではやってないことです。
「ヒット」に、へばりつくという処理はないんです。
だからそれをつくった。それから、
敵がピクミンを倒す、というのでも、
それは「食う」わけやから、
「ばくばくと口で食う」というのをつくった。
ところがバグがでて、口の周りにひっかかったまま
ずっと歩いていたりする。
それを見たときに「これはいける、とにかく」
と思ったんです。
つまり、ピクミンをどう見せるか、を
もっともっと作り込んでいけば、大丈夫だ、と思ったんです。
ゲームはあとから考えるから、というところに
絞り込んだところで、けっこう、
なんとかなるかな、と思ったんです。

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糸井 そうか、「弾」の扱いに、
いったん、仕様的には、なってるわけだ。
宮本 なるんです。どうしても。
最初はけっこう、崇高なことを考えていたんですけれど。
ディレクターは
「アダムとイブという生物がいて、
 それは豆からできた生物で
 それが暮らしていく営みを
 ずっと観察していくゲームをつくりたい」と。
それはええよね、って、作り始めたら、
やってるうちにどんどん俗っぽくなっていって、
何が作りたかったのかわからなくなって(笑)。
最初はゲームシステムじゃなくてコンセプトなんですね。
それが面白い保証はないんですよ。
焦ってくるとどんどん「ゲーム」にしようとする。
ゲームにしようとすればするほど
意味のないものを付け足すようになっていく。
悪循環を繰り返していて。
そのなかで、けっこう、突破口になったんです。

糸井 動きをオーバーにする効果が
アタマのてっぺんの植物で
すごくうまくできましたよね。
食いつくだとかなんとかを
ちっちゃいまま表現するんじゃなくて
上に葉っぱやつぼみや花がついてることで
オーバーアクションというか
表現が、すごくラクになりましたよね。
あのへんを、宮本さん、
マリオのときから人に感心されていたけれど
ちっちゃいキャラを食いつかせる、
目を引きつける、というのは、
宮本さんの歴史と伝統だよな、と思います。
いままで練習してきたものが
ぜんぶこの中に入っていて。
……そうか、「敵にくっつく」のは
俺達、当たり前のように見ていたけれど
じつは異様なことだね。

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宮本 プログラム的にはけっこう
たいへんなことをしているんですよ。
「みんなで持つ」とかね。
最初から「みんなで持つ」ようになんて
プログラマに言ったら
「できない!」って言われるのわかっていたから
最初、円いドロップをつくってもらったんです。
それを持てるようにした。
「これが持てるようになったんだから
 このような形のものなら持てるよね?」
っていうふうに、現場を進めたんです。
そういう意味では
既成概念を除くのが大変だった。
いちばん大変やったのが
「ゲーム業界用語を使うな!」ということなんですが(笑)。
糸井 ええっ!?(笑) いいねえ……!

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宮本 その制限をかけると、
自分自身で仕様書を書いていても、
可笑しくなるくらいですよ。
自分が「敵を倒す」って書いてしまうんですよね。
人の仕様書にダメ出ししながら
ゲーム業界用語には便利な言葉がいっぱいあるのに気づく。
「この言葉しかないよなあ」というものが。
けど、その便利な言葉に、
あまりにみんながはまっているのを
なんとかしたかったんです。
また、これがゲーム業界の特殊なところで
少し「俺達はゲームなんかしてるダメなやつ」
なんていうコンプレックスがあるんですね。
プログラムや技術の人たちは
学歴が高くて勉強ができる。
私のようにデザインの人間は、美大行ってても、
勉強できなかったから、なんていう
コンプレックスがあるので
つい、えらい言葉を使うんですよ。

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糸井 暴走族が漢字を使う、っていうように(笑)?
宮本 日本語としてこんな言葉使わないだろう?
というものが、ゲーム業界に蔓延していて。
プログラマのなかでは
ランダムを使ったり、計算式があったりするから
専門用語を使うこともあるんですけれど
文章を書いたり、絵を描いたりしている人間が
「ランダムに物が発生する」なんて言わないでしょう?
ところがゲームの仕様書にはそういう言葉が
いっぱい使われている。
それを添削していって。
「外せ、こういう言葉を!」って。
敵とか味方とかいう言葉、
戦う、という言葉、そういうものを
使わずにゲームを作ろう。
ピクミンは「暮らしている」わけだから。
それを徹底しようとしたんですよ。

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次回に続きまーす!
2002-04-19